【トラウマ注意!】恐怖のホラー漫画おすすめ20選
※2023/8/18に『営繕かるかや怪異譚』『僕が死ぬだけの百物語』『サユリ』の3作品を追加しました。
ホラー漫画が好きな方でも、種類が多すぎて何を読めばいいのか迷うことも多いのでは?
今回はトラウマになってしまうような怖い漫画を、「ガッツリ怖い正統派ホラー」と「ジワジワ怖いシュール系ホラー」に分類して、ぶくまる編集部が選んだ20作品をご紹介いたします。身体の中から涼しくなれる怖い漫画を、どうぞご堪能ください。
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目次
とにかく怖い!恐怖の正統派ホラー漫画11作
まずは、ストレートな恐怖を楽しめる「正統派ホラー漫画」の中から、鉄板とも言える王道作品と、知る人ぞ知る最近の話題作をそれぞれご紹介します。
間違いなしの王道作品はこちら
描写が過激な作品もありますが、スプラッターとホラーは切っても切り離せない関係です。ここでは6作品をご紹介しますが、心の準備をした上で、ページをめくってみてくださいね。
怖く、そして優しい至極のホラー短編集『営繕かるかや怪異譚』
完結『営繕かるかや怪異譚』 全1巻 小野不由美・加藤和恵 / 集英社
アニメ化された人気作『青の祓魔師』の加藤和恵先生が、『十二国記』などで知られる小野不由美先生の人気ホラー小説をコミカライズ。住居にまつわる怪異現象を、家屋を増改築したり修繕したりする「営繕」を生業とする尾端が解決に導く、全六話の短編作です。
第一話の「奥庭より」は、亡くなった叔母から屋敷を相続した女性が登場。屋敷の“開かずの間”の襖が、何度閉めても独りでに開いてしまう怪異現象を発端に、数々の恐怖が女性を襲います。怪異に関わる霊の生前の事情を理解した尾端が、その悲しい記憶が残る部屋に施した方法とは――。
主人公の営繕屋・尾端が、霊の気持ちに寄り添いながら住居を「治」していく描写が見どころ。怪異をただの恐ろしいものとして扱うのではなく、「背景にある霊の悲しい過去」とともに描く本作は、正統的な恐ろしさの中に、ほのかに優しさも感じられるホラー漫画です。
王道スプラッターホラーなら『惨劇館』
完結『惨劇館』 全10巻 御茶漬海苔 / グループ・ゼロ
「スプラッターホラーの先駆け」とも言われる御茶漬海苔先生の代表作が『惨劇館』です。
毎回、惨劇館の案内人として御茶漬海苔先生が登場し、恐怖とある種の期待を煽っていきます。基本的にはすべて1話完結の短編集で、「この世ならざる者」の怨念や、生きている人間の恨み・嫉妬などから生まれる猟奇的な悲劇が、生々しく描写されています。御茶漬海苔先生のホラーは「容赦の無さ」が特徴で、基本的に救いのない話が多いです。
第1話の「テレフォン」は、ある女性が、元同級生であるストーカーからの電話に悩まされる話です。現実にも起こりそうな恐怖と、その果ての凶行と惨劇が描かれています。
目を覆いたくなるスプラッター表現で、直接的な「怖さ」を味わいつくせる本作。この独特な作風の虜になった方には、同じく1話完結のホラーオムニバス作品『恐怖実験室』もおすすめです。
「ベスト・オブ・口裂け女」な名作『口裂け女伝説』
完結『口裂け女伝説』 全2巻 犬木加奈子 / グループ・ゼロ
『不思議のたたりちゃん』や『不気田くん』などで知られる犬木加奈子先生の代表作が『口裂け女伝説』です。
都市伝説の「口裂け女」を、犬木風にアレンジした本作は、発表時に読者に多大なる衝撃を与えました。さまざまな作品に登場し、映像化もされていますが、「口裂け女」と言えば犬木版を思い出す人も多いでしょう。
