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ぶくまる – 書店員おすすめの漫画・本を紹介!

書店員が選んだ「本当に面白い漫画・本」をご紹介!

1巻完結のおすすめ漫画30選!気軽に読めて面白い!

※2023/5/18に『塀の中の美容室』『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』の2作品を追加しました。

長編や大作に注目が集まりがちですが、短編集や1巻完結の漫画も、世の中にはたくさん存在します。1巻完結漫画の良いところは気軽に作品を味わえることですが、短いからこそ、そこにはぎゅっと作家性が詰め込まれているとも言えるのです。今回は、1巻完結漫画の定番18作と、書店員がオススメする12作の、全30作を紹介します。

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ハズレなし!定番の1巻完結漫画おすすめ18作

まずは、1巻完結漫画の中で「定番」作品をご紹介します。ロングセラーの作品から、短編の名手が手掛けた作品、有名な漫画家が描いた1巻完結ものまで、まず読んでおいて間違い、ハズレなしの1巻完結漫画をご紹介します。

『塀の中の美容室』

完結『塀の中の美容室』 全1巻 小日向まるこ / 原作:桜井美奈 / 小学館

新しい一歩を踏み出す勇気をくれる物語!

【ジャンル】ヒューマンドラマ

『塀の中の美容室』は2021年の第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門にて優秀賞を受賞した作品です。
作者・小日向まるこ先生は前作『アルティストは花を踏まない』でも文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品に選ばれています。

「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」ということわざから名づけられた、刑務所の中の「あおぞら美容室」。そこで一般客の髪を切っている受刑者・小松原葉留を中心に、その美容室に訪れる“事情”を抱えた客たちが、髪を切ってもらうことや、葉留からかけられる言葉によって、救われ、新たな一歩を踏み出していく再生の物語です。また葉留も客たちや刑務官と交流することで未来への一歩を踏み出します。

『とりあえずひとつだけ決めて頑張ってみたら、他のこともまた連鎖していい方向に進むような…そんな気がします。』
第1話で仕事や人間関係でうまくいかずに悩んでいる週刊誌の記者に、葉留がかける言葉です。つまずいたときにこの言葉を思い出せば、また立ち上がる勇気をもらえそうな気が個人的にしました。
人の心に寄り添いながら、新しい一歩を踏み出す勇気をくれる物語。読み終わったあとにほんのり心が温かくなる1冊です。

『塀の中の美容室』を試し読みする

『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』

完結『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』 全1巻 真造圭伍 / 小学館

『ひらやすみ』の著者が、日常をユーモラスに描く全8篇!

【ジャンル】ヒューマンドラマ

実写化された『森山中教習所』『トーキョーエイリアンブラザーズ』 のほか、現在は週刊スピリッツで最新作『ひらやすみ』 を連載中の真造圭伍先生の、2017~2021年の作品をまとめた短編集です。

収録されている作品は、第三次世界大戦がはじまり戦場と化した新宿で、敵と戦闘中の2人の男(居酒屋店員とその店の元客)が、戦争前の居酒屋の思い出を語り合う「居酒屋内戦争」や、それぞれに癖のある家族の日常と再出発(?)をユーモラスに描き、心にじんわり沁みる「清水家のすべて。【前編・後編】」、夜に気軽に飲める友達を作りたい漫画家の、高円寺の居酒屋での一夜を描く「いつでもフラッと飲める友達がほしいよ」など、多種多様なジャンルからなる全8篇です。

なかでもおすすめは、真造先生自身の入院生活闘病記の「悪性リンパ腫で入院した時のこと」です。2020年に悪性リンパ腫が見つかった真造先生の入院中の心境や、周囲の入院患者さんとの交流を経て、『ひらやすみ』の執筆に至るまでの心の変遷が伝わってきます。2020年といえば、コロナ禍がはじまり、人と人の交流が制限された時期。そんな中での入院・闘病を通し、何気ない日常の輝きや、人とかかわる喜びを感じた真造先生の心境を垣間見ると、些細な日々の幸せを優しく描く『ひらやすみ』の世界が、さらに尊いものに感じられます。
『ひらやすみ』ファンはもちろん、日常をユーモラス に描いた短編好きにおすすめの一冊です。

『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』を試し読みする

『惑星9の休日』

『惑星9の休日』『惑星9の休日』

完結『惑星9の休日』 全1巻 町田洋 / 祥伝社

独特のタッチと星新一を思わせるストーリーが魅力

【ジャンル】SF・ヒューマンドラマ

2020年に、WEB漫画『船場センタービルの漫画』が話題になった町田洋先生。彼のデビュー作にあたる今作では、地球によく似た環境の「惑星9(ナイン)」を舞台にしたショートショート~短編が8編収録されています。

思い出を追いかける作家志望の男と少女の恋、そして惑星9のとある一日を描く表題作をはじめ、どの作品も不思議とノスタルジックな気持ちに。穏やかな日常生活に、ごく自然に挿入されるSF要素は、まるで星新一先生のショートショートのようです。とはいえ星作品ほどシニカルさはなく、ストーリーには温かみや愛嬌があります。我々が住む地球の近くに、こんな穏やかな星があるのかもしれないと思うだけで心が軽くなるはずです。

絵柄も非常に魅力的で、シンプルな線と、独特な奥行きをもった空間に惹きつけられます。1コマ1コマがポストカードにでもなりそうな線の温かみが、原稿用紙に手書きされた小説や、映画のフィルムといったアナログな小道具とマッチ。なのに世界観はきちんとSFで、アンバランスさがクセになります。

今作で町田先生ワールドにハマった方には、SFショートショート『夜とコンクリート』(祥伝社)もぜひ!

