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2022.12.14

『シン・ゴジラ』の「あの奇妙なラストシーン」は、自然界では「普通」のこと…現代科学からみるSF作品のおもしろさ

専門分野と重なる部分のあるネタを扱ったSFを観た/読んだ研究者はどういうことを考えるのか。

SF監修を依頼された研究者はどんなことをして、作品にはどのように反映されるのか。

『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『仮面ライダービルド』『三体』『天気の子』を題材に、それらについて教えてくれるのが『別冊日経サイエンス 研究者が語る空想世界』(日経サイエンス社)だ。研究者向けではなく一般向けの科学雑誌の面目躍如、「日経サイエンス」らしい「科学から見たSF」がぎっしり詰まっている。

PHOTO by iStock
 

クリエイターのこだわりと研究者らしいガチな監修や考察が引き起こす化学反応

大学をはじめとする研究機関に所属している科学者が、専門知識を活かして「SF考証」に協力しているケースは少なくない。海外でも映画『インターステラー』などに物理学者が関わっていたし、日本でもアニメや特撮を中心に、作品世界に「それらしい」と感じられるリアリティを加え、作中の理屈を考えることに対して、様々な分野の研究者が依頼を受けて臨んでいる。

『研究者が語る空想世界』を読むと、さすがその道のプロが参加しているだけあって、一般の視聴者はほとんど気にしないだろうレベルのことまでチェックをしたり設定のアイデアを出したりしており、時には採用されていることがおもしろい。

たとえば『天気の子』には気象庁気象研究所の荒木健太郎が協力しており、絵コンテを見てどんな雲のかたちや雲間から差し込む光ならばリアリティがあるかについてコメントをしたものが反映されていたり、作中で夏の関東に雪が降るシーンでは、2014年2月に関東が豪雨と豪雪に同時に見舞われた事例を元に荒木が作図した天気図が登場する。

雪とともに一時的に雹(ひょう)が降るとか、高度50~90キロメートルで起こる「スプライト」と呼ばれる上方に伸びる赤い光(放電によって生じるもの)の描写など、クリエイターのこだわりと研究者らしいガチな監修があいまって、「そんな細かいところまで実際の自然現象に近づけて描いていたのか……」と思わされる制作の裏側が垣間見える。

あるいは、『シン・ゴジラ』では、ゴジラが放出した新元素は20日間程度安定的に存在する設定になっている。ところが現実世界では、「超重元素」(104番以降の超ウラン元素)の寿命(半減期)は1秒よりもはるかに短く、合成された次の瞬間には放射線を出して崩壊してしまう。とすると、作中に登場するのは新元素の寿命の長さを合理的に説明するのは難しい――と思いきや、理論的には超重元素の未合成の同位体の中に「安定の島」と呼ばれるきわめて長寿命のグループがあると考えられている、という話が『シン・ゴジラ』制作のための取材に協力した広島大学の長沼毅教授(応用環境生命科学)や東京工業大学の松本義久教授(放射線生物学)から飛び出す。

ゴジラが移動しながらまき散らしているものが一体なんなのかという謎は、作品を引っ張るキモの部分のひとつだ。そういう設定のコア部分に関して「現実と照らし合わせてどの程度の話なら『ありそう』と思えるか」を専門家の意見を借りて作り込んでいること、そして作中に出てくる情報以上の考察を研究者たちが展開していくのがおもしろい。

また、こちらはオフィシャルでそういう設定であるというものではなくあくまで「読み」の提示ではあるが、『シン・ウルトラマン』に関しても、ウルトラマンの世界ではスペシウムは133番元素とされる超重元素であり、やはり、それが原子核物理学者が探索している「安定の島」なのであれば、そこからの核エネルギー利用についてリアリティあるシナリオを描ける――とんでもない威力のスペシウム光線等々の説明が付く、という見方が、理化学研究所仁科加速器科学研究センター所属の原子核物理学者・延與秀人・同センター理研BNL研究センター長によってなされる。

ゴジラやウルトラマンの世界において「元素」という要素はここまで重要(なものとして読み解けるもの)だったのか、自分はこれまで何を観ていたのだろう、と改めて気付かされる。

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