整形手術で失敗した女性が口をマスクで覆い「私キレイ?」と尋ねてくる、「ポマード」と言うと逃げる……などなど、都市伝説としての有名なエピソードは多々ありますが、本作の口裂け女はひっそりと闇に潜むだけではなく、学校にも幾度となく現れて、生徒を誘拐したり危害を加えたりします。そのため、生徒や教師は「あの女はぜったいまたやってくる!」とおびえ続けます。口裂け女の目的はいったい何なのか……? 第2巻では、口裂け女の狂気が子どもたちにも伝播し、更に悪夢が続きます。恐怖におののきながらも、最後までページをめくる手が止まりません。
独特な大きい目と、不気味な顔を徹底して不気味に描く犬木先生の絵柄も相まって、王道の怖さをしっかりと味わえる作品です。子供の頃に都市伝説で無邪気に盛り上がっていた当時を思い出しながら、「彼女」が背後に忍び寄る怖さを感じてみてください。
楳図かずお先生の短編ホラーの魅力が味わえる『恐怖』
完結『恐怖』(2) 全2巻 楳図かずお / 小学館
ホラー漫画の第一人者である楳図かずお先生。『まことちゃん』や『漂流教室』が有名ですが、ここではホラー短編集の『恐怖』をご紹介します。本作は全2巻で構成されており、おすすめは第2巻のエピソードです。
「第1話 うばわれた心臓」は、高校の同級生で百物語をしている中で、その中の1人・瞳が、自分の体験談を語り始めます。彼女は仲の良い親友と「片方が心臓の病気になった時、片方が死んだら心臓をあげよう」という約束をしますが、その後、瞳は本当に心臓の病気になってしまいます。親友に病気を打ち明けると、彼女は死ぬことを恐れ、見舞いにも行かずに引きこもるようになります。そこに悲劇が……。「うばわれた心臓」というタイトルからも想像できる通り、スプラッター要素・怪奇要素が凝縮された、まさに楳図節が炸裂している一編です。
「第9話 サンタクロースがやってくる」は、祖父と孫の話。父母に早くに死なれ、祖父に育てられた一坊は、祖父が死ぬ間際にハト笛を託され、つらい時に吹くように言われます。時が経ち大人になって、そのハト笛のことなどすっかり忘れていた一坊ですが、ある時、自分の息子がハト笛を吹いてしまったことにより、死んだはずの祖父が息子の元へやってくるようになってしまいます。序盤はハートフルな話と思わせておいて、最後のどんでん返しに見事にやられてしまいます。
やはり何と言っても、楳図かずお先生のタッチは唯一無二。恐怖に駆られた人々の恐怖顔が、更に読み手の恐怖を煽り、一度見ると脳裏に焼きついて離れません。
女性ストーカーが迫り来る恐怖!『座敷女』
完結『座敷女』 全1巻 望月峯太郎 / 講談社
『ドラゴンヘッド』の望月峯太郎先生の、もう一つの代表作がこちら。
ある日の深夜、一人暮らしの大学生・森ひろしの部屋のドアをしつこくたたく、ロングヘアにロングコートの長身の女。「電話を貸してほしい」という彼女を部屋に入れてしまったひろしは、その日を境に女につきまとわれます。
彼女は何者なのか? なぜつきまとうのか? 同級生と共にその正体を明らかにしようとするひろしですが、そこには思いがけない事実が……。
幽霊ではない、実体を持った女の怖さが非常にリアルです。ラストにも背筋の凍る恐怖が待っており、一度読んだら忘れられない作品です。
妖艶なるホラーに魅了される『高橋葉介セレクション 夢幻外伝 I』
完結『高橋葉介セレクション 夢幻外伝 I』 全4巻 高橋葉介 / 朝日新聞出版
高橋葉介先生が描くホラー漫画は、絵柄・ストーリー共に独特かつ繊細です。『夢幻外伝』は、主人公の探偵・夢幻魔実也が出会う怪異や事件が描かれており、ファンタジーホラーとも言える作品です。
「第4話 海鳴りの家」では、魔実也がある未亡人と出会います。彼女の旦那はすでに死んでいると言うのですが、その死因が「首をつった」「焼身自殺した」「毒を飲んだ」と、話すたびに内容がコロコロと変わっていきます。ついには死んだはずの夫まで登場し……。しかし、単純な亡霊の話ではないところが、高橋先生のストーリーの醍醐味。一筋縄ではいかない複雑な物語です。「いったい何が正しいの?」と思いながら読み進めてみてください。