『惑星9の休日』を試し読みする

『ひきだしにテラリウム』

『ひきだしにテラリウム』『ひきだしにテラリウム』

完結『ひきだしにテラリウム』 全1巻 九井諒子 / イースト・プレス

九井諒子ワールドに浸れるショートショート33編

【ジャンル】SF・ファンタジー・ギャグ・ヒューマンドラマ

作者は大人気『ダンジョン飯』(エンターブレイン)の九井諒子先生。SFからファンタジー、日常系まで、幅広いテーマを最短2ページの物語にまとめた、第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作です。

豊かすぎる感受性と観察力と想像力、そして思いつきを具現化する構成力と、どれだけの根気を要するのかと震える緻密な絵柄と、魅力がてんこ盛り。“未来の少女漫画”で笑わせにくるシュール系SF「すれ違わない」、ザ・ファンタジー「湖底の春」などでイマジネーションとセンスを感じさせてくれる一方、誰にでも経験があるだろう「代理裁判」、眠る寸前に夢と現実が溶け合う「ノベルダイブ」といったリアリティのある作品もあり、とにかく情報量が豊富です。聖なる存在・龍を食す「龍の逆鱗」や、グルメ(?)漫画「すごい飯」など、『ダンジョン飯』に通じる作品もあり、全33編をあらゆる角度から楽しめます。

味をしめた方には、短編中心の作品集『竜のかわいい七つの子』(KADOKAWA)がおすすめ。また、商業デビュー作『竜の学校は山の上』(イースト・プレス)も、『ダンジョン飯』のルーツが垣間見える、興味深い内容となっています。

『ひきだしにテラリウム』を試し読みする

『水上悟志短編集「放浪世界」』

『水上悟志短編集「放浪世界」』『水上悟志短編集「放浪世界」』

完結『水上悟志短編集「放浪世界」』 全1巻 水上悟志 / マッグガーデン

リラックスして読んでほしいバラエティ豊かな5編

【ジャンル】SF・ファンタジー・ギャグ・ヒューマンドラマ

『惑星のさみだれ』『スピリットサークル』(ともに少年画報社)などで知られる水上悟志先生の、4作目の短編集。公開時話題になった表題作「虚無をゆく」は、読み切りにもかかわらず74ページと大ボリュームで満足をお約束。虚無よりきたる超巨大な怪魚と、日々戦う超大型宇宙船を舞台にしたSF中編です。タイトルが「放浪世界」ではなく「虚無をゆく」である理由と合わせてお楽しみください。

ほか、容姿も発言も全く同じ双子の青春劇「竹屋敷姉妹、みやぶられる」や、人間の頭の上に住む小さなドワーフを題材にした「まつりコネクション」など、読めば日常への視点が少しだけ変わりそうな全5編を収録。おじさんがいまさら厨二ドリームを叶える「今更ファンタジー」は、大人が読んでこそ心に響くはず。戯れに描いたという「エニグマバイキング」は別の話も作れそうで、続きを期待してしまいます。

連載の間に描いた作品とは思えないほど、満足感も読み応えも抜群。ちょっとした仕草や会話で読者を惹きつけるキャラクター、短い導入でスルッと作品世界にのめり込める世界観はお見事です。短い移動時間や気分転換のお供にもぴったりです。

『水上悟志短編集「放浪世界」』を試し読みする

『式の前日』

式の前日式の前日

完結『式の前日』 全1巻 穂積 / 小学館

短編集ながら驚きのあるオチが見事

【ジャンル】ヒューマンドラマ・ラブストーリー

定番作品の筆頭はやはり『式の前日』でしょう。2012年の刊行以来、多くの読者の心を捉え続けている、穂積先生のデビュー短編集です。

表題作「式の前日」は、結婚式を明日に控えた男女の物語。ポカポカとした陽気の中、縁側で男性が昼寝をしているシーンから始まり、女性がドレスのチェックをしたり、結婚式の席順について今さらながら悩んだり、2人で夕食を食べて手を繋いで寝たり、慌ただしくもまったりした結婚式前夜が描かれています。

仲睦まじい2人の会話に説明的なセリフはなく、読者はこの2人の空気感から色々と想像するしかありません。その会話の妙味がラストに結実。この日が2人にとって、本当は“どんな意味”があったのかが明らかになるのです。作者の手際は実に鮮やかで、もう一度最初から物語を読み返したくなるはずです。

続いて収録されている、娘と父の夏の1日を描いた「あずさ2号で再会」もオチが見事な作品。孤独な小説家と女子中学生の交流を描いた「10月の箱庭」、「式の前日」の主人公が再び登場する「それから」と、いずれも日常を題材にしながら、意外な展開で読者に驚きを与える作品ばかりです。短編漫画の魅力を味わいたいなら、外せない1冊です。

『式の前日』を試し読みする

『邪眼は月輪に飛ぶ』

邪眼は月輪に飛ぶ邪眼は月輪に飛ぶ

完結『邪眼は月輪に飛ぶ』 全1巻 藤田和日郎 / 小学館

藤田和日郎ワールドを1冊で味わうならコレ!

【ジャンル】バトル

『うしおととら』『からくりサーカス』など、ダークファンタジー大長編を描いてきた藤田和日郎先生の作風を1巻で堪能できるのが本作です。見つめられた者に死をもたらす邪眼を持つフクロウ〈ミネルヴァ〉。アメリカ軍の空母に捕らえられていたそれは、乗組員を全滅させて脱走し、東京に舞い降ります。そして、市民から政府高官までを次々に殺し、東京を瞬く間に死の街に変えてしまうのでした。ミネルヴァ対策のために来日したアメリカ陸軍特殊部隊のマイケルと、CIAのケビンは、山奥に住む猟師・鵜平を訪ねます。彼こそは、かつてミネルヴァの羽根に銃弾を撃ち込むことに成功した、唯一の人物なのでした。祈祷師である義理の娘・輪とともに東京に訪れた鵜平は、ミネルヴァと再び対峙することになります。

