Speedcore(スピードコア)とは、Hardcore Techno(ハードコアテクノ)と呼ばれる音楽ジャンルから派生したサブジャンルの1つである。
Speedcoreは、ガバキック[1]の使用と、最低でも200BPMを超える高速なテンポによって特徴づけられる音楽ジャンルである。
Speedcoreという名称はその名の通りで、スピードの速い(Speed)ハードコア(Core)という意味である。
典型的なSpeedcoreは攻撃的・暴力的な曲調が特徴であり、ノイズやスクリーム(叫び声)などのサウンドを取り入れ、激烈なサウンドメイキングをすることが多い。そのため、一般的なSpeedcoreはノイズミュージックや実験音楽など、アンダーグラウンド指向であることが多い。
一方で、Speedcoreにキャッチーなメロディー・コード進行を取り入れ、ポピュラー音楽に接近する試みも行われており、こちらはMelodic Speedcoreというサブジャンル名で知られている。こちらはUK HardcoreやJ-coreの延長線上にある音楽としての性格が強い。
Speedcoreは以下のように、テンポによってさらにジャンル名が細分化されることがある。
Speedcoreはジャンル名に「Speed」という言葉が含まれている以上、音楽のスピードについて詳しく掘り下げる必要がある。
BPM(Beats Per Minute)は、1分間あたりに(Per Minute)どれぐらいの数の拍(Beat)が刻まれるかを示す単位である。
例えば、1分間にキックが120回鳴る音楽のテンポは120BPM、分かりやすく言えば[3]である。
ゆえに、BPMの数値が高くなるほどテンポは速くなり、例えば180BPMの音楽は120BPMの音楽よりもテンポが速い。
また、1分間にキックが60回鳴る音楽(60BPM)を2倍速すると、1分間にキックが120回鳴ることになる(120BPM)。
よって、例えば120BPMの半分のテンポ(ハーフタイム)は60BPMであり、反対に倍のテンポ(ダブルタイム)は240BPMである。
一方で、テンポを表す記号として速度標語と呼ばれるものがある。これはクラシック音楽やピアノ楽曲などで用いられる音楽記号のひとつで、演奏のテンポを指示する記号である。
速度標語にはModerato(中ぐらいの適度な速さで)やAllegro(速く心地の良いテンポで)などがある。
例えば楽譜に「Moderato」と記載されていた場合、中ぐらいのテンポで演奏する必要がある。
しかし、速度標語は「中ぐらいの」や「心地の良い速さ」など、主観的な要素が多大に含まれており、絶対的なテンポの指定ができない。
それに対してBPMは「1分間に含まれる拍の数」という指標に基づく単位であるため、テンポを客観的・絶対的に表記できる。
しかしながら、BPMは機械的に測定された数値であり、一見してどれぐらいの速さであるかを想像することは、ある程度音楽に精通していないと難しい。
そこで1つの指標として役立つのが120BPMである。人類は1分=60秒、すなわち60BPMの世界に生きている。そのダブルテンポである120BPMは、音楽のテンポの1つの指標となる。
実際は音楽のジャンルや方向性によって感じられ方は大きく異なるが、テンポが遅い曲ほど精神は落ち着き、テンポが速い曲ほど精神は興奮する傾向にある。
それゆえ、踊らせる(精神を高揚させる)ダンスミュージックは120BPMを超えることがほとんどで、それ以下のものはチルアウト目的のトラックが多い。
また、先の脚注でも述べたが、音楽のテンポと人間の心拍をアナロジー的に考える言説も存在する。
すなわち、
という相関関係である。
そうした視座からすると、200BPMを超えるSpeedcoreは、心拍が200拍/分を超えている状態と捉えることもできる。そのように考えると、最大心拍数を超えるSpeedcoreは「極度の興奮/あるいは不安」を引き起こす音楽であると言えるかもしれない。
Speedcoreは200BPM、狭義では300BPMを超えるジャンルである。しかし、1000BPMを超えExtratoneと呼ばれる域に突入すると、もはやガバキックの音が連続して聴こえ、単なるひとつながりの音にしか聴こえなくなることがある。
そうなると、数値上は1000BPMを超えた「超高速曲」であるにも関わらず、体感上はそこまでテンポが速く感じられないことがある。何故か。
これは、人間は音楽のテンポを主観的・心理的に認知しているからである。
人間は様々な要素を無意識のうちに処理し、テンポ感を把握している。キックとスネアの配置、ハイハットの刻み方、メロディーのリズム、ビートのシャッフル、編曲など、実に多様な要素が絡み合って、人間は音楽の速さを感じ取る。
朝や夜に音楽を聴くと曲のテンポがやや速く聴こえる現象が報告されているように、人間のテンポ感の認知は極めて心理的なものであり、絶対的なものではない。
であるから、例えば数値上は1分間に1,000回ガバキックが鳴っていたとしても、メロディラインがゆったりとしていれば、物理的には1,000BPMの楽曲であっても、体感では125BPM程度にしか感じないということが起こりえる。
また、音には「臨界点」がある。音の長さが短いガバキックを用いれば、1,000BPM程度のSpeedcoreなら、キックがものすごい勢いで鳴っていることを識別できる。
