マッキンゼー時代には、ソウルオフィスをゼロから立ち上げ、韓国企業、特にLGグループの世界的な躍進を陰で支えてきた赤羽雄二氏。同氏が最近書いた著書『ゼロ秒思考』(ダイヤモンド社)が売れている。なぜ今、思考法なのか。その理由について「マネジメント層の実力低下がヒドイから」と説明し始めた。(聞き手は瀬川明秀)

赤羽さんには、これまで日経ビジネスで「なぜ日本の大企業で変革が進まないのか」といったテーマで、何度も取材させて頂きました。マッキンゼー時代は、10年以上にわたり韓国大手財閥の再建に取り組まれ、最近は、国内の大企業の経営改革プロジェクトにも参画されている。我々の頭の中では、“組織再生のプロフェッショナル”というイメージがあったのですが、最近出版された『ゼロ秒思考』では、経営論を離れ、ご自身の経験に基づく思考法について紹介されました。今までの“堅い文章”とは一転、今回は、社会人1年生からでも手に取れそうな優しい本。お手軽な自己啓発書のような印象も残るつくりで、ちょっと驚いています。

赤羽雄二(あかば・ゆうじ)
 東京大学工学部を1978年3月に卒業後、小松製作所で建設現場用の超大型ダンプトラックの設計・開発。86年、マッキンゼーに入社、1990年から10年半にわたってフルタイムで韓国企業、特に財閥の経営指導に携わる。2002年1月、ブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業。IT・ソーシャルメディア・スマートフォン・クリーンテックなどの分野のベンチャーを支援。そのほか経済産業省「産業競争力と知的財産を考える研究会」委員、総務省「ITベンチャー研究会」委員、総務省「ICTベンチャーの人材確保の在り方に関する研究会」委員などを勤める

赤羽:いえいえ。私の中では完全に一致しています。大企業の経営改革を進めるためには、経営者、経営幹部、部課長の問題把握・解決力が非常に重要です。もっと平たく言えば、「自分の頭で考えて、積極的に発言し、行動すること」です。

 でも、問題は、これが全然できていないことなんです。大企業の場合、部長も課長も 皆、上を見て仕事をしています。自分で情報収集をし、考えて発言するというよりは、上から指示された仕事を鵜呑みにしてひたすらその範囲でやり遂げる、ということにほとんど全部のエネルギーを使っています。

 計画作成にも膨大な時間を使っていますが、大半が数値合わせ、予算作成と修正・やり直しが中心です。ただ、それをどういうビジョン、戦略で実行するのか、どうやって具体的に現場のアクションに落とし、経営改革を進めるのかについては、ほとんど関心を持って取り組まれていません。経営者がいかに優れていても、現場を動かす部課長が自立的に問題把握をし、問題解決をしていかなければ会社は決してよくなりません。変わっていきません。サラリーマンとしてその場しのぎにやっている点も否めませんが、根本的に「自分の頭で考えて、積極的に発言し、行動する」力が不足していると私は感じました。

「自分の頭で考えない」上司には何種類かいる

「自分の頭で考えない」とは

赤羽:「自分の頭で考えない」には何種類かあります。1つには常に上司から事細かに緊急で指示が下るのでそれに反応するだけで精一杯であり、新たに何か考える余裕がまったくないケースです。その上司ももちろん、その上の上司からの指示で動いています。トップダウン、上意下達という名のもとで、幹部社員1人ひとりがしっかりと考えつつ、自分の責任で何かを提案し会社をよくしていく、という発想を持てなくなっていきます。

 自分の頭で考えようにも、期待もされていないし、自主的に動く気力も体力もない、という状況です。これは社長以下、組織の全階層が新しい動きをしなければ、1人でも従来通りの行動を要求する人間が途中にいれば、そこより下は変われないことになってしまいます。社長はその部分の確認をする必要がありますね。

 二番目には、組織の壁が強くサイロ状になっていて、商品企画、開発、生産、品質保証などの各部門の責任者が自部門の範囲でしか物を考えなくなるケースです。「今までやったことがなかった」「それは自部門の責任外だからわからない」「そんなこと考えたこともなかった」というセリフが典型的に聞かれます。当然ながら少しは考えながら仕事をしていますが、部門の壁を越えて考えてくれたり、ましてや経営者の視点で考えてくれることは、ほぼありません。

 部課長あるいはチームメンバーにいたるまで、どの会社でも多かれ少なかれ上記の問題があり、その呪縛を解くところから経営改革が始まります。「自分の頭で考えていいんだ。考えなくては会社はよくならないんだ」というところですね。社長がどんなに優れていても、役員、部課長の意識・行動改革を徹底し、新たな行動スタイルを奨励し、上から下まで矛盾なく動かしていかなければ、会社の変化は遅々として進みません。

 経営改革は部課長1人ひとりの力でどうにもならないところもあるので、若干は同情する点もありますが、これだけ製造大企業の業績、国際競争力が下がっている状況で、1人ひとりの戦闘力を上げないと大変にまずいことになる、というのが『ゼロ秒思考』を出版した一番の動機です。

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