血の涙を流しているように見えるミネルヴァの邪眼や、鳥の仮面を被った謎多き老人・鵜平の存在感に圧倒されます。そして、読む者を引きこむ、熱い人間ドラマ。鵜平と輪、マイケルやケビンら、メインキャラクターの過去が巧みにストーリーに挿入され、戦いに賭ける全員の思いがひしひしと伝わってきます。そこからさらに、邪眼を持ったミネルヴァの、生き物としての切なさまで踏みこんでいるところがすごい! 強くて優しいのが、藤田作品です。

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『外天楼』

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完結『外天楼』 全1巻 石黒正数 / 講談社

日常ミステリーから予想外のラストに導かれる

【ジャンル】ミステリー

とある商店街の不思議な日常をコメディタッチで描いた『それでも町は廻っている』で知られる石黒正数先生の、軽快なセリフ回しと考え抜かれたストーリーテリングが魅力の作品です。

物語の舞台は、増築と改築を重ねて、迷路のような複雑な作りになっている集合住宅「外天楼」(げてんろう)。個々の短編には、外天楼に関わりを持つ様々なキャラクターが登場するのですが、次第に物語が繋がり始め、読者は予想もつかないラストシーンへと導かれていきます。

第1話「リサイクル」は、ゴミ捨て場に捨てられたエロ本を巡る少年たちの、たわいもないストーリー。いったいどんな人物がエロ本を捨てたのか、主人公のアリオと友人が頭をひねる日常系ミステリーです。それが第3話「罪悪」になると、ロボットが人間に混じって働く世界を描いた近未来SFに。しかし、第1話にも登場したアリオの姉が、ちょっとだけ姿を見せることで、両方の作品の時間が繋がるのです。

外天楼の住人の生い立ちと、ロボット開発を巡って起こるさまざまな事件。それが全体のストーリーを貫く2つの軸です。序盤はコメディタッチのエピソードが多いのですが、やがて自然にシリアスに変わっていく流れもすばらしい!要所要所に張られた伏線を、読み終わった後、絶対にもう一度確かめたくなります。

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『銀河パトロール ジャコ』

銀河パトロール ジャコ銀河パトロール ジャコ

完結『銀河パトロール ジャコ』 全1巻 鳥山明 / 集英社

宇宙人ジャコがかわいい! 『ドラゴンボール』とも繋がる

【ジャンル】SF・ギャグ・アクション

『Dr. スランプ』『ドラゴンボール』の2大長編を持つ鳥山明先生ですが、1巻完結の作品も多く発表しています。本作は2013年に週刊少年ジャンプで短期連載されたもの。地球へとやって来た銀河パトロール隊員・ジャコの活躍を、笑いありアクションありで描いた作品です。

とある任務を与えられ、地球へと向かっていたジャコは、宇宙船のトラブルによって海に不時着。ある島にたどり着き、大盛という一人暮らしの老人と出会います。実は大盛は、タイムマシンの研究をしている時空工学博士。ジャコは、宇宙船の修理を頼んで、島に居候を始めます。

ジャコの顔は能面のようで、いかにもステレオタイプの宇宙人。決めゼリフを言う時に、いちいちかっこいいポーズを取るところなどは、『ドラゴンボール』のギニュー特戦隊を連想させます。かわいいルックスとは裏腹に、人類を絶滅させられるウイルス爆弾を手に、「イラッとしたらすぐにスイッチを押すかも」と言うブラックな一面も持ち合わせています。

やがて、ジャコと大盛は、タイツという女の子と知り合います。勝ち気なタイツは、実は『ドラゴンボール』との関わりを持つキャラクターです。そして物語の終盤には、意外なゲストキャラも登場。ジャコが地球にやって来た目的の全てが分かった時、鳥山ファンは膝を打つことでしょう。ジャコは、現在放送中のTVアニメ「ドラゴンボール超」にも、準レギュラーキャラとして登場しています。

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『スキエンティア』

スキエンティアスキエンティア

完結『スキエンティア』 全1巻 戸田誠二 / 小学館

女神の像が見下ろす街を舞台にしたヒューマンSF

【ジャンル】SF・ヒューマンドラマ

屋上に「科学」と「知識」の女神スキエンティアの像が立てられた高層ビル「スキエンティア・タワー」。女神に見つめられながら暮らす人々の短編集です。戸田誠二先生は、ヒューマニティ溢れる短編集をいくつも著している短編の名手。本作はSF仕立てという、他の短編集にはない特徴を持った作品です。

第1話「ボディレンタル」は、自殺願望のある若い女性・香織が、ある機械によって他人の脳波を自分の体に入りませ、その人に体を貸すという奇妙な仕事を引き受ける話。依頼主は、IT業界で成功した、凛とした老婆。「もう一回だけ、生身の手足で働いてみたい」というのが、彼女の願いでした。このエピソードは、2008年放送の「世にも奇妙な物語 秋の特別編」内でドラマ化され、香織を内田有紀さんが演じています。

現実では体験しえないドラマを描きつつ、人生や仕事に悩む人々の姿をリアルに描き出す短編は、どれも読後感は爽やか。不思議な出来事が起こる中で、登場人物たちは泣いたり笑ったり、人生を噛みしめます。そして、ふと見上げると、そこにはスキエンティアの姿が。何も言わぬ女神の視線が象徴するように、静かな感動を味わえる1冊です。

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『ブラッドハーレーの馬車』

ブラッドハーレーの馬車ブラッドハーレーの馬車

完結『ブラッドハーレーの馬車』 全1巻 沙村広明 / 太田出版

少女達の悲劇を通して、人間の罪深さを描く

【ジャンル】ミステリー・サスペンス

『無限の住人』の沙村広明先生による連作短編集。少女たちの過酷な運命を描き、読後感は決して爽やかとは言えませんが、人間の善悪を深く考えさせてくれる作品です。

舞台となるのは、西洋のとある国。時代は19世紀末から20世紀初頭にかけてと思われます。貴族院議員のブラッドハーレー公爵が、全国の孤児の少女を養子に迎えて作り上げた「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」は、孤児院で暮らす少女達の憧れの存在でした。晴れて養子に選ばれた少女を迎えに来るのが、ブラッドハーレーの馬車。少女は希望と共に馬車に乗り込みますが、向かう先は地獄でした。「ブラッドハーレー聖公女歌劇団」の裏には、国家レベルの非人道的な計画が潜んでいたのです。