凄惨な描写が多いですが、美しく飄々としている魔実也が人の怨念を浄化する、救いのあるエピソードも多いです。高橋先生の耽美な絵柄と、独特の色気のある瞳は、思わずホラーであることを忘れて見入ってしまいます。昭和ゴシックの雰囲気が好きな方にもおすすめの1作です。
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百物語を語る少年の目的は何か…?『僕が死ぬだけの百物語』
『僕が死ぬだけの百物語』 1~6巻 的野アンジ / 小学館
百物語とは、百話怪談を語り終えると、本物の幽霊が現れ、怪異が発生すると言われている怪談会の一つです。
本作は、目的は不明ですが百物語をおこない、本物の幽霊を呼び出そうとする主人公・ユウマ君が語り部となり、百話の怪談を紹介するストーリーとなっています。
紹介されるどの怪談も、この世のものではない何かが日常を侵食してくる違和感や、人の狂気が徐々に露わになっていく様子の描写が恐ろしく、不気味な雰囲気があり、思わず背筋がゾクっとしてしまいます。
会社や学校、家が舞台の怪談も多く、いつか自分もこんな恐ろしいことに巻き込まれてしまうのではないかと読み進めるうちに不安になります。
そして、なぜユウマ君は百物語をおこなっているのか!? その謎が解かれないままユウマ君の怪談話は続いていきます。百話に近づくにつれ、ユウマ君の周囲では人間関係の亀裂や、原因不明のケガなど怪奇現象が起きはじめますが、それでもなお、何が起こったのか詳細には語られません。
百話の怪談を語ったとき、どんな結末が待ち受けているのか――。それぞれの怪談話と、百物語を語る少年の謎が、二重に楽しめるホラー漫画となっています。
黒髪美少女幽霊と巻きこまれる怪奇事件の数々『死人の声をきくがよい』
『死人の声をきくがよい』 1~11巻 ひよどり祥子 / 秋田書店
可愛らしい絵柄とグロテスクな描写のギャップが話題を呼んでいる、ひよどり祥子先生。本作は、死んだ人間の姿を見ることのできる主人公・岸田純が、殺された幼なじみ・早川涼子の霊と共に怪奇現象に巻き込まれる連作集です。
おすすめは第1巻の第3話「死を呼ぶ大観覧車」。廃墟となった遊園地の跡地に行った岸田くんと、廃墟マニアの従姉のミユ。観覧車の落下事故と、その後に起きた通り魔事件のせいで閉園になった遊園地で、岸田くんは不穏な「この世ならざるもの」を見てしまい、不安を募らせます。しかしそんなことに気づかないミユは、遊園地へ通い続けます。日に日に挙動がおかしくなるミユに気づいた岸田くんは彼女を探そうとしますが、それを早川さんが制止し……。寂れた風景の不気味さが恐怖を倍増し、真相が明かされるラストシーンは、血の気がサッと引きます。
本作の恐怖ポイントは、心霊要素やスプラッター描写はもちろんですが、生きている人間の狂気や残虐性にもあります。そのため、岸田くんや周辺の人々はたびたび命の危険にさらされるのですが、黒髪美少女幽霊の早川さんが、常に無表情で無言でありながら、岸田くんに寄り添ってピンチを救ってくれます。岸田くんも、恐怖を感じはするものの、どこか達観しているところもある少年のため、作品全体はホラーでありながら、時にそれが不思議な面白さにもなっているという、独特な作品です。
現代ホラーを生々しく描いた『恐之本』
『恐之本』 1~10巻 高港基資 / 少年画報社
本作は、身近に起こりそうな心霊体験を描いたオムニバス集です。第1巻の第1話「先住者」では、中古の一軒家に引っ越してきた家族の周りで起こった怪奇現象が描かれています。床の間で見る人影に怯える主人公を、親は信じてくれませんが、ある日事件が……。
ネット社会ならではの、SNSや携帯を通じて遭遇してしまう現代の怪奇現象エピソードも多いため、いつか自分の身にも振りかかるのではないかと錯覚しそうになる恐怖がリアルです。高港基資先生の絵柄は、一見、ホラーではない一般作のタッチのように思えるのですが、それだけに、ページをめくった瞬間の霊や異形の者の描写が迫力満点に迫ってきて恐ろしいです。
