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フィナンシャル・タイムズ(英国)

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Text by Courtney Weaver

初代ロシア連邦大統領のボリス・エリツィン政権下で外務大臣を務めた民主派のアンドレイ・コズイレフは、なんとか大統領を親西側路線から逸らさないように努めた。だがその甲斐も虚しく自身は追いやられ、エリツィンの後見者にはウラジーミル・プーチンが選ばれることになる。当時を振り返りながら、現在の胸の内を英「フィナンシャル・タイムズ」紙に語る。

私が間違いを犯したとわかったのは、ランチを始めてから1分ほどが経ったときだった。

シックな地中海料理レストランで、1990年代にロシアの高級外交官だったアンドレイ・コズイレフとランチを取ることになり、個室を予約するよう提案した彼に、私はそれほど格式ばる必要はないと請け合ったのだ。しかし、私たちがウクライナとロシアの情勢を掘り下げはじめるやいなや、皿に銀食器が当たる音やビジネスの会話に紛れて、互いの声を聞き取るのはほぼ不可能だと判明した。

「ね、私の言ったとおりだったでしょう?」

コズイレフは、自分の警告が聞き入れられないことに慣れているような、諦めが混じったため息をついた。

「若い頃、私は小声で話すせいで批判されていたんですよ」

彼は流暢な英語で、かろうじてささやき声よりも大きな音域でそう話す。

「共産主義者と野党からは、それが、私が弱い外務大臣であることの証明だと言われていました」

1990年、ロシア最高会議議長に選出されてまもないボリス・エリツィンから外務大臣に選ばれたとき、コズイレフは弱冠39歳、ソビエト外務省の若き改革派キャリア官僚だった。

彼はソ連の崩壊と共にロシア連邦の初代外務大臣となり、ソ連崩壊後初の米露会談、そして元NIS諸国(1991年以前のソビエト連邦、およびその構成共和国であった地域)のNATO(北大西洋条約機構)加盟における認否を問う初期の議論の最前列に座った(その結果は今、かつてないほど響いている)。

コズイレフは、エリツィン政権の中心にいながら改革を支持する民主派だった。そのため、ロシアの西側化を拒もうと必死な愛国主義の政敵からも、「ロシアの民主主義への転向は既成事実だ」と信じるアメリカのパートナーたちからも、妨害を受けていた。1996年のエリツィンの再選運動までを通し、彼の在職期間はいばらの道だった。

大統領を親西側路線から反らすまいと虚しい試みを続けるなか、彼の解雇が間近であるとの報告は絶えなかった。コズイレフは国家院に2期務め、それからビジネスに転向するため政治を離れた。ビジネス業界では、食品流通会社を共同所有していたという。そして12年前、コズイレフと家族はアメリカに定住した。

今回コズイレフから、私たちが会う街は秘密にしておいてほしいと頼まれた。クレムリンの敵対者に対する脅威が増しているからだ。

ウクライナでの戦争は言うまでもなく(私たちは開戦19日目に会っていた)、司法の及ばない毒物攻撃やクレムリンの批評家たちへの厳格な取締りをみれば、彼の要求を断るのは酷だと感じられた。

冷戦は終わっていなかった


現在70歳のコズイレフが選んだレストランは、パリッとしたノーネクタイのスーツ姿の男たちと、ゆったりしたドレスをまとい、髪をブローした女たちでいっぱいだった。

コズイレフのカジュアルなスラックス、ブルーのポロシャツ、日に焼けた顔は、隠居生活を送る人らしい姿に見える。だが、目の下の隈と皺の刻まれた額からは、この数週間に溜まった疲れが見てとれる。

コズイレフは、ためらうことなく3品コースのビジネスランチを選んだ。まずはメゼ(東地中海の前菜)の大皿、そしてドラド(南米の大型淡水魚)と地中海風デザート。私もあとに続き、マグロのタルタル、ドラド、果物のプレートを選ぶ。

彼に会う前の数日間、私は彼の政治的回顧録と共に缶詰めになっていた。

私は彼に、現在起きているすべてのことは内政的にも地政学的にも、1990年代の改革に起因しているかのかどうか尋ねてみた。コズイレフは以前、その問題の所在はソ連時代の後半にあると指摘していたのだ。
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