希望から絶望へと一気に落とされ、犠牲となった少女の姿を軸に、各話ごとに主人公を変え、ブラッドハーレー公爵の恐るべき計画に絡む人々の思いが語られていきます。中には、醜いエゴを見せる少女もいれば、非人道的な行為を恥じる大人もいて、人間が持つ業があぶり出されていきます。描写が淡々としているからこそ、恐ろしさが膨れあがる作品です。

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『回游の森』

回游の森回游の森

完結『回游の森』 全1巻 灰原薬 / 太田出版

他人の秘密を覗き見るような背徳感が詰まった1冊

【ジャンル】ヒューマンドラマ

平安京を舞台にした歴史ミステリー『応天の門』で、第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞した灰原薬先生。本作は現代が舞台の短編集であり、普通の人々が隠し持つ「秘密」がテーマです。

第一話「逃げ水」は、12年ぶりに田舎に住む従妹と再会した35歳のサラリーマンが主人公。以前2人が会った時、彼は大学生で、従妹は未就学の児女でした。その時にふと漏らしてしまった彼の「秘密」を、女子高生となった従妹は、果たして覚えているのか? お互いの心の内を探り合う2人の会話には緊迫感が漂います。

他の物語でも、「隠された過去」や「誰にも言えない秘密」を軸に、男女のストーリーが展開。登場人物たちの、後ろ暗い部分を覗き見してしまうような、背徳的な味わいが本作の魅力です。また、各話のラストに、次のエピソードに登場する新たなキャラクターがそっと顔を見せているのも面白いところ。「秘密」を抱えた人たちの物語は、実は連鎖しているのです。

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『ちーちゃんはちょっと足りない』

ちーちゃんはちょっと足りないちーちゃんはちょっと足りない

完結『ちーちゃんはちょっと足りない』 全1巻 阿部共実 / 秋田書店

多感な女子高生の胸の内がヒリヒリ痛い

【ジャンル】ギャグ・コメディ

「このマンガがすごい!2015」オンナ編の第1位に輝いた本作は、女子中学生の複雑な自我を深く掘り下げて、多くの反響を得ている作品です。クラスの他の女子と比べると極端に体が小さくて、性格も幼く、勉強ができないちーちゃん。それでも、同じ団地に住むナツや、優等生の旭といった友達に囲まれ、楽しい学校生活を過ごしていました。

思ったことは全て口にして、悩みなど全くないように見えるちーちゃん。一方で、ナツは悩めるキャラクターです。ちーちゃんと2人だけの時は笑顔でいられるのですが、自分より勉強ができたり、彼氏がいたり、お洒落だったりするクラスの女子と自分を比べて、「なんだか私たちって 本当何もないな」と自虐的になってしまうのです。そんな時、クラスである事件が起こり、物語は急展開。他者へのひがみに満ちたナツの心はどんどんどす黒く、悪い方に転がっていきます。かわいい絵柄を逆手に取り、貧困やスクールカーストなど、子供の世界の中での生きづらさを真摯に描いた作品です。

『ちーちゃんはちょっと足りない』を試し読みする

『虫と歌 市川春子作品集』

虫と歌 市川春子作品集虫と歌 市川春子作品集

完結『虫と歌 市川春子作品集』 全1巻 市川春子 / 講談社

日常の中の神秘的なファンタジーに魅せられる

【ジャンル】ヒューマンドラマ・SF

『宝石の国』がTVアニメ化され、注目を集めている市川春子先生の初期短編集。デビュー作である「虫と歌」他、全5編の作品が収録されています。どの短編も、普通の暮らしをしている現代人を描いているように見えて、ファンタジーの要素がスッと入りこんでくるのが特徴。例えば、最初に収録されている「星の恋人」は少年が叔父さんの家を訪れるシーンから始まるのですが、「人としての生活は順調かい?」という、叔父さんの謎めいたセリフが、何気なく入りこんできて、物語の奥には何か「秘密」が潜んでいることが伝わってきます。この作品を読み終えた時、読者は、市川春子という作家の持つ、神秘的な魅力に気づくはずです。そして、その後に続くどの短編も、日常風景の中に非日常的な会話や出来事が自然に差し込まれています。

表題作の「虫と歌」も、もちろんその1つ。一軒家に同居している三兄妹の物語で、兄は虫を設計することを仕事としています。弟は兄の作り出した虫の模型作りを手伝っているのですが、どうも単なる玩具を作っているようには思えません。そんな時、とある意外な訪問者が現れて、物語は少しずつ謎のベールを剥がしていきます。この作品のラストの切なさは、なかなかに体験できないものです。

どの短編も、どうしたらこんな発想が生まれるのだろうか、という驚きの連続。唯一無二の才能が生み出した短編集です。

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『珈琲時間』

珈琲時間珈琲時間

完結『珈琲時間』 全1巻 豊田徹也 / 講談社

コーヒーを介して繋がり合う、人と人の物語

【ジャンル】ヒューマンドラマ

忙しさから少しだけ解放されたり、誰かとゆっくり話をしたりと、人生に豊かな時間を与えてくれるのがコーヒー。本作に収録されている17編の短編はすべて、コーヒーがモチーフになっています。第1話「Whatever I want」は、チェロ奏者の女性が、喫茶店で怪しげなイタリア人の男と出会う話。女性は、小銭の持ち合わせがないと言う彼にエスプレッソを奢らされ、うさん臭い話を聞かされるはめに。コーヒーを飲みながらの2人のテンポのいい会話はユーモアに満ちていて、読者を楽しませてくれます。

