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働き方を変えなければ会社として成り立たない
編集部(以下色文字):江川さんが社長に就任した2015年以降、アクセンチュアは飛躍を遂げ、成長率は2桁を維持し、売上高は約6倍に拡大しました。以前の労働環境は過酷で、いわゆる「ブラック」な働き方の企業として知られていましたが、江川さんはワークスタイルを根本的に見直したそうですね。働き方の改革に乗り出したきっかけは何ですか。
江川(以下略):アクセンチュアの働き方を見直すべきだと考えた直接的なきっかけは、私が副社長を務めていた2014年12月、当社の採用に協力してくれていた人材会社の方から、「アクセンチュアの評判は相当悪い。このままでは人を紹介できません」と伝えられたことでした。すぐに辞められたら、紹介した側の評価に関わるということです。しかし、我々の資産は人以外にありませんから、採用ができなければ会社として成り立ちません。
実際、当時のアクセンチュアはコンサルティング会社のイメージそのままの激務で、社員は毎日のように夜遅くまで働き、誰もが疲れきっていました。私自身、過去に2度、体調を大きく崩した経験があります。1度目は入社3年目の時、めまいが治らず、椅子に座っていても頭がぐらぐらする感覚に襲われるような状態が半年ほど続きました。2度目はマネジング・ディレクターへの昇進が決まった時で、同じ症状になりました。当時の社長にそれを伝え、「何日でもかまわないので、すぐに休みなさい」と言われて早めに休んだこともあり、幸いにも比較的早く改善しましたが、このような働き方を続けられるはずがないと痛感しました。
自分と同じような経験を社員にさせてはなりませんし、何より人を採用できなければ会社は長続きせず、いずれは潰れてしまいます。私が人材会社の方から採用の問題を聞いたのは、社長就任の声がかかっていたタイミングでもあったので、このひどい働き方はすぐにやめようと決意しました。
もう一つの重要なきっかけは、デジタル時代の到来です。いまでこそ、デジタル・トランスフォーメーション(DX)は経営に不可欠な要素として認識されていますが、その頃はまだ、クライアントや競合、アクセンチュアの経営陣でさえ、デジタルがもたらすインパクトを正しく評価できていませんでした。当社の仕事の大半は旧来型のコンサルティング業務だったものの、デジタル関連の仕事が生まれ始めていた時期でもあります。多くの人は気づいていませんでしたが、B2Cに適用されていた技術がB2Bに活用されることは間違いなく、デジタル領域に軸足を移すべきなのは明らかでした。
デジタルを活用して社会を驚かせるような画期的なサービスは、多様なスキルや専門性を持つ人間がいて、それぞれが上手にコラボレーションし合えなければつくり出せません。男性中心で体育会系の組織文化のままでは、時代に取り残されることは明白でした。デジタルが世界を席巻し、当社のビジネスの中心になることを見越して、会社自体が生まれ変わる必要があると確信していたのです。
お客様に納得していただける質を保ちながら、社員の健康を守り、来るべきデジタル時代にどう備えるか。ましてや、当時は業績が落ちていたわけでなく、1桁ですが成長を持続できていたこともあり、改革の推進そのものが難しい環境でしたが、その方法を徹底的に考え抜くことから始めました。
事業は堅調な成長を続け、差し迫った危機感を持ちにくい状況で改革に納得してもらうために、どのような工夫をしたのでしょうか。