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2015.04.17
# 雑誌

なぜあいつが役員に? なぜあの男が社長なんだ? 『パナソニック人事抗争史』元役員たちは、こう読んだ(下)

週刊現代 プロフィール

相談役に退いてからの谷井は、親しい側近たちを前に、森下は何にも相談にこんもんなあ、と零すようになったという。

元技術担当役員は、こういう点が谷井さんの甘さと指摘したうえで、こう語った。

「特に指示されたわけではないでしょうが、森下は、常に正治会長の意向を忖度した経営をはじめた。だから、坊主憎けりゃ袈裟までといった具合で、谷井さんが仕掛けてきたイノベーションの数々を粉々に粉砕してしまったのでしょう」

谷 井が苦労して買収した米国の総合メディア企業MCA(現NBCユニバーサル)を、森下は、破格の値段でカナダの洋酒メーカー・シーグラム(現ビベンディ) に売却。来るデジタル時代に向け、谷井たちが仕掛けてきたビジネスプランは、潰えることになった。しかし森下自身は、それに代わる新たなビジネスプランを 打ち出せないまま、社長任期を終えている。

人事とはいかに難しいか

再び、「客員会」の重鎮のひとりが言う。

「本 書を読みながら感じたことは、森下のあとを継いで6代目社長となった中村も、気の毒な面があるということです。森下から社長を引き継いだ時点で、経営はガ タガタになっていたから、短期間で立て直すためには、反対者を外し、自分がコントロールしやすいイエスマンばかり集めていかざるをえなかったんですな。そ の結果が恐怖政治となり、さらに会社をおかしくしてしまった」

「パナソニック人事抗争史」(岩瀬達哉著 講談社刊)

的確な経営戦略には、不断の見直しや、再吟味が不可欠だが、中村は、経営立て直しを焦るあまり、プラズマ・ディスプレイに社運を賭けた。そして経営資源をプラズマに集中投下したものの、その事業の失敗とともに、経営を大きく傾かせてしまった。

そのあとを継いだ7代目社長の大坪文雄もまた、中村路線を踏襲するだけで、経営方針の再吟味を怠り、傷口を広げただけだった。

だからこそ、8代目社長に就任した津賀一宏は、「組織を縛り上げてきた鎖」を切り、「タブーを恐れず本音を言い合い、俊敏に反応できる」会社に立ち戻ることを、全社員に求めたのである(『One Panasonic』2012年7月号)。

いまや、その「負の鎖」も断ち切れつつあるように見える。3月26日に公表した「2015年度■事業方針」で、営業利益を当初の3500億円から4300億円に上方修正するなど、経営は立ち直りつつあるからだ。

「ただ、今がいいからと過去を曖昧にすると、せっかくの失敗を生かせない。過去のことは、改めてしっかり検証する必要があると痛感します」(前出、元経理担当理事)

失敗もまた元手が掛かった資本である。人事とはいかに難しいか—本書はそんな普遍的テーマを突きつけている。

(文中敬称略)


「週刊現代」2015年4月18日号より


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