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Photo: Arne Dedert /  Getty Images

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ニュー・ステイツマン(英国)

ニュー・ステイツマン(英国)

Text by Kate Mossman

大統領候補になったのは「大した話じゃない」


今年の3月でジジェクは75歳になった。金融危機について語った結果、最近では思想界の「ロックスター」として名を馳せた。彼のラカン派的世界観も、人々が政治と精神分析の関係に興味を持ちはじめるなかで、改めて注目されている。

ロラン・バルト以来のわかりやすいポップカルチャー批評理論を展開する『スラヴォイ・ジジェクによる倒錯的映画ガイド2 倒錯的イデオロギー・ガイド』(2012)など、映画製作もおこなった。この4年で9冊の本を著し、1989年のデビュー作にして、ときに代表作とも言われる『イデオロギーの崇高な対象』から数えると、(共著書を除けば)50冊を書き上げたことになる。

1990年にスロベニアで共産党体制が崩壊したとき、ジジェクはスロベニア自由民主党から大統領候補として擁立された。本人いわく、これはそれほど大それた話ではなかったらしい。ジジェクはあくまで一党員として全体を代表して出馬したにすぎず、結局当選もしなかった。

だが、いつも全体主義の脅威よりは資本主義的な民主主義を選びながらも、ジジェクは共産主義が失敗した理由について、ほとんど官能的な興味を持っているらしい。

彼は理論とセックスを同じように見ているようだ。あるアイデアに興奮すると、彼は激しく痙攣しだす。鼻を弾いてみたり、フンフン鳴らしてみたり、唇を2本の指でつぶして三角にしてみたり。筆者のお気に入りは、まるで自身の体に視線で線を引くように、いきなり左乳首から右乳首へと目線を動かす動作だ。

会って20分もたたないうちに、ジジェクは「どうしてスターリニズムはあれほど間違った方向に進んでしまったのか?」と問いを発した。

「この理由を説明する優れた理論を、我々はいまだに持っていない。啓蒙運動は潜在的な全体主義性を伴っていた。ナチスはあやしい生物学者と人種差別主義者たちで構成されていたが、スターリニズムの原点は純粋な啓蒙だった。しかし、それがさらに酷い脅威に転じてしまったわけだ」


右派にも左派にも避けられて


筆者がジジェクと過ごした2日間、合計6人の若い男性が近づいてきて、顔を赤らめながら尊敬の念を語った。彼らが一緒に写真を撮っていただいてもよろしいでしょうかと丁寧に申し出ると、ジジェクは「女の子に見せるためだったらいいぞ」とわざとらしくオヤジ臭いユーモアであしらった。

学生はジジェクをよく知っているが、スロベニアのメディアは彼を無視しており、最近では全世界的に、主要な左翼系出版社が彼を無視するようになってきている。

2024年、ジジェクは奇妙な立場に置かれている。彼の政治的ペシミズム(悲観主義)には本質的に冗談がつきもので、またそのペシミズムは彼のエネルギーによって相殺される。ユーモアが彼の筆を進めるのだが、同時にそれは著作の真面目さを損なうことにもなる。

「ファンは私の下品な冗談に惹かれ、(その冗談ゆえに)私をまともな人間だと思いたがる」と彼は言う。「だが右派の連中は同じことを持ち出して私を攻撃するんだな。彼らいわく、私は世界で最も有名な阿呆の道化なんだと」

数年前、彼はニューヨーク・タイムズに二重投稿(ジジェクが別の出版物に書いた文章とほぼ同じ内容を寄稿した問題)を批判された。「そりゃあマスターベーションを『セルフレイプ』って呼ぶようなもんだ」と彼は嘆いた。自身の書いたものへの「無駄のない」アプローチ──あるいはリサイクルというべきかもしれない──を、ジジェクはラカンを用いて正当化する。

「ラカンの一連の思想は、理論というよりも物語や具体例でできている。彼の書く言葉は、はっきり言ってかなり読みにくい。だが、彼のセミナーは、ほとんどひとりの患者が連想を語ってるようなもので、聴衆のほうがその分析者なんだ。ラカンの考えは変化する──みんなこれを考慮に入れていないんだな」

各国の政治を斬る


彼はいま、ソフト・ファシズムについての本に取り組んでいる。
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