『鬼畜島』などで知られる外薗昌也先生が原作を担当し、高港基資先生が作画を担当した『黒異本』も「実話怪談オムニバス」と銘打たれている通り、リアルな恐怖体験を味わうことができるのでおすすめです。
無限に「赤い人」に殺される恐怖『カラダ探し』
完結『カラダ探し』 全17巻 ウェルザード・村瀬克俊 / 集英社
「少年ジャンプ+」で連載中の、人気ホラー漫画。原作はWebで活躍中のケータイ小説家・ウェルザード先生による同名小説です。
ある日、遥という女子生徒が同級生に「私のカラダ探して」と言ったところから、物語が始まります。同級生らは、高校で噂される「赤い人」の伝説に巻きこまれていくのですが、いわゆるデスゲームやサバイバルホラーの要素もある作品です。
知らぬ間に学校に「招かれてしまった」同級生6人は、強制的に「カラダ探し」に参加することに。突如現れた「赤い人」に主人公たちは殺されてしまうのですが、目覚めたらいつもの日常。夢かと思いきや、実は「カラダ探し」を終わらせない限り、何度も「赤い人」に殺されることになってしまう……という、無限にループする恐怖が続きます。
どこか楽しむように迫ってくる、血まみれの「赤い人」が、ものすごく怖いです。「赤い人」は「カラダ探し」の時間だけ現れますが、日常に戻っても、「カラダ探し」を依頼した遥が、授業中に突然首を真後ろに向けて振り返ってくるなど、逃げ場のない恐怖で、次第に日常と非日常の境が曖昧になっていく作品です。
死んだ同級生の復讐か、それとも…!?『切子』
完結『切子』 全1巻 本田真吾 / 日本文芸社
『ハカイジュウ』で知られる本田省吾先生の『切子』は、廃校で巻き起こる惨劇を描いた全1巻の物語。
ある日、イニシャル“K”から届けられた同窓会の招待状。亡くなった同級生「奥村切子」の十七回忌でもある日に、会場となった廃校に集まった参加者の1人が、何者かに殺されます。「これはいじめを苦にして自殺した切子の復讐ではないか?」と、皆が恐怖に怯える中、1人、また1人と犠牲者は増え……次第に切子の死の真相が明らかになっていきます。
廃校から逃げようにも、土砂崩れで脱出することが不可能になるという、クローズドサークルのお膳立ても完璧。また、『ハカイジュウ』で不気味な人外生物を生々しく描写してきた本田先生のタッチが、更なる恐怖を増幅させています。その意外な結末は、ぜひ皆さんの目で確かめてみてください。
ジワジワ怖い!シュール系ホラー漫画9作
鉄板作品が叫び声をあげてしまうような怖さなら、シュール系のホラーは、読後にジワジワとくる怖さや、どこかおかしみのある怖さが特徴です。こちらも、王道作品と話題作をそれぞれご紹介します。人間の本質を捉えてくるような作品があるのもジワジワ系の特徴です。
間違いなしの王道作品はこちら
ここから紹介する4作は、忍び寄るような怖さを実感できる作品です。読み終わった後もモヤモヤとしたものが残るのが、ある意味病みつきポイントとも言えます。
伊藤潤二先生の美しく怖いホラーを堪能するなら『伊藤潤二傑作集』
完結『伊藤潤二傑作集』 全10巻 伊藤潤二 / 朝日新聞出版
ホラー漫画界の鬼才・伊藤潤二先生の作品は、端麗な絵柄でありながら、じわじわ引きずるような独特な怖さが魅力。『伊藤潤二傑作集』は、映画化もされた「富江」(第1巻・第2巻)や、テレビ番組「マツコ&有吉の怒り新党」で紹介された「首吊り気球」(第8巻)の話も収録されている、まさに傑作揃いの作品集です。
恋愛にとらわれた末に不幸な末路を辿る人々を描いた「死びとの恋わずらい」(第4巻)は、読み応えのある中編作品です。霧の深い夕暮れ時に現れる「四つ辻の美少年」。彼に恋占いをお願いした人は、みな否定的なことを言われ、自殺してしまいます。いったい彼は何者なのか? そこには主人公の過去との因縁があり……。美少女は美しく、美少年は麗しく描く伊藤潤二先生だからこそ、よりいっそう悲劇度が際立ちます。
