外交関係者、騒然…!
「YA論文」が初めて登場したのは、4月10日、『アメリカン・インタレスト』という米国の保守系外交専門誌(電子版)である。何より注目すべきは、『アメリカン・インタレスト』がこの論文の執筆者を「匿名の日本政府高官」と紹介したことだ。執筆者のイニシャルがYAであることからYA論文と呼ばれている。
日本でも大きな話題となっても良さそうなものだったが、あいにく世界中が新型コロナ騒動に明け暮れていた時期であり、当座はほとんど黙殺に近い状態であった。
それでもYA論文の存在は、じょじょに知れ渡って日米の外交コミュニティに波紋を投げかけるようになる。これを読んだアメリカの民主党系アジア専門家が怒り狂ったとか、外務省内で犯人探しが行われている、といった情報が乱れ飛んだものである。
コロナ騒動がやや一段落した6月頃になると、YA論文に対する反論があちこちに掲載され始めた。これらを読み比べてみると、日米の専門家の間で真面目な外交論議が展開されており、11月の米大統領選に向けてますます注目は高まりそうだ。以下はその全容を簡単に紹介するとともに、今後の米国外交や日米関係についても言及してみたい。
まずYA論文は、こんな書き出しで始まる。
トランプ大統領に対する日本の政策エリートたちの見方は複雑だ。外交エキスパートがいまのホワイトハウスの住人たちを論じれば、たちまち批判続出となろう。だが、彼らに対してオバマ政権が懐かしいか、と尋ねれば、当人たちは即座に否定するだろう。それももっと強い調子で。
今のトランプ外交は問題だらけだが、それでも日本から見ればオバマ時代よりもマシである、とYA論文は言い切っている。それはオバマ大統領が中国に対して甘過ぎたからであった。オバマ政権は最後の日まで、中国は「変えられる」と信じていた。中国がアジアの近隣国に現実的な脅威を与えていたにもかかわらず、当時の米国は気候変動や難民問題、核セキュリティなどの「グローバルイシュー」で中国に協力を求め、その代わりに尖閣諸島や南シナ海での行為を不問に付した。