警視庁はコインチェック流出事件の犯人を捕まえられるのか
4月1日、東京・文京区に突如、謎のビルが出現した。黒壁で覆われた建物内へスーツ姿のイカツイ男たちが次々に入っていくが、看板は真っ白で(2枚目写真)、案内板には何の説明もない。
通行人がそろって訝(いぶか)しげに見上げるこの建物。実はこれこそ、このほど警視庁が創設した一大捜査拠点、通称「サイバービル」なのである。
「生活安全部サイバー犯罪対策課や公安部サイバー攻撃対策センターなど、警視庁の各部署のほか、警察庁の出先機関である東京都警察情報通信部を加えた計6部門が入っています。捜査員約500人が、この『サイバービル』に勤務しています」(警視庁関係者)
4月2日には開所式も行われ、吉田尚正警視総監が「東京五輪を見据え、総力を挙げて結果を出す」と決意表明した。創設の目的はもちろん、急増・多様化しているサイバー犯罪に対応すべく、各部署の連携を強化するためだ。
「なかでも、最も注力しているのは、今年1月に起きたコインチェックの約580億円流出事件です。警視庁はIT企業のエンジニアや膨大な知識を持ついわゆるネットオタクなど、在野の”凄腕”を『特別捜査官』として50人ほど秘かに雇い入れていますが、これまでは彼らも各部署に点在していた。そんなプロ中のプロが、サイバービルに集まり、日夜、捜査に当たっている」(捜査関係者)
彼ら「特捜官」により、盗まれた仮想通貨『NEM』の追跡が進められているが、逮捕に至るにはまだまだ難題が残されている。
「犯人は海外数ヵ国のサーバーを使い、盗んだ仮想通貨の行方をわからなくしている。そうなると、いくらプロとはいえ、捜査はかなり難しくなります」(同前)
捜査員を一ヵ所に集めたことにも、こんな意外なリスクがあるようだ。情報セキュリティに詳しい中央大学総合政策学部准教授の岡嶋裕史氏が言う。
「まず考えられるのは、『スキャベンジング』という手法。要するに、ゴミ箱漁りです。一つのビルが丸ごとサイバー関係なわけですから、そこから出るゴミを漁られて、重要な捜査情報を抜き取られる可能性はある。また、ウイルス付きのUSBを敷地内に投げ込むという手法もあります。落とし物かと思って調べたら、ビル中のPCが感染してしまう。古典的ですが、それゆえに手法が洗練を重ねて、十重二十重の対策をいまだにかいくぐります」
警視庁は本誌の取材に「必要なリスク対応はしている」と回答。セキュリティの観点から所在地は「絶対秘密」とされている「サイバービル」に集まったプロたちは、電子空間に蔓延する新時代の犯罪者を追い詰めることができるか。
撮影:等々力純生