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10万人が視聴した『アイドルマスター』星井美希SHOWROOM配信の裏側【前編】勝股Pが配信を決断したきっかけ

2020年7月11日に配信され、視聴者数は約10万人にもなった「THE IDOLM@STER 765プロダクション所属星井美希特別生配信」 in SHOWROOM。勝股春樹プロデューサーにこの配信の裏側を前後編に渡り語っていただきます!『アイドルマスター』ファンのみならず多くの人を驚かせ、元気づけたこの配信はどのように企画されたのでしょうか?

2020年2月から3月にかけて予定されていた「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC GROOVE♪ENCORE☆(以下、MR ST@GE!!)」の星井美希主演公演の中止を受けて、SHOWROOMで開催された「THE IDOLM@STER 765プロダクション所属星井美希特別生配信」 in SHOWROOM。

星井美希がリアルタイムで視聴者と触れ合ったこの配信は、約10万人が視聴し、大きな話題となりました。今回はその裏側を、勝股春樹プロデューサーにインタビュー。前編では、「MR ST@GE!!」の中止から生配信が実現するまでの経緯や制作チームの想いを聞きました!

新型コロナウイルス感染症が流行するなかで、勝股Pが探ったエンターテインメントの可能性

惜しくも一部公演中止となった「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC GROOVE♪ENCORE☆」

――2020年は『アイドルマスター』15周年ということもあり、シリーズのさまざまなライブイベントが予定されていましたが、その多くが新型コロナウイルスの影響で中止/延期になりました。2月に予定されていた「MR ST@GE!! ENCORE」の星井美希の主演公演もそのひとつでしたが、皆さんは当時どんなことを感じていたのでしょうか?

勝股:星井美希の公演の場合、すでに仕込みも済んでいて、最終リハのさなかに中止が決定した形だったので、8割方やる気で準備を進めていたなかでの中止となりました。ですので、僕としても相当悔しかったのを覚えています。

そもそも、今回はDMM VR THEATERが今年の4月で閉館することが決まったなかで、最後にここで一花咲かせたいという気持ちも込めた公演でした。また、中止になった(天海)春香、(三浦)あずさ、美希の3公演の中で、春香とあずさは以前にも主演公演を開催していたのですが、美希だけが一度も実現できないことになってしまいました。

現場のスタッフの皆さんが、「MR ST@GE!!」に向けてがんばってくださっていることは僕らもよく知っていましたし、何よりプロデューサーさん(『アイドルマスター』ファンの総称)が待ち望んでくれていたものがやっと実現できて、チケットも完売になった、多くの方が楽しみにしてくれていた公演だったので、あの時は本当に悔しかったです。

勝股春樹プロデューサー
第2IP事業ディビジョン 第1プロダクション2課 チーフ 勝股春樹プロデューサー

――皆さんの公演に対しての熱量を感じていたからこその悔しさですね。

勝股:そうですね。中止を発表した時も、プロデューサーさんたちは「今回はしょうがない。次に期待しています!」と言ってくれたのですが、同時に本当に残念に思っている気持ちも伝わってきて。なんとかしてその気持ちに応えたいと思っていました。

その後、緊急事態宣言などもあって、外に出てエンターテインメントを楽しむことがどんどん難しい状況になっていった時に、このまま「できませんでした」で終わっていいのか、むしろこういう時だからこそ少しでも前向きになれて、楽しめることを考えて届けてなんぼのエンタメ業界じゃないか、という気持ちが日に日に増していきました。

そんな中で、「MILLIONSTARS特別生配信~手作りのThank You!~」、直近では「THE IDOLM@STER 765PRO ALLSTARS 15周年記念特番 M@STER WEEKEND☆」など、さまざまな代替施策を進めていくことになるのですが、同様に美希の企画についても何かできないかと可能性を探っていったんです。

きっかけになったのは、ひとりの『アイドルマスター』ファンのエンジニア。SHOWROOMとの連携

勝股春樹プロデューサー

――そのなかで、SHOWROOMで生配信するというアイデアが出てきたんですか?

勝股:はい。様々な方向を模索したのですが、当時の状況ではリスクの面からできることが少なすぎて「配信でやるしかないのかな?」と思うようになりました。しかしライブは空間エンターテインメントで、会場にある熱量も含めての体験です。一方で、配信のコンテンツではそうしたライブならではの楽しさが減ってしまうかもしれない、という心配がありました。そうなってしまうのなら、むしろやらないほうがいいとも思っていたので、ほかに何かもっといい方法はないかとずっと考えていました。そうしていたら……実は、SHOWROOMさんのほうから連絡をいただいたんですよ。

――ええっ、SHOWROOMさんのほうからなんですか?