結論があって無いような終わり方もされるため、謎が謎を残したままで、読者は余計に不安をかき立てられます。それこそ、伊藤先生の思う壺なのかもしれませんね。
「栞と紙魚子」シリーズはこの作品から始まる!『栞と紙魚子の生首事件』
完結『栞と紙魚子の生首事件』 全1巻 諸星大二郎 / 朝日新聞出版
『栞と紙魚子の生首事件』は、2008年の第12回文化庁メディア芸術祭でマンガ部門優秀賞を受賞し、「栞と紙魚子の怪奇事件簿」として連続ドラマ化もされた「栞と紙魚子」シリーズの第1作です。女子高生の栞と紙魚子が怪奇現象に巻きこまれていく、基本的には1話完結のストーリー集です。
表題作の「生首事件」は、近所の公園でバラバラ死体の一部が発見されて周囲が騒然としている中、栞が紙魚子に「相談がある」と打ち明けます。実は栞は、公園でその生首を発見し、興奮のあまり思わず持ち帰ってしまったのです。2人は考えた末に「生首の正しい飼い方」という本を参考に、生首を飼い始めることに……。
このあらすじだけでも、この作品のシュールさの一片が伝わるかと思います。うら若き女子高生が、死体にさほど驚きもせず、なぜか生首に餌を与えている……そして生首もなぜか生きているように動いている……。ギョッとするような設定なのに、なぜかクスっとさせられてしまうのが、このシリーズの最大の魅力! 怖さと笑いを兼ね備えたホラーコメディです。
もし、栞と紙魚子をだんだんと可愛く感じてきたら、続編の
も、ぜひ読んでみてくださいね。
恐怖を感じる前の「あの違和感」が満載『不安の種+』
完結『不安の種+』 全4巻 中山昌亮 / 秋田書店
『不安の種』の続編である『不安の種+』は、各話が最短2ページから数ページ程度で完結する超短編集です。
小さい頃、寝つく前の布団の中で、窓やカーテンを見ながら漠然とした恐怖を感じたことはありませんか? 怖さを感じるふとしたきっかけのような、そんな小さな「不安の種」が、本作には散りばめられています。違和感が不安になり、そして恐怖へ。どの話も、ほとんどの理由が明かされないことが多く、結末に含みを持たせている展開のおかげで、薄気味悪さがずっと尾を引き、後からジワジワと怖くなってきます。
ネットでは「検索すると怖い画像」としても有名な「オチョナンさん」は、本作の第1巻に収録されています。これも非常に短い話ですが、一度見てしまうと、オチョナンさんの顔が頭にこびりついて、いつまでも離れてくれません。ちなみにこの「オチョナンさん」は、2013年にまさかの実写映画化。ショッキングなポスターや映像が話題となりました。
中山昌亮先生の畳み掛けるようなストーリーテリングにハマってしまった方には、最新作の『後遺症ラジオ』もおすすめです。
江戸川乱歩の名作を漫画で見事に具現化した『パノラマ島綺譚』
完結『パノラマ島綺譚』 全1巻 丸尾末広・江戸川乱歩 / KADOKAWA / エンターブレイン
江戸川乱歩の傑作小説『パノラマ島綺譚』を、丸尾末広先生が脚色して漫画化。2009年に手塚治虫文化賞を受賞した作品です。
独特の理想郷を夢見る売れない物書き・人見広介が、双生児と言われるほど瓜二つだった大富豪の同級生・菰田源三郎が死んだことを知り、自らの自殺を装って、菰田になりすます計画を立てる。彼は菰田の財産を使い、誰からも相手にされなかった理想郷を具現化するために、大人が楽しめる壮大な楽園「パノラマ島」の建設を進めていく。
土葬されている菰田の墓を掘り返し、死体から差し歯を抜いて自分の歯に埋め込むなど、人見の偽装工作のための執念の行動にはゾッとさせられます。彼は、菰田の取り巻きや妻に正体がバレることを恐れながらも、着々とパノラマ島計画を進め、ついに完成させます。
