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ウクライナ情勢は、Netflix「ウィンター・オン・ファイヤー」を見てから語れ

徹夜で見た猪瀬直樹がウクライナ関連映画を一気にレビュー(後編)
100年前の戦争の歴史は過去形ではない。現下のウクライナ戦争は、100年前に起きた戦争の歴史の連なりなのだ──前編に引き続き、猪瀬直樹がウクライナ関連の映画を一気にレビューする。

ウクライナ政府軍VS親ロシア武装勢力の攻防戦

前篇に引き続き、ウクライナ情勢を考えるための重要な映画を紹介したい。4番目に僕がオススメしたいのは、2018年に作られたウクライナ映画「バンデラス ウクライナの英雄」だ。

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いきなり映画を観始めると、いったい誰が誰と戦っているのかチンプンカンプンになってしまうかもしれない。まずは「マイダン革命」というキーワードを頭に入れておこう。

ウクライナ危機の火種に着火したキーパーソンの一人が、ヤヌコビッチ大統領だ(2010年2月〜2014年2月在任)。ヤヌコビッチはウクライナとEU(ヨーロッパ連合)の連合協定締結を約束していたのに、2013年11月、親ロシア派に寝返る。

怒れる民衆は首都キエフの広場に集結し、流血を厭わず特殊部隊との衝突を繰り返した。デモ隊はとうとう100万人が参加するまでに勢いを増す。一連のデモ活動は「エブロマイダン」(Euromaidan=ウクライナ語で「ヨーロッパの広場」)と呼ばれる。

2014年2月、ウクライナ議会はヤヌコビッチ大統領の解任を決議する。「エブロマイダン」の勢いに恐れをなしたヤヌコビッチは、ウクライナをほっぽり出してヘリコプターでロシアに逃亡した。ロシアの言いなりになり、約束を守らなかった大統領にキエフの民衆は心底失望した。彼らは立ち上がり、「マイダン(独立広場)革命」を成功させたのだ。

「マイダン革命」が進む真っ最中、ロシアではソチオリンピックが行なわれている(2014年2月7〜23日)。オリンピックが終わるや否や、ロシアは3月1日にウクライナ南部のクリミア半島へ侵攻する。そしてたちまちクリミアを実効支配してしまった。

さらにウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州で、親ロシア派武装勢力が猛威を振るう。彼らは名ばかりの「住民投票」を断行し、2014年5月にドネツク州とルガンスク州のロシア軍支配地域で、一方的に独立を宣言した。

――ここまでの流れをおさらいしたうえで、映画「バンデラス ウクライナの英雄」を観始めるとわかりやすい。ウクライナ政府軍と親ロシア派武装勢力は、もともとは同じ国民であるにもかかわらず、お互い疑心暗鬼を抱き殺し合いを進める。映画の冒頭、民間人しかいない乗り合いバスにロケットランチャーをぶっぱなす場面は強烈だ。

2014年の戦争がいったん休止したものの、ロシアがいつまた襲ってくるかわからない。そんな不気味さと底知れぬ不安のなかで、この映画は製作されたのだろう。そしておそるべきことに、この映画のエピローグとしてのウクライナ戦争が現実に勃発してしまった。

 

それにしても、映画に出てくる親ロシア派武装勢力の言い分は、まさにプーチン大統領の主張そのものであることに今さらながらハッとする。今後ウクライナが戦争に敗れれば、プーチンの息がかかった傀儡政権が樹立されるだろう。ロシアの謀略・宣伝工作活動は巧妙だ。映画に出てくる村人たちのように、ウクライナの人々はプーチンに洗脳され踊らされてしまうのではないか。

この映画は、味方の中にエージェント(敵側から送りこまれた斥候)がいるのではないかと探るスパイ合戦の側面もある。サスペンス映画としても引き込まれるため、最後まで飽きることがない。現在起きている戦争の背景を理解するために、今こそ「バンデラス ウクライナの英雄」を観ておこう。

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