勝股:これは本当に不思議な縁だったのですが、ちょうどそのタイミングでSHOWROOMさんから、「『MR ST@GE!!』が中止になったことで、うちの『アイドルマスター』が好きなエンジニアがへこんでいます。もしもなにか代替企画を考えているようでしたら、SHOWROOMで何かお手伝いできることはありませんか?」と、お声掛けいただいたんです。

――なるほど。SHOWROOMに”アイマスP”(プロデューサー)さんがいらっしゃったんですね。

勝股:そうなんです(笑)。『アイドルマスター』を愛してくださる方々の気持ちが繋がったからこそ生まれたご縁に感動しましたし、「エンタメ企業としてなにかしたい!」という同じ熱意も感じて、じゃあ本格的に考えてみようと。

――思えば、2018年に「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」がスタートした時も、会場となったDMM VR THEATERに飛び込みでお話を持って行ったところ、『アイドルマスター』を好きな方々がいらっしゃってスムーズにお話が進んだんですよね。

勝股:そうですね。今回も当時と同じで、『アイドルマスター』を好きでいてくださる方々の気持ちが企画に繋がったので、僕も熱くなって、「絶対にやってやろう!」という気持ちでした。

美希の実在性は、生配信を視聴したプロデューサーさんたちによって完成した。MRの新解釈とは?

事務所から生配信をする星井美希
事務所から生配信をする星井美希

――では、主演公演ができなかった星井美希が、ステージではなく765プロの事務所から生配信する、というアイデアはどんなふうに生まれたのでしょう?

勝股:「THE IDOLM@STER MR ST@GE!! MUSIC♪GROOVE☆」は、”3次元の現実世界にアイドル達がいること”を体感できることが一番の魅力です。なので代替企画でも、あくまでこちらの世界線に寄り添うものにしたい、と考えていました。

そこで、DMM VR THEATERは閉館して他のステージも使えそうにない状況のなか、それでもなんとか届けたいという思いから、最終的には美希自身が「事務所から配信しよう」と考えた、ということですね。

――あくまでも765プロの事情と、美希の判断ということですね。

勝股:また、これまでやってきた「MR ST@GE!!」はリアルタイムでアイドルたちとコミュニケーションができる双方向性が大きな魅力だったので、僕らとしては、その魅力をSHOWROOMの配信でどう出せるかを考えました。

MRは「複合現実」という意味の言葉ですが、映像にアイドルが出てくるだけでは不十分で、そこにプロデューサーさんが働きかけて、それに対してアイドルが反応することではじめて、リアルとバーチャルの双方向の干渉が成立し、その境目がなくなる感覚が生まれます。

つまり、プロデューサーさんが関わってくれることではじめて、アイドルの実在性が完成する―という前提を大切にしたうえで、美希がアイドルとしてファンの皆さんに元気を届けられて、美希のプロデューサーさんに「ありがとう」と伝えられる、そんな場所を作りたかったんです。

15年間の愛の蓄積によって、MRが成り立ち、美希がリアルタイムで動けるようになった。配信に込められた「愛の重さ」

「Day of the future」 を歌う星井美希
「Day of the future」 を歌う星井美希

――当日の配信は、美希がプロデューサーさんたちと相談してその場で配信番組名を変更したり、冒頭に美希がカメラ位置を調整したりするなど、生配信ならではの魅力が全編にたくさん詰まっていたように感じました。

勝股:「手作り感のあるものにしたい」と思っていたので、生配信ならではの臨場感をなくさないためにも、基本の構成以外の内容は事前に決め込みすぎないようにしていました。つまり、ほとんどアドリブということです。これができるのは、15年間続けてこられたタイトルだからだと改めて思います。15年もの間、『アイドルマスター』にかかわる人たちが積み重ねてきたクオリティがあるからこそですし、それをプロデューサーさんたちが支え続けてくれたからこそなので。15年間の”アイマス愛”の蓄積によって、美希がリアルタイムで動けるようになって、そこにリアルタイムで配信を観てくださっている方の愛が加えられて、MRが成り立つという――。たくさんの思いが一瞬に集まってこの放送をつくっているのだと思うと……僕も当日は、思いきり感動してしまいました。

そういう意味でも、765PRO ALLSTARSのイベントに関わると「継続は力なり」という言葉の意味を特に感じます。だからこそ、未来に繋げていくことも僕の役割だと思うんです。

勝股春樹プロデューサー

――ほかにも、皆さんが今回の配信で意識していたことはありますか?

