二つは、米国の圧力である。文大統領も触れたように、日本にとって韓国は、大陸方面からの防波堤の機能を果たしてきた。結果的に日本は過大な負担を背負わされることになるが、20世紀初頭には、日本は朝鮮半島を併合してまで防波堤の機能を重視してきたのである。
第二次世界大戦後は、その防波堤を強化する上で、米軍のプレゼンスが不可欠な役割を果たした。韓国は日本の地政学的弱点と、現在の憲法上の制約を理解しており、周辺事態への対応において、米国に依存せざるを得ない日本の急所を狙ったのである。
実際これまで日本は、朝鮮半島問題等をめぐる情勢変化の中で、米国の要求を受け入れて政策を変更してきた。
米国は日本に対して、朝鮮戦争の際には自衛隊の創設を(自国防衛と国内の治安任務を日本が実施するために)、冷戦期は作戦計画に応じて米軍の駐留を(朝鮮半島での作戦計画において、日本は戦略的な後背地として役割が求められた)、そして冷戦後は米軍との共同作戦への参加を(周辺事態法や日米安全保障協力のガイドラインを通じて)、それぞれ求めた。
この歴史を理解している韓国は、米国が日本に圧力を加えるように、米国の戦略を「人質」にとったのである。
GSOMIAは米国とって、非効率で非合理的な北東アジアの安全保障協力を健全化し、日米韓の三ヵ国が、同盟関係にまで発展しないにせよ、情報協力を通じて能力の相互補完が可能となる重要な措置である。
また、北朝鮮問題の先に、中国やロシアとの戦略的対立の激化が予想される中で、日韓両国は重要な安全保障上の資産でもある。日韓両国の対立は、米国に選択を迫る結果になり、協力関係の相乗効果が失われる。繰り返し指摘されるように、韓国は日本との諍いで、米国による仲裁を期待したのである。
ただし、韓国にすると、米国の仲裁は日本に対する圧力に転換されなければならず、自国への一方的要求になるとは想像していなかったのであろう。
日韓GSOMIA破棄を回避するため、11月22日の破棄期限直前に、国防総省の長官をはじめとする軍事・安全保障や、地域政策の部門の高官が文字通り総がかりで文大統領の説得に動いた。
米国は文大統領の希望通する日本の説得には動かず、米国の圧力を使用する戦術は、逆に自分に対する極めて強い圧力として返ってきた。
米国は米軍の韓国への駐留経費の負担増、さらにはGSOMIA破棄が露中や北朝鮮の利益に貢献すると直接指摘するなど、「レッドチーム」入りのコストの高さを見せつけ、韓国の譲歩を迫ったのである。