ちょっとませた男の子が、カプチーノを飲みながら探偵に調査を依頼したり、人生に悩んだ若い女性が、叔母のアパートでコーヒーを淹れながら話しこむことで心が救われたり、裏社会の男達が拳銃を向け合う緊迫した場面で、コーヒーを飲み交わしたりと、登場人物の設定も、彼らが置かれた状況も様々。どの短編も人間の機微に触れていて、オチの付け方も見事です。

講談社の漫画賞のひとつ「アフタヌーン四季賞」に応募した作品が、巨匠・谷口ジロー先生に絶賛されてデビューしたという経歴を持つ、豊田徹也先生。ウィットに富んだ人物描写や、セリフがないコマにも溢れる深い叙情は、谷口ジロー先生の作品にも通じるものを感じます。

『珈琲時間』を試し読みする

『神様がうそをつく。』

神様がうそをつく。神様がうそをつく。

完結『神様がうそをつく。』 全1巻 尾崎かおり / 講談社

子供だけの切ないひと夏の冒険

【ジャンル】ヒューマンドラマ・ラブストーリー

純情なサッカー少年と、家庭に問題を抱えた女の子の、ひと夏の物語を描いたロングセラー作品です。ライトノベル作家の母と二人暮らしで、サッカーに夢中の小学生・七尾なつるは、ある夜、拾った猫がきっかけで、同じクラスの鈴村理生(りお)の家を訪れます。そして、大人がいない家に、弟とたった2人で暮らしているという彼女の秘密を知ってしまうのでした。

子供の気持ちを全く考えていない、大人の勝手気ままな言動に振り回されてしまうなつると理生。だからこそ、2人は手を繋ぎ合って、自分達の生活を守ろうとします。しかし、子供にできることには限界が。なつるは、母親に理生のことを打ち明けることができず嘘をつき、理生は困難な状況に追いこまれた時、社会の常識から外れた行いをしてしまいます。子供のピュアな心情を描きつつ、その一方で、大人を頼れない子供2人の危うさや精神的な未熟さも漏らさずに描写しているところに、本作の深みがあります。

酷い大人達がいる中で、救いになるのは、なつると母親の絆。問題行動を起こしてしまうなつるに戸惑いながらも、息子を信じ続ける母の姿には心を揺さぶられます。子供だけのひと夏の冒険が終わった後、なつると理生の明るい未来を予感させるラストも見事です。

『神様がうそをつく。』を試し読みする

『GOGOモンスター』

GOGOモンスターGOGOモンスター

完結『GOGOモンスター』 全1巻 松本大洋 / 小学館

子供だけが見える不思議な世界

【ジャンル】ファンタジー

実写映画化・TVアニメ化された『ピンポン』や、アニメ映画化された『鉄コン筋クリート』などで知られる松本大洋先生の作品。と言っても全450ページで、完成に2年の月日がかかったという大作です。高い評価を得て、2001年に第30回日本漫画家協会賞特別賞を受賞しました。

舞台となるのは、とある小学校。立花 雪は、学校にいる目に見えない何かの存在を感じると言い出したり、机におどろおどろしい絵を描いたりして、周囲から浮いている少年でした。3年生になった4月、クラスに4人の転校生がやってきます。偶然、雪の隣の席に座ることになった転校生の鈴木誠は、いきなり、「あっち側のボス」の存在を、「君は信じますか?」と話しかけられます。そこから誠は、雪の内面世界に惹きつけられていくのでした。

雪と誠が繰り返す、抽象的で捉えどころがない会話の数々と、アーティスティックな描線は、まさに松本先生の世界。子供だけが感じることができる、現実に寄り添うもう一つの世界に、読者は誘い込まれます。子供には、いったい何が見えているのか。それを考えるのではなく、感じる1冊です。

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『ドントクライ、ガール』

ドントクライ、ガールドントクライ、ガール

完結『ドントクライ、ガール』 全1巻 ヤマシタトモコ / クロフネ編集部

常識人の女子高生が全裸のイケメンと同居!?

【ジャンル】ラブコメ

親の都合で、父親の知人で31歳のイケメン・升田のもとで居候することになった17歳の女子高生・たえ子。家のチャイムを鳴らすと、部屋から出てきたのは素っ裸の男でした。年頃の娘を裸族のもとに居候させる親と、年頃の娘がいても恥ずかしげもなく裸族を貫く升田に、たえ子は自分の中の常識が崩れ……。唯一の常識人で冷静なたえ子の、ツッコミが止まらない新生活が始まったのでした。

裸で生活している升田ですが、外では、顔はイケメンで服のセンスもよく、完璧に見えるのが憎い……! ことあるごとにたえ子に対して萌えまくる升田の変態性と妄想癖にツッコミを入れつつ、たえ子は、ふと、育ちもよくて優しい彼と結婚してもいいかもなあと思います。そこからが怒涛の展開。升田のペースだった物語が逆転し、策士なたえ子に主導権が渡ります。

升田の友人で、イケメンのパティシエながら下ネタ好きの陣内や、感情豊かなたえ子のクラスメイト・百合香と美晴といった面白キャラも加わり、2人の周りは一層賑やかに。ライト感覚で読める、イケメン“裸族”とクールな女子高生の年の差ラブコメディです。

『ドントクライ、ガール』を試し読みする

書店員が今おすすめしたい、1巻完結漫画12作

BookLive!書店員が「今おすすめしたい」1巻完結漫画を紹介します。これから注目したい漫画家の作品からベテラン漫画家の最近出た短編集まで、「定番作品はもう知ってるよ!」という方におすすめのラインナップです。