勝股:「MR ST@GE!!」はもともと、DMM VR THEATERというクローズドな空間で開催されてきたイベントでしたが、そこで信頼するプロデューサーさんたちに観てもらい、好評をいただいたことによって、僕らとしても「これをもっと外に広げてみたい」という自信が出てきました。一度、亜美真美(双海亜美&双海真美)の2人が配信番組「ゆくM@S くるM@S 2018」に出演した時の反応を見ても、外に出せるクオリティになっているんだな、という手応えがあったので、「もっとたくさんの人に見てほしい」とも思っていたんです。なので、今はそのチャンスかもしれないと。

――なるほど。今回は可能な限りたくさんの方々に観てもらいたいと思ったのですね。

勝股:そうですね。15周年という大切な年にこんなことになってしまいましたが、だからこそ765PRO ALLSTARSで一矢報いたいという気持ちもありました。15周年に際して「これからも、アイドル!!!!!」というキャッチコピーを掲げていますが、これは、プロデューサーさんをはじめ、我々スタッフ、キャストの皆さん、そしてアイドルも、「みんなでこれからも“アイドルマスター”していきましょう!」という、未来に向かってこれからも進み続ける意気込みなんです。それだけに、ここで止まってしまうのではなく、作品として前を向いている姿勢は見せていきたいと思っていたんです。

今回の配信で発見した「次元の超え方」。技術を成り立たせるために必要なのは感情

星井美希

――視聴者の皆さんからの反響はいかがでしたか?

勝股:「MR ST@GE!! ENCORE」ではチケットの抽選で外れてしまった方もいたので、今回は約10万人もの方々に観ていただけてとてもうれしかったです。SHOWROOMで行なったことで、リアルアイドルが好きで、同時にV(バーチャルタレント)の方々にも興味を持っているような、普段よりも幅広い層の方々にご好評をいただけたことも、すごくうれしかったです。 また当日は配信が落ちないようにエンジニアさんがフル稼働してくださったりと、SHOWROOM の皆さんも万全なバックアップをしていただきました。

企画を立ち上げた当初、SHOWROOMさんとはオンラインで打ち合わせをしながら準備を進めていったのですが、エンジニアさんと「美希の良さはこうだ」とか、「アイマス的にはこっちの方がエモい」「そういえばこのアイドルのSSRが引けました」みたいな話で盛り上がりました(笑)。そうやって、はじめましての人たちと”アイマス愛”でつながって一緒にものを作れたことも、とてもうれしい出来事でした。

勝股春樹プロデューサー

――その結果としてあの生配信が実現したというのは、本当にいいお話ですね……! 当日は、美希の好物のおにぎりやいちごババロアをギフティングできる仕様も好評でした。

勝股:おにぎりやいちごババロアといった美希のオリジナルのギフトについても、僕らとしてはただ商業的な理由で用意したのではなくて、「SHOWROOMでの1アイドルの放送(=SHOWROOMという現実にあるサービスを美希が利用している)」という「リアルな世界観を演出するアイデア」、「放送を楽しむアイテム」として活用させていただきました。

そういった工夫もあって、今回の配信は、この世界に本当に存在する765プロダクションから配信されたようなものになったんじゃないかと思います。もともと配信企画にしようと思った時点では、「配信だとMR的な魅力が薄れてしまうんじゃないか?」とも考えていたのですが、やり終えてみると、むしろ「こういう次元の超え方もあるんだな」ということを僕らも実感することができました。

――次元を超える方法は、技術面での工夫以外にもある、ということですね。

勝股:そうですね。もちろん技術を使ってはいるんですけど、それを成り立たせるためには、技術そのものよりも、いかにそこに人の感情や気持ちを乗せることができるかどうかの方が大切だと思うんです。「THE IDOLM@STER 765プロダクション所属星井美希特別生配信」 in SHOWROOMは、そんなことを改めて感じる経験にもなりました。

勝股春樹プロデューサー

10月8日(木)公開予定の後編では、配信当日のさまざまな工夫や、知られざる細部へのこだわりについて、より詳しくお話をうかがっています。こちらもぜひお楽しみに!!

後編記事はこちら

【取材後記】
今回お話を聞いていて感じたのは、「みんなが大変な時期だからこそ、エンターテインメントで元気を伝えよう!」という、勝股P&制作チームの皆さんの熱い気持ち。それは確かに、エンターテインメントだからこそできることのひとつなのかもしれません。

取材・文/杉山 仁
フリーのライター/編集者。おとめ座B型。三度の飯よりエンターテインメントが好き。