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カナダでは、かつて存在した「自然死が合理的に予測可能」という死亡幇助を認める基準が削除された Photo: sudok1 / Getty Images

カナダでは、かつて存在した「自然死が合理的に予測可能」という死亡幇助を認める基準が削除された Photo: sudok1 / Getty Images

アンハード(英国)

アンハード(英国)

Text by Ian Birrell

医療制度の改善が先


前編で紹介したアリソンの事例は、医療・社会福祉制度が破綻し、恥ずかしいほど長い治療の待機者リストと、他国と比べて低いがんの生存率という背景がありながらも、安楽死導入へとまっしぐらに向かおうとする英国などの国に疑問を投げかける。

アリソンは、こうした改革に向かう人々に何を伝えたいだろうか?

「まず、医療システムを改善してから安楽死導入を検討せよと言いたいです。さもなければ、それはとても危険な一歩となります。私たちには、死を選ぶ前に適切でタイムリーなケアを受ける資格があるのですから」

世界に先駆けて安楽死を導入したベルギーやオランダを取材すると、すでに医療差別や社会的疎外を受けている弱者集団への影響が大きいとわかる。

たとえば、2023年のある研究では、学習障害や自閉症を抱えて生きるのが苦しいというだけの理由で、8人のオランダ人が安楽死したことが明らかになった。ほかにも、それに近い事案が16もあったという。気がかりなことに、耐えきれない苦しみの主要な原因として、多くの人が孤独を挙げていた。

アリソンのいるカナダのブリティッシュコロンビア州では、増え続ける待機者リストと腐敗した医療官僚制度のせいで、医療による死亡幇助(MAID)を選ばざるを得なかったがん患者のケースがいくつも報告されている。

たとえば、ヴィクトリアに住む67歳のサミア・サイカリは、専門家による診療を10週間も待たされた挙句、安楽死を選んだのだった。娘のダニエレは「『残酷』という言葉に尽きます」と語る。彼女は、進行性のガンの場合、この遅れが助かるかどうかの分かれ道になると指摘する。「こんな診断をしておいて、ただひたすら座して待てというのは、あまりに残酷すぎます」

カナダの生命倫理学の教授で、同国の安楽死改革についての全体的分析を初めておこなったジャロ・コタリックは2023年、MAIDはますます「リソースの不足を補い、医療費を削減する手段」になっているようだと警告した。

また、緩和ケアが「MAIDの犠牲になっている」とも付け加えた。緩和ケアにアクセスしにくい状況があるため、「苦しみへの対処が不適切だったり、自分が家族や社会的サポートに対して過剰な負担を強いていると考えたりして」、MAIDが唯一の選択肢だと考えてしまう患者もいるという。

コタリックは、MAID導入以来、調査や監視が不充分だったと述べる。

「この国家プログラムには、まともなガバナンスがありません。申請者と死者に関する情報収集は、完全に医者側の自己申告に依拠していたのです」
残り: 3333文字 / 全文 : 4442文字
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PROFILE

翻訳:福田真郷

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