丸尾先生による、その理想郷の具現化は素晴らしく、圧巻の一言。江戸川乱歩の原作通り、いや、それ以上と言っていいでしょう。見開きで広がるパノラマ島の光景は、水中回廊をはじめ、ありとあらゆる美しい建造物が並び、男女が裸で楽しげに交わる、まさに「楽園」。1枚の絵画のような美しさに、思わずストーリーを追う手を止めて見入ってしまいます。
他のホラー作品とは性質の異なる本作は、人の欲望の果てを描ききったという意味で、人間本来の「怖さ」を堪能できる作品と言えるでしょう。主人公が辿る結末は、ぜひその目で確かめてみてください。
知る人ぞ知る、注目の話題作はこちら
シュール系ホラー漫画の中で、知る人ぞ知る作品や、これからの注目作を5作品ご紹介します。
夢のマイホームに引っ越した日から始まる絶望を描いた『サユリ』
完結『サユリ』 全2巻 押切蓮介 / 幻冬舎
『ハイスコアガール』、『ミスミソウ』、『プピポー』などで知られる押切蓮介先生による本作。得体の知れないものを相手に理不尽な惨劇に襲われる超絶ホラー作品です。
夢の一戸建てマイホームへと引っ越した神木家。家族7人揃ってのありふれた幸せを満喫する間もなく、次々と不幸で不気味な出来事がこの一家にふりかかります。
実はこの一戸建ては近所でも有名ないわく付きの中古物件で、凶悪な地縛霊が憑いていたのです。
物語の前半は、追いつめられていく家族の恐怖と絶望の心理描写や、独特の世界観で描かれた地縛霊が凄まじく恐ろしく、恐怖感を煽ります。
そして遂には主人公の少年と祖母だけが残った神木家。
祖母は地縛霊に対抗するため「命を濃くしろ!」と少年に命じます。「祓って済ませるつもりはねぇ」少年と祖母の“逆襲”が始まります。
前半と雰囲気が大きく変わり、“地縛霊からの理不尽な力”に立ち向かう物語の後半には、ホラー漫画でありながら思わず胸が熱くなります。
全2巻と短いなかで怒涛の展開を繰り広げる巧みなスピード感と、後半の思いもよらない展開!今までのホラー漫画にはないテイストの作品を読みたい方にオススメです。
実際の写真と共に描かれる体験談『【閲覧注異】』
完結『【閲覧注異】』 全3巻 DAYWALKER・阿鬼乱太 / 秋田書店
本作は、『ヤングチャンピオン』の人気企画「1分間奇譚」で、読者から募った体験談をもとに、実際に編集部員が徹底調査し、その恐るべき結果を漫画でレポートした作品です。作中には、実際のモノや現場の写真が紹介されていることもあり、ドキュメンタリー要素が更なる不安を煽ります。
「くねくね」「ファンタゴールデンアップル」「がんぼう岩カレンダー」など、ネットでも有名な都市伝説が取材・検証され、漫画化されています。中でもおすすめは、第1巻収録の「くねくね」。あるグラドル・ちひろ(仮名)が、水辺でのロケを拒む理由と、ロケを敢行してしまったがゆえの顛末がレポートされています。実際の写真が掲載されているラストページは、かなり衝撃的です。
本作『【閲覧注異】』の表紙には小さく「リアル実話ホラーコミック」の文字があります。リアリティがあるがゆえの恐怖はまさに「閲覧注意」です。
不条理満載のシュールホラーギャグ『黒街』
完結『黒街』 全3巻 小池ノクト / 秋田書店
『蜜の島』・『6000―ロクセン―』の小池ノクト先生による本作。ゾンビのような表紙にビクッとした方も多いでしょうが、中身は良い意味でギャップが激しいので、怖がっている人にこそ、ぜひ読んでほしい作品です。
ひきこもりの高校生・幸一は父親と2人暮らしで、リストラされた父の再就職先はスーパーの深夜パート。ある日、父の忘れものをスーパーに届けにきた幸一は、バックヤードの調理場でゾンビの大群に遭遇。従業員が食い殺される中、幸一と父はなんとか逃げ出します。
その後も、父は勤め先を転々とし、その先々で奇妙なことが次々と起こります。しかし、どんなに恐ろしい目にあっても、父はなぜか平然とそれを受け入れ、職場に行くことをやめないのです。そして父が父なら息子も息子で、久々に行った学校で、教師や生徒のホラーな行動に遭遇することに……!?
