日本は完全に取り残されている…
この飼育方法はあまりにも残酷だと消費者が声を上げ、欧米を中心に1960年代から議論が始まり、法律が作られ、市場が変わり、スーパーの棚が様変わりするに至った。
日本のスーパーには飼育方法が書かれていないバタリーケージの卵がズラッと並び、運が良ければ平飼い(屋内の地面に放して飼育する方法)の卵が一列ある程度だが、欧米のスーパーの棚はオーガニック卵、放牧卵が大半を占めている。
加工食品に使われる卵も含め、国内で流通する卵の半数以上がケージフリーになった国も多数出てきた。
アニマルウェルフェア(動物福祉)は、食の安全性を高め、社会の福祉にも役に立つと、国連食糧農業機関(FAO)や世界動物保健機関(OIE)、世界貿易機関(WTO)、アジアでも取り組みが広がっている。
ケージフリーまで届かないものの、韓国は今年7月から鶏の飼育面積を現行の500平方センチメートルから750平方センチメートル、つまりEU並まで広げると発表した。日本は370平方センチメートル以上 430平方センチメートル未満の農家が最も多い2。
日本の農林水産省もアニマルウェルフェアを掲げるようになっているが、その中身は具体的ではなく、バタリーケージの中でできることをやろうといった内容にとどまる。
日本では畜産動物の状況がずっと隠されてきており、企業を含めた市民の認知度、意識が低く、それが世界から大きく遅れを取る原因となっている。
実は投資にも影響している
意外に思うかもしれないが、畜産のアニマルウェルフェアは投資にも影響が及んでいる。
284兆円を運用する機関投資会社23社が、アニマルウェルフェアに関する宣言に署名しており、アニマルウェルフェアや畜産のリスクを考えることは、海外投資家の投資の際の指標の一つになりつつある。
ケージフリー宣言を多くの企業がする背景には、アニマルウェルフェアに取り組まなければ儲からなくなるというところも大きいようだ。
生産者だけ負担を強いるのは間違い
卵の価格の問題も気になるところだろう。
EUでは、法的にバタリーケージが禁止になった2012年は卵の価格が1.4倍になったが、その後落ち着き、2016年にはなんと2011年の価格よりも低くなっている。
設備投資のための費用負担が解消されたようだ。米国は現在業界側がケージフリーの流れに逆らうべく価格競争を繰り広げているようだが、これもしばらくすると落ち着くだろう。
土地に関しては、日本だけでなくデンマークやオランダなどの国土の狭い国も同じ問題を抱えるが、ケージフリーは実現されつつあるし、エイビアリーシステムという多くの鶏を飼育できるが面積をとらないシステムも開発されている。この普及は日本でも必須になるだろう。
しかし生産者にだけ負担を強いるのは間違っている。
まず前提として知ってほしいのは、鶏卵に使われる濃厚飼料の国内自給率が14%3と低いこと。飼料を輸入するため、日本の畜産物は他国のものよりも一定割合高価格になっている。
例えば豚肉だと国産豚肉は輸入豚肉の1.79倍の価格だ4。しかし、国産卵は輸入卵のたったの1.28倍の価格だ5。卵の価格はもともと不当に安いといえる。
アニマルウェルフェアに配慮するだけの価格を払い、さらにそこに適正な対価も支払うべきであろう。
しかし、大量生産自体が鶏を追い詰めていることも事実であるため、卵の消費量を減らしながら、良いもの=平飼いや放牧の卵に適正な対価を支払うことが良いのではないだろうか。