しかし、2,000BPMを超え10,000BPMともなると、ガバキック1つ1つの音を識別することはできなくなり、ひとつながりの音に聴こえるようになる。これがキックの臨界点である。
また、ガバキックは打楽器であるから1,000BPM程度までであればドラムとして成立する。しかし、メロディーを1,000BPMで奏でるとなった場合、4分音符を1分間に1,000個鳴らすことになるから、メロディーは人間が認知不能なほど加速することになる。これがメロディーの臨界点である。
1,000BPMの楽曲の場合、メロディーを認識できる範囲内に収めようとすると、
という編曲にせざるを得ない。そして、メロディーの音符が1分間に250回鳴るということは、これによって体感されるテンポが250BPMにまで下がるということになる。
すなわち、作曲者がDAW(音楽制作ソフト)のテンポを1,000BPMにして曲を作ったとしても、リスナーにメロディーが250BPMと認知された場合、その楽曲の体感テンポは1/4である250BPMとなる。これが、BPMの高さと体感テンポが比例しない理由である。
また、DAWによっては設定できるテンポの上限が定められているものもある。そういったDAWでSpeedcoreを作る場合、例えば250BPMのプロジェクトに16分音符のガバキックを並べて事実上1,000BPMの速度を作り出す、という技法が用いられる。
すなわちSpeedcoreは、数値的な物理BPMと体感される心理BPMが乖離することが往々にしてあるのである。であるから、1,000BPMを超えていても速さを感じられないこともあるし、逆に200BPM程度の楽曲であっても相当な速さを感じることがあり得るのである。
ほとんどガバキックしか鳴らないようなSpeedcoreであれば、ガバキックがひとつながりに聴こえてしまう臨界点に達してしまうまでは、物理的なBPMと心理的なBPMは比例する。
しかし、メロディーが入り込むMelodic Speedcoreでは、メロディーがテンポ感の認知に大きく寄与する以上、ガバキックがどれだけ高速であっても、メロディーが低速であれば体感されるテンポは低くなる。
このように、ガバキック以外の要素によって体感されるBPMが実際のBPMの半分、1/4、1/8…となってしまうことが起こりえる。この「体感されたBPM」のことをここでは「基礎BPM」と呼ぶことにする。
「基礎BPM」=「体感されるBPM」であるから、この基礎BPMが高いほど、速い音楽に聴こえる。
基礎BPMが120BPMの楽曲をダブルテンポ、さらにダブルテンポ…としていくと、数値的なBPMは240BPM、480BPM、960BPM…と上昇する。
一方で、基礎BPMが200BPMの楽曲をダブルテンポにしてくと、数値的なBPMは400BPM、800BPM、1,600BPM…と上昇する。
ここで、数値的には960BPM > 800BPMであるが、基礎BPMで考慮すれば120BPM < 200BPMと関係が逆転する。
このように、Speedcoreではダブルテンポ(あるいはハーフテンポ)によって体感されるテンポが変わったり、数値的なテンポを変えたりしているのである。
Drum&BassのドロップでハーフテンポにしてDubstepに変えるテクニックのように、Melodic Speedcoreでは普通の音楽をダブルテンポ、さらにダブルテンポ…とすることでSpeedcoreを生み出している。
つまり、Speedcoreは「スピード」と名乗りながらも、ほとんどガバキックだけで構成されるようなストイックなもの以外は、数値的なBPMよりもずっと低いテンポが体感されるのである。
言い換えれば、ガバキックだけが高速なのであり、他の要素は何ら他の音楽と変わらない。そのようなネガティブな捉え方をすることもできる。
しかし、Speedcoreはガバキックの激しい連打に美学を見出す。特に、Speedcoreの境地であるExtratone/Supertone/Hypertoneには「どこまで物理的なBPMを上げられるか」という挑戦的な美学がある。
普通の音楽に高速ガバキック連打をミックスしただけの音楽とネガティブに捉えることはできる。
しかし、Speedcoreはその高速なガバキック連打に美学を見出している。サブマシンガンのようなガバキックの連打に音楽的な価値を見出している。
Speedcoreを文字通り「速いHardcore」として成り立たせるのであれば、基礎BPMを200BPM前後にすれば良い。しかし、Speedcoreは体感テンポが全てではない。基礎BPMが遅くとも、キックの連打が音楽的であると感じるのなら、それもまた音楽である。
(以下、筆者が交代します)
スピードコア(SPEEDCORE)はハードコアテクノ(Hardcore techno)の一ジャンルであるが、そのハードコアもまたテクノミュージックの音楽ジャンルの枝分かれを繰り返し生まれてきて、しかも海外で生まれた曲やジャンルが多い。故に、これらすべてを振り返ると膨大になるし、日本人には聞き覚えのない曲も多いのでそれらを説明しても伝わらないように思う。よって、スピードコアの正式な流れはウィキペディアなど外部サイトに任せて、ハードコアテクノからスピードコアが生まれていった流れを日本国内における目線で簡単に概略する。