『忘れられない』

忘れられない忘れられない

完結『忘れられない』 全1巻 谷川史子 / 集英社

後悔した恋の切なさが胸に響く

【ジャンル】ラブストーリー

まずは、30年のキャリアを持つベテラン・谷川史子先生の新しめの短編集。表題作の「忘れられない」は、母と娘、それぞれの忘れられない恋を描いています。1人で日帰り旅行に出かけたまま、数日経っても帰ってこない母。それに対し、父は慌てた様子もなく「そっとしておいてやれ」と言い、智花は夫婦の間に何か秘密があることに気付きます。そんな智花も、学生時代に付き合っていた元カレ・暁と再会し、「ともだち」として会うように。母の過去を追いながら、智花は今でも暁を想い続けていた自分の気持ちと向き合います。

結婚相手や恋人だけを愛することができたら、悩むことはありません。過去を後悔しているからこそ、思い悩むのではないでしょうか。相手に心を残したまま年を重ね、ずっと忘れられなかった恋の終わらせ方を描いた本作は、甘いだけではない恋の切なさが胸に響く作品です。

イケメンゆえに恋に臆病になっていた若手編集者の純愛を描いた「つまさきで踊る」や、高校時代の同級生の結婚式に出席した女性が、心の奥底に潜んでいた恋心に気づく「春の前日」など、優しくて、ちょっぴり切ない恋の物語が収録されています。

『忘れられない』を試し読みする

『春と盆暗』

春と盆暗春と盆暗

完結『春と盆暗』 全1巻 熊倉献 / 講談社

変わった感性の女の子達が魅力的な短編集

【ジャンル】ラブストーリー

2014年にデビューした熊倉献先生の4つの短編集です。舞台となるのは、バイト先や学校など、ごく普通の日常。しかし、独特の感性を持つ登場人物たちによって、ありきたりの風景が、奇妙で魅力的な世界へと姿を変えていきます。

第1話「月面と眼窩(がんか)」のヒロインのサヤマさんは、バイト先でイヤな客と接している時に、背中に回した手のひらを握ったり開いたりする、変わった癖を持つ女の子。主人公の冴えない男子・ゴトウくんが「なんかのおまじないとか?」と尋ねると、「…モヤモヤした時は 月面を思い浮かべて そこに思いっきり 道路標識を放り投げるんです」という答えが。いつもニコニコしていて普通に見えるサヤマさんのエキセントリックな頭の中に、ゴトウくんは急速に惹かれていきます。

カラオケボックスの客で、毎回名前が変わるセーラー服の女の子と鉄道オタクのバイトくん、世界が早送りして見えるようになってしまったホシノくんと、「早送りではなく巻き戻しできないか」と問いかけた甘党女子の大友さんなど、この短編集で描かれているのは、恋愛ドラマの本流にはなり得ない男女の物語。クラスや社会から少々浮いた存在である彼らの恋は、独特な言葉のやり取りの中で進んでいきます。イケメンと美女の恋物語はお腹いっぱい! という方に、特にオススメしたい1冊です。

『春と盆暗』を試し読みする

『休日ジャンクション』

休日ジャンクション休日ジャンクション

完結『休日ジャンクション』 全1巻 真造圭伍 / 小学館

ちょっぴり切なくてちょっぴりエロティックな詰め合わせ

【ジャンル】ヒューマンドラマ

『森山中教習所』が2016年に実写映画化された真造圭伍先生。本作は、『森山中教習所』の映画公開に合わせて刊行された短編集で、バラエティ豊かな7編が収録されています。

最初の「休日」は、作者曰く「青年から大人になってしまった二人のお話」。20代の男性2人が、平日の木曜日に待ち合わせして、テニスをしてファミレスでダラダラするだけの話なのですが、学生の頃の自由だった時間はもう終わってしまったという空気感が漂っています。ゴジラが重要キャラとして登場する「ゴジラカップル」や、小学校5年生の美少女と会社員の青年の怪しいデートを描く「美少女なんて大嫌い」など、エロティックな展開にドキリとさせられる物語も。ですが、一番の衝撃作はラストに収録されている「家猫ぶんちゃんの一年」でしょう。

一人暮らしで無職の中年男性に飼われている、家猫ぶんちゃん。ある日、男性に異変がおき、ぶんちゃんは1匹で生きていかなければならなくなります。猫の表情や行動描写が細やかで、猫のリアルな可愛さが感じられる一方で、飼い猫一匹がなんとか生きようとするシビアな展開は、猫好きだけでなく、生き物を飼っている方の涙腺も刺激します。

ユーモラスで深い、真造ワールドをぜひ堪能してください。

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『透明人間の恋』

透明人間の恋透明人間の恋

完結『透明人間の恋』 全1巻 安藤ゆき / 集英社

1つのきっかけで、人生は大きく変わる

【ジャンル】ラブストーリー

『町田くんの世界』を連載中の安藤ゆき先生の短編集。「このマンガがすごい! 2014年オンナ編」にランクインし、安藤先生が広く注目されるきっかけとなった作品です。

表題作の「透明人間の恋」は、クラスで全く存在感がなかった、メガネでそばかすの女の子の話。同じクラスのチャラい男子に衆人環視の中で告白し、「あんた鏡みたことあんの?」と、ひど過ぎるひと言で振られたことから物語は始まります。主人公がそれにショックを受けるのではなく、「そう言えば最近、自分の姿を見ることがなかった」と「気づく」ところが面白いところ。チャラい男子からの一言によって、自分の姿と周りの評価に気付いた彼女は美しく大変身! 瞬く間にクラスで注目されるようになります。ちょっとしたきっかけによって主人公に大きな変化が起こる、というのが、本作に収録された物語の特徴。どの短編も日常に潜むドラマティックな瞬間を、キラキラと鮮やかに描き出しています。

