「僕は井上円了さんなどに対しては徹頭徹尾反対の意を表せざるを得ない」――『遠野物語』を著した柳田國男は、そう言って妖怪撲滅に邁進する円了のスタンスを徹底的に批判します。対する円了は『おばけの正体』を上梓して……。日本民俗学の黎明に刻まれた、妖怪をめぐる仁義なき戦いをご覧あれ!
(前編「妖怪博士と呼ばれた哲学者 彼が妖怪の撲滅に命を懸けた理由とは?」はこちらから)
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「迷信」か「民間信仰」か
妖怪など迷信にすぎない。それはそうだとしても、私たちは長いあいだ妖怪がいると信じてきた。これはまぎれもない事実である。
ありえないものを信じつづけてきたというその事実のなかに、日本人のものの考え方や感じ方を理解するための大事な手がかりがひそんでいる。そうした視点から、妖怪の研究に真正面から取り組んだのが柳田國男である。
日本民俗学を開拓した柳田は、妖怪に対する円了の姿勢を批判した。
円了は妖怪の言い伝えのもとになっている迷信を否定しようとしたが、柳田にとっては妖怪が迷信か否かは問題ではない。そもそも「迷信」という言葉は使わず「民間信仰」と記している。柳田の場合には、むしろ人々が妖怪を信じて恐れるという思いを捨ててしまうのではなく、なぜそんなものを信じてしまうのかを理解する。それこそが重要だと考えたのである。