たとえば、1万問の優良な単語集があるとする。紙の世界では、これを地道に付箋を貼りながら勉強する。これを、学習プラットフォームを介することで、たとえば学び手同士で競争したり助け合いしたりする。あるいは苦手領域を測定して効率良く学習する。はたまた「本当の」TOEICの点数がもらえるなど、同じコンテンツでも圧倒的な付加価値の向上をもたらすことが可能になる。

 Quipperでは、このように、作り手によって入力されたコンテンツが、魔法のように面白く、魅力的で、続けることができる立体的な「学習サービス」に変換するような機能を提供したいと考えている。そして、この巧拙こそが将来起こるであろうプラットフォーム間の競争を決定づける要素になるだろう。

 Quipperの最終型のイメージは明瞭だ。優れたプラットフォームになることで個人法人の有料無料、多種多量な学習コンテンツを引き寄せ、圧倒的な学習コンテンツの品揃えを誇る「知のマッチングプレイス」である。コンテンツが人を呼び、人がコンテンツを呼び、自立的に成長していく。

 これまで世界各地のさまざまな学習領域で小さな成功や失敗を繰り返す中で、次第にいろいろなことがわかってきた。自信満々な本命と思ったサービスで失敗したり、逆に期待していなかった場所でスマッシュヒットが出たりする。これが、なかなか奥深く、面白い。

 学習サービスは、ゲームやショッピングなどに比べると地味である。ユーザ数なども「開始から1週間で100万人」というわけにはいかない。しかし数字の一つひとつの積み上げの意味することは重い。なんといっても「学習」している人なのだ。彼らの人生を背負っているとまでは言わないが、Quipperでの学習体験が、彼らの未来を決定づける可能性は十分にある。

 サービス開始から2年半。中野さんが1人で開発を開始したQuipperの学習プラットフォームは、のべ700万人のアプリが接続される巨大な学習コンテンツ流通の場となり、グローバルな技術陣がタッグを組んで支えている。

 英語版サービスに続き、今年春にはタイやベトナム、インドネシアといったアジア6カ国で中高生向けのサービスを本格的に開始し1万人以上の生徒が使う。米国では中学校の先生を大きく巻き込んだ取組が始まった。日本でもKDDIとの共同事業として7月にリリースしたGAKUMOを軸に展開していく予定だ。どのサービスも機能やコンテンツの強化がてんこ盛りのように予定されていて、毎日忙しい。

 サービスを開始して2年半。ようやく強い手ごたえを感じられるようになった。これからどんどんスピードアップしていきたい。

 次回の最終回では、僕が思うアントレプレナーにとって大切なことについて考えたい。

 

【連載バックナンバー】
第1回「DeNA起業に参加したのは南場さんと川田さんと珍道中を楽しみたかったから」
第2回「DeNAで山ほど失敗して学んだ新規事業企画のコツはないというコツ」
第3回「DeNAを辞めて起業するとは思っていなかったのに、なぜ学習サービスQuipperをはじめたか」
第4回「「よいエンジニアが見つかるまで起業しない」。Quipper出発はゼロからの仲間探し。」