物語の構成の妙を味わうなら、最後の「drops.」がオススメ。「雨」をモチーフに、とある街に住む人々が、時と場所を越えて繋がる、テクニカルな作品です。

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『盆の国』

盆の国盆の国

完結『盆の国』 全1巻 スケラッコ / リイド社

延々と繰り返される「お盆」を描いた

【ジャンル】SF・ファンタジー

中学3年生の女の子・秋が住む六堂町では、お盆の間だけ帰ってくるご先祖様のことを「おしょらいさん」と呼びます。そして、秋は小さな頃から、おしょらいさんをうっすらとした姿として、見ることができるのでした。その年のお盆、学校の友達とケンカし気まずくなった秋は、「ずっとお盆のままならええのに」と考えます。するとそれが現実となり、お盆の8月15日が延々と繰り返されるようになってしまったのでした。そんな中、秋は同じようにおしょらいさんが見える不思議な青年・夏夫と出会い、お盆を繰り返す町の謎を解くための冒険を始めます。

盆踊り、花火、夕立、アイス、夏祭り……。日本の夏ならではの風景の中を、秋は夏夫と共に駆け巡ります。生者と死者の境が曖昧になるお盆特有の情緒をしみじみと描き出した本作は、懐かしくてちょっぴり切ない作品です。

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『こども・おとな』

こども・おとなこども・おとな

完結『こども・おとな』 全1巻 福島鉄平 / 集英社

誰もが経験した「あの頃」を繊細に描いた

【ジャンル】ヒューマンドラマ

週刊少年ジャンプに『サムライうさぎ』を連載していた福島鉄平先生の、最新単行本。小学1年生の男の子・サトルを主人公に、誰もが経験したような子供時代の1ページを綴った作品です。

サトルは教室で先生が話している最中に、断りもなくトイレに行ってしまったり、女の子に「バカ」と言って泣かせてしまったり、社会の「当たり前」や人との接し方がわからない子でした。しかし、自分の振る舞いがずれていたことに気づくと、サトルはそれを理解し、行いを素直に正していきます。

先生、兄、父、友達、祖父といった周囲の人たちと接し、その度に社会性を得ていくサトル。そして、最後に描かれるのは、母との話。思わず涙がこぼれてしまう、切なくて優しいエピソードです。

福島先生の柔らかい描線も相まって、ノスタルジックで温かな雰囲気に溢れた作品。こういう経験したことあったなあと自分の子供時代を思い出す、懐かしさと切なさをしみじみ感じられる1冊です。

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『山羊座の友人』

山羊座の友人山羊座の友人

完結『山羊座の友人』 全1巻 乙一・ミヨカワ将 / 集英社

未来の新聞から始まる青春ミステリー

【ジャンル】サスペンス、ファンタジ、青春ミステリー

小説家・乙一先生の短編を、ミヨカワ将先生が漫画化した作品。ファンタジーの要素を取り入れつつ、巧みな構成によって描かれた青春ミステリーです。

主人公は高校1年生の松田ユウヤ。彼が両親と暮らす家は高台にあって、いつも強い風が吹いています。そしてその風はユウヤの部屋のベランダに別の世界・別の時間からも、「何か」を運んでくるのでした。ある日、ユウヤがベランダで見つけたのは、未来の新聞の切れ端。そこには、近い未来に彼の住む町で起こる殺人事件について書かれていました。事件が起こるとされていた日の夜、ユウヤは鈍器を持った若槻ナオトと道で出くわします。

自分の保身のために、いじめられているナオトを見ぬふりをしていたユウヤは、新聞に書かれていたもう1つの悲劇を回避するため、殺人事件の重要参考人と思われるナオトを匿います。見ないぬふりを止めたユウヤは、ナオトと共に逃避行の旅へ。

タイトルにある山羊座とはナオトの星座であり、「アザゼルのヤギ」がこの作品の重要なモチーフです。物語巧者の乙一先生の作品らしく、ラストは意外性がありつつ、納得できるものになっています。

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『友だちの話』

友だちの話友だちの話

完結『友だちの話』 全1巻 山川あいじ・河原和音 / 集英社

女の友情、男の友情、男女同士の友情が爽やかな

【ジャンル】青春、ラブストーリー

『先生!』『青空エール』の川原和音先生が原作を、山川あいじ先生が作画を担当した青春ストーリー。こんな友達がいたらいいなと思わせてくれる、爽やかな1冊です。

物語の中心は、女子高生の英子ともえ。優柔不断で地味な英子と、美人で物事をはっきり言うもえは、ルックスも性格も正反対ですが、お互いのことが大好き。特にもえは、男子に告白される度に「もえとつきあうってことは 英子とつきあうって事だから」と言って、相手を戸惑わせていたのでした。土田という男子が、そんなもえの条件を受け入れて、晴れて彼氏となったところから、英子ともえの関係に、変化が生じます。土田が2人の間に入ったことで、英子ともえは、より深くお互いの本心を知っていくのです。

互いへのリスペクトがあり、裏表のない英子ともえの関係は、気持ちが良く、言いたいことを正直に言い合え、己のことを理解してくれる友達がどれほど貴重なのかということに気づかせてくれます。また、一方の土田にも鳴神という親友がいて、彼も英子ともえに関わってきます。女子同士の友情から、男子から見る女子の友情の見え方、男同士の友情、そして、異性同士の友情と恋など、1冊で「友情」と「恋」について満喫できる作品です!