日本においての一般大衆にハードコアが認知されたのは、なんといっても1991年にオープンした「ジュリアナ東京」である。テレビがバブル時代を振り返るとき必ず挿入されるジュリアナテクノとお立ち台のイメージが日本人には焼き付いているわけだが(正確にはジュリアナ東京はバブルのピークを超えてから誕生したものであって、あれがバブルの象徴というよりはこの先日本はどうなるんだろうという混沌とした時代を象徴するシーンであり、バブル=ジュリアナとされるのは違和感があるのだが・・・)
あのジュリアナテクノは、日本ではハードコアというよりは「レイヴ」程度の扱いがされているが、海外においてはハードコアの中の「オールドスクール」という括りで語られ、音はそこそこアグレッシブだが、テンポはそれほど攻撃的ではなく、シンセがたまに攻撃的で、跳ねるようなベースとブレイクビーツ、そしてボーカルのシンプルなフレーズの連呼といった感じで、テンポはあくまで「扇子を左右に振りやすい」程度の緩やかなものであった。
ただこの時代に高速テンポを目指したジャンルがなかったわけではなく、日本でも当時知られたものに「ロッテルダムテクノ」があるが、実はこのロッテルダムテクノというのは完全な和製英語であり海外ではまったく通じない(編集者がオランダ人に直接ロッテルダムテクノを知っているか聞いてまったく無反応だった確認済み)ので注意が必要である。
ロッテルダムテクノは確かにロッテルダム在住のDJが作り上げたジャンルではあるが、これはエイベックストラックスが海外のコンピレーションアルバムを輸入販売するとき何かわかりやすいジャンル名はないかと考えて付けたもので、海外ではロッテルダムテクノとは言わずガバ(Gabba)と言う。
ガバ(Gabba)は、キックドラムの音にディストーションをかけ『ドゥゥゥン↓』とたわませた通称「ガバキック」を使って高速にビートを刻みつつ、既出楽曲のサンプリングや声ネタを使いまくるといった音楽で、よく言えば「DJの遊び心」、悪く言えば「既成の音楽の破壊」が見られるのが特徴である。
このガバ(Gabba)が現在のハードコアを語る上でのベースとも言えるもので、スピードコアもここから派生して生まれたのだが、この両者を比較するとき、曲のテンポの速さが、ガバが140bpm以上、スピードコアが200bpm以上という基準があるにしても、それぞれに300bpmぐらいの高速曲が存在するため、テンポだけで分類するのは難しい。
それではスピードコアの特徴とは何だろうかと聞かれると、前述のとおりガバキックは『ドゥゥゥン↓』といった余韻をもったキックドラムなのに対し、これをそのまま高速なスピードコアに適用してテンポを上げるとキックドラムが連続しているように聞こえてしまうことがある。
それを回避するためにキックドラムのアタック(音の立ち上がり)を強くするのだが、キックはよく聞き取れるようになるものの今度は道路工事の音のようなガガガガ音に近づいて行ったりする。
つまり、どちらをとってもフレンドリーな曲調ではない。
ハードコアを一言で表すのが「破壊」ならば、スピードコアはより進んだ「敵意」である、と思う。
スピードコアの超高速なサンプリングフレーズの連呼はコンピュータのフリーズ画面のような狂気を演出し、聞きなれない人には「これは果たして音楽といえるのだろうか?」と考えてしまうような敵意をもった音楽である。だがそもそも、作曲者(DJ)が意図的に脳への情報入力量をオーバーフローさせようとする音楽がスピードコアであって、「聞けるもんなら聞いてみな」という敵意を持って作られたその難解な挑戦状の中身が理解できたときの悦び・・・それは、
とかそんなものに近いのかもしれない。
冗長になったのでまとめると、最初からスピードコアが好きな人間などというものは存在しないはずで、小学生の頃は普通に「さんぽ」のようなテンポが好きだったものが、様々な音楽に触れることで心地良いと感じられるテンポが上がっていった結果、音楽に対する分解能力が異常に発達した人たちの間で好まれる音楽ジャンルがスピードコアである。
今はまだ良さが理解できない人も、低速な曲などから慣らしていくと、突然それまでノイズだったものが高度な音楽作品に聞こえる・・・かもしれない。
掲示板
32 ななしのよっしん
2019/11/02(土) 11:47:55 ID: eMD2M27V3Q
BPM240ぐらいまではむしろ中速な感じがしてきた
33 ななしのよっしん
2020/02/01(土) 23:59:37 ID: BCxtMcRqUV
>observer_ってホラーゲームに入っているMirror Me - Mother Queenって曲もこれに該当するのかな?
34 ななしのよっしん
2021/06/29(火) 04:09:41 ID: nr/Ef3XTxs
関連項目のジャンル名、英単語ベースなのに間にスペースが入ってたり、ブレイクコアが「ブレーキコア」になってるの地味にきになるから誰か直してクレメンス・・・
急上昇ワード改
最終更新:2025/01/14(火) 23:00
最終更新:2025/01/14(火) 22:00
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