旅館を経営する祖父や、中二病のオカルト女子・小早川さん、なぜかゾンビを当たり前のようにあしらう職場の人々など、みんな一見まともなのに、どこかおかしい人ばかり。どんな状況でも決してめげない父には、もはや尊敬の念すら抱きます。不条理満載のシュールホラーギャグとして、続きが楽しみな1作です。
コミカルとホラーのバランスが絶妙な『りんたとさじ』
完結『りんたとさじ』 全1巻 オガツカヅオ / 朝日新聞出版
本作は、主人公・サジ(佐藤順子)が、特異なモノが見える彼氏・リン太と、奇妙なできごとを体験していく全1巻の連作短編集です。
衝撃的な結末のエピソードは「妖精の人」。3日間、連絡がつかない女性を探すために、サジとリン太は彼女のゴミ屋敷のような家を訪れます。実は彼女、行方不明になる前に2人と会った時に「妖精になりたい」と言っていました。その女性に、サジは「若いしキレイ」と言い、リン太は「色艶があっていいと思います」と答えているのですが、最終ページのコマで、その理由が分かった瞬間のショックは、他のホラー作品にはないインパクトです。「リン太が見ていたもの」が何だったかは、ぜひ作品で確かめてみてください。他のエピソードも、予想を裏切るラストの連続で、オガツカヅオ先生の構成力に唸らされます。
恐怖も不条理さもありながら、サジとリン太のコミカルなやりとりには、どこかホッとさせられることもあり、不思議と何度も読み返したくなる作品です。
押切蓮介先生の実話系ホラー短編集『暗い廊下とうしろの玄関』
完結『暗い廊下とうしろの玄関』 全1巻 押切蓮介 / KADOKAWA / メディアファクトリー
『でろでろ』のようなホラーギャグから、『ミスミソウ』のようなサイコホラーまで、幅広い作風が魅力の押切蓮介先生が描く『暗い廊下とうしろの玄関』は、作者が体験した話や、知人やアシスタントから聞いた話などをもとに、フィクションも織り交ぜた短編集です。過激でグロテスクな描写も多い押切先生ですが、本作は見たままの怖さというよりは、背後からにじり寄るような怖さが味わえる作品となっています。
一つ目のエピソードである「赤い家」は、押切先生の父親が失踪した際の話です。各話の最後には裏話的な制作エピソードが書かれているので、漫画でゾクッとした後にそれを読むとちょっとホッとしつつ、でも「じゃあアレはいったい……!?」と謎は残り続ける、という独特の後味が病みつきになります。
作風からもわかる通り、ホラー好きなことで知られる押切先生ですが、そんな先生でもやっぱり「怖いものは怖い!」と書かれているのを読むと、ゾクゾクしながらも妙な安心感を覚えますね。
まとめ
いかがでしたか? ホラー漫画は星の数ほどあり、絵も話もバラエティに富んでいます。今回ご紹介した作品の中からお気に入りが見つかったら、その作家さんの他の作品も手に取ってみてはいかがでしょうか。
寝苦しい熱帯夜も、これらの作品を読めば、ゾクゾクっと涼しくなれるかもしれませんよ。
▼ホラー漫画の次は、「ミステリー漫画」や「サスペンス漫画」もどうぞ☆