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『ヨルとネル』

ヨルとネルヨルとネル

完結『ヨルとネル』 全1巻 施川ユウキ / 秋田書店

こびとたちの逃避行が切ない

【ジャンル】SF・ヒューマンドラマ

2016年に代表作の1つ『バーナード嬢曰く。』がTVアニメ化された施川ユウキ先生。本作は、TVアニメ放送開始と同時期に刊行された1巻完結作品。基本的には4コマ漫画ですが、最初から最後まで一貫したストーリーがあります。

主人公のヨルとネルは、元々は普通の人間でしたが、今は身長10センチほどのこびと。とある研究所から逃げ出した2人は、民家に忍びこんで、食べ物を探したり、洗面台に湯をためて風呂に入ったり、自分の体の何倍もある本を苦労して読んだりしながら、旅を続けています。彼らが目指すのは南の海。ですが、そこに何があるかは当人達も分かっていません。

登場人物は、ほぼヨルとネルだけ。クールなヨルは折に触れて哲学的なセリフを呟きますが、その内容は意味不明なことも多く、ネルは感心したりツッコんだりと大忙し。施川ユウキ先生独特のセンスあふれるやり取りにクスッとさせられます。笑える展開も多いのですが、同時にこびと狩りから追われる身の2人のセリフには絶望感が見え隠れし……。祈りに似た気持ちとともに、物語を読み進めていくことになります。

あとがきによれば、施川先生は、フランスの漫画(バンドデシネ)「かわいい闇」に刺激を受け、小人の出る作品を描きたいと思ったとのこと。『ヨルとネル』の切なさを味わったことで、元ネタにも大いに興味が湧くことでしょう。

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『さよならガールフレンド』

さよならガールフレンドさよならガールフレンド

完結『さよならガールフレンド』 全1巻 高野雀 / 祥伝社

彼氏の浮気から始まる女2人の友情物語

【ジャンル】ヒューマンドラマ

高野雀先生のデビュー単行本。表題作の「さよならガールフレンド」は同人誌で発表され、「コミティア同人誌読書会」で第1位を獲得。商業誌デビューのきっかけとなりました。

主人公は、地方の小さな町に住む高校3年生の滝本ちほ。彼女にとって田舎での毎日は、くだらない人々とつまらない話題に囲まれた「ねっとりした緑のカンゴク」でした。彼氏の高岡と一緒に下校している最中、ちほの前に金髪の派手な美女・田淵りなが現れます。彼女は高岡の中学時代の先輩ということでしたが、2人のやり取りから、ちほは肉体関係があったことを察します。そして後から、りなが誰とでも寝る「ビッチ先輩」として、地元では有名な存在であることを知るのです。

彼氏の浮気を通して知り合ったにも関わらず、ちほはりなと2人で話しこむようになっていきます。他人に何を言われても、笑い流して生きているりなは、ちほにとって、息苦しい田舎の人間関係から自分を救い出してくれる存在なのでした。

他の短編でも、田舎に暮らす若者たちの鬱屈や、恋愛になんとなく流されている男女の姿が、リアルに描かれています。しかし、空気感がサラリとしていて、ラストには常に希望が用意されているのが、本作の美点です。

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『旅する缶コーヒー』

旅する缶コーヒー旅する缶コーヒー

完結『旅する缶コーヒー』 全1巻 マキヒロチ / 実業之日本社

缶コーヒーをテーマに繋がる物語

【ジャンル】ラブストーリー

『いつかティファニーで朝食を』『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』のマキヒロチ先生の短編集。缶コーヒーをモチーフにした全11話が収録されています。

本作の大きな特徴は、舞台となる町が全国各地に散らばっていること。広島・尾道から始まり、東京、長野、新潟、さらにはイギリスのロンドンまで。それぞれの土地の風景がリアルに描き出されています。第1話「広島・尾道」の主人公は、12年の東京生活に終止符を打って地元に戻ってきた元グラビアアイドルのマリカ。高校3年生の冬、缶コーヒーで手を温めながら、好きな男の子と歩いた展望台への道を、彼女は過去を振り返りながら登っていきます。そして、展望台で、あの時と同じコーヒーを飲むのでした。続くどの物語も、缶コーヒーによって繋がれた人と人との思いが、鮮やかに紡がれていて、爽やかでスッキリとした読後感を残します。

コーヒーの缶に描かれた男のイラストが、かつて好きだった人に似ていたり、通夜帰りの女性4人が缶蹴り遊びに興じたりと、小道具としての缶コーヒーの扱われ方も、各話によって実にバラエティ豊か。作者のストーリーテリングの上手さが、たっぷり味わえる1冊です。

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『なんてことないふつうの夜に』

なんてことないふつうの夜になんてことないふつうの夜に

完結『なんてことないふつうの夜に』 全1巻 嶽まいこ / 祥伝社

夜をテーマにした日常系ファンタジー

【ジャンル】SF

タイトルに反して、人ならざるキャラクターが登場したり、不思議なことが起こる物語を散りばめた、日常系ファンタジー色の強い短編集です。どのエピソードも、テーマになっているのは「夜」。第1夜「ビジネス・ロマンス・ホテル」は、地方出張に来た主人公の女性が、ホテルの一室で悶々としているシーンから始まります。隣の部屋に泊まっているのは、思いを寄せる同じ会社の男性。意を決して男性の部屋をノックした主人公は、彼の意外な秘密を知ってしまうのでした。

第3夜「エレクトリック彼女」は、アンドロイドによる恋人レンタルサービスが普及し、若者の恋愛観が変わった、パラレルな現代社会が舞台。自分には生身の理想の恋人がいるからアンドロイドはいらないと、自信たっぷりの男性が、ある夜、ふとしたきっかけで彼女の正体を疑い始めます。

3人の女子高生が夜には魔法少女として活躍したり、〆切間際の漫画家の前に、スーツを着た睡魔が現れたりと、それぞれに趣向を凝らした全12編を収録。恋愛に絡めたエピソードも多く、気軽に楽しく読める作品集です。そして、ラストにはそれまでの登場人物が一堂に会して飲み会をする「おまけ」が。笑いとともに、全編を振り返ることができます。

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最後に

さまざまな作家が手がけた多彩な作品を、次から次へと味わうことができる1巻完結漫画。短い中にいくつもの趣向が凝らされ、長編とは違った面白さが、そこにはあります。また、世に知られぬ前の新人作家に目をつけたり、人気作家の隠れた名作を見つけたりする楽しみも。ぜひ、気軽にいろいろな作品を手に取ってみてください。

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