日経ビジネスの8月3日号に掲載した「原田改革の誤算と試練」では、原田泳幸氏がベネッセホールディングス(HD)の会長兼社長に就任してからの一連の改革について検証した。1年間で94万人の会員が流出した「進研ゼミ」事業だが、業績面では厳しい状況が続く。7月31日に発表した2015年4~6月期の連結決算は、売上高が前年同期比7%減、営業利益が同88%減となり、進研ゼミが主力の国内教育事業の営業損益は前年同期の39億1000万円の黒字から一転、4億3000万円の赤字に沈んだ。ベネッセは、DM(ダイレクトメール)への依存体質を改め、対面での顧客接点の場を増やすために「エリアベネッセ」などの拠点の拡大を急いでいる。こうしたベネッセの動きに対し、競合他社も攻勢をかけている。
ベネッセHDが変革を急ぐ一方、競合他社も安穏としてはいられない。少子化によって市場そのものが縮小する中、競争力の引き上げは不可欠となる。加えて、各社が最も注目するのが、2020年に予定される学習指導要領の改訂の行方だ。
主導する文部科学省は新たな指導要領に基づく子供の育成について、「他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていく力が必要」と説明。子供が与えられた課題をこなすだけでなく、自ら課題を見つけ、その課題を子供同士が教師らのサポートを受けながら解決していく「アクティブラーニング」や小学校での英語教育の全面導入などが柱となる。タブレットの導入などICT(情報通信技術)の活用も進む見通しだ。あわせて、大学入試センター試験も「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に刷新。知識量ではなく思考や判断など知識の応用力を問う内容に変わるほか、年に1回だった試験回数も複数回になる見通しだ。
細かい内容は今後策定されるものの、学校での指導や試験が変われば、関連する教育ビジネスのあり方も大きく変化するのは確実。ある塾大手の関係者は「大改革が起きる。これについて来られない塾や予備校はつぶれる」と話す。
“業界”の垣根超えた買収が加速
そんな中、業界で最近話題となったのが、「Z会」で知られる通信教育大手、増進会出版社(静岡県長泉町)による学習塾大手、栄光ホールディングス(HD)の買収だ。増進会は8月1日、栄光に対するTOB(株式公開買い付け)が成立したと発表した。買収額は約137億円に上る。
もともと、栄光HDを巡っては、筆頭株主だった同業の進学会と2位株主だった増進会の間で経営の主導権争いがあったとされる。増進会側による積極的な働きかけに進学会が折れる形で栄光株を手放すことで合意した。
難関校の受験指導に定評のあるZ会を持つ増進会と、全国に学習塾を展開し、主に小中学生向けの指導に強みを持つ栄光。通信教育と学習塾の特性や顧客基盤の融合が両社の狙いだ。Z会の持つ教材の開発ノウハウと栄光の対面型の教育ノウハウを組み合わせ、「新たな教育の価値を提供していく」(増進会の藤井孝昭社長)。
買収や他社との提携を積極化しているのは学研ホールディングス(HD)も同様だ。「明光義塾」を運営する明光ネットワークジャパンや「市進学院」の市進ホールディングスと資本関係を持つほか、7月31日には河合楽器製作所と資本・業務提携し、幼児教育で連携していくと発表した。グループの学研教育出版はベネッセに対してもデジタル教材を提供するなど協力関係にある。
リクルートは教育分野で急速に事業領域を拡大
一方、躍進を続けるのがネットサービスを核とした新規参入組だ。リクルートホールディングス子会社が手がける「受験サプリ」は、大手予備校の講師らによる授業の動画配信がサービスの柱。5教科13科目の約2000講座をそろえ、パソコンやタブレット、スマートフォンで閲覧できる。2011年10月の開始だが、現在の会員数は約30万人(有料会員は13万人)に上る。
受験サプリの料金は月額980円(税別)で、授業動画のほか、受験情報の提供やセンター試験、主要大学の模試も利用できる。松尾慎治プロデューサーは「地域的、金額的に塾などに通えない学生も多い中、割安感がありながら学力レベルに応じた講座の豊富さが支持された」と分析する。
今春からは約700校の高校に補習の教材として受験サプリも提供するほか、今秋には東京大学と連携し、これまでに蓄積した累計140万人の学習履歴データを解析し、効率的な学び方を助言するサポートサービスも始める計画。さらに3月には小中学生向けに授業動画やドリル教材を提供する姉妹サービス「学習サプリ」も始め、新たな客層の開拓も進めている。
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