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絵本「チビのおねがい」室井滋さんインタビュー 愛したペットのこと、無理に忘れなくたっていい

『チビのおねがい』(教育画劇)より

実は動物が苦手だった

――室井さんは大の猫好きとして知られていますが、実は、もともとそんなに好きではなかったそうですね。

 そうなんです。子どもの頃は動物が苦手で、犬も猫も怖くて、抱っこする時は毛布でぐるぐる巻きにしてもらわないと触れないくらいでした。なので、猫を飼うなんて思ってもみなかったんです。女優の仕事をはじめて、すごく忙しくなっていた時に、たまたま家で子猫を保護しました。自分では飼えないから、スタジオに連れていって、貰い手を探していたら、うちの事務所の社長から電話がかかってきて、「あんたが飼えばいいでしょ」って。社長はすごい猫好きなんです。私が「忙しくて、猫なんて飼っていたら女優やめなきゃいけない」って言ったら、「じゃあ、やめなさい」って(笑)。でも3日間、一緒に暮らしていたら可愛くて手放せなくなって、飼うことにしたんです。それが、この作品のモデルにもなっている「チビ」です。

――猫との生活はどうでしたか?

 一変しました。それまで、仕事が忙しいのに遊びたくて、雀荘にすごい通っていたし、小型船舶一級の免許を取って海にも出てたし、お酒も飲むしという生活だったのが、全部辞めて、猫にご奉仕する生活になりました。チビをきっかけに、いつのまにか6匹の猫を迎えることになって、猫たちがあんまりにも可愛くて、生活サイクルや自分にとって大事なもの、時間の使い方も変わりました。もしかしたら、猫を飼っていなかったら病気になっていたかもしれないって思うんです。規則正しい生活になるし、猫と一緒だと夜もよく眠れるんですよ。猫って「寝る子」と書いて「ねこ」って言うらしいんですけど、実際、猫は寝る時にフェロモンを出すんですって。そのフェロモンを浴びると、人間も寝ちゃうという話を何かで読んだことがあります。だから、ずいぶん猫に助けられたかなと思いますね。

チビと室井さん(写真:鈴木心)

飼い主との別れを猫の視点で

――『チビのおねがい』は、猫たちといつまでも一緒にいたいという、室井さんの愛があふれる作品です。誕生のきっかけは編集者さんとの出会いからだそうですね。

 絵本原作のデビュー作『しげちゃん』(金の星社)の、最初の担当だった東沢亜紀子さんからお話をいただきました。『しげちゃん』の完成前に退職されてしまって、すごく残念だったので、また声をかけていただいてとてもうれしかったです。東沢さんは私が猫好きなのもよく知っていて、室井さんなら猫の話で、絵はぜひ見ていただきたい方がいると、カワダクニコさんを紹介していただきました。カワダさんの作品をいろいろ見せてもらって、とてもよかったので、ぜひということに。カワダさんの絵は、1匹の猫というよりも、たくさんの猫が楽しそうにしているような、いたずらっぽい絵のイメージがあったので、猫がたくさん出てくるのがいいかもしれないと思いました。そこで、自分が猫をたくさん飼っていた経験も踏まえて、お話を考えたんです。チビが自分そっくりの猫を探してオーディションをする、という形をとれば、猫がたくさん出てくるし、カワダさんの絵も活きるのかなと思いました。

――20歳になったチビはそろそろ別れの時が近づいていると知り、飼い主のチョコが寂しがらないように、自分に似た猫を探すというお話。別れを人間ではなく、猫からの視点で描かれているのが新鮮です。

 私は、野良猫をもらってもらう活動をしていたんですけど、自分の家でも6匹の猫を迎えて、これまでに5匹を看取ってきました。野良猫は、外で自由を満喫できる幸せもあるけど、冬の寒さは厳しいし、食べ物を探すのも大変だし、人間から嫌がらせを受けたり、交通事故に遭うこともあったり、生きていくのは過酷。外の生活を満喫していた猫を家に入れるのは忍びないと思う気持ちもあるんですけど、やっぱり家の中は安全だし、餌を探しに行かなくていいし、幸せだと思うんです。実際に家で飼いはじめると、顔つきも変わって、どんどん険がとれていくというか。きっと、うちの猫たちも幸せだったと思うし、猫たちも私のことをこんなふうに想ってくれていたらいいなという思いも込めています。

『チビのおねがい』(教育画劇)より

――別れの時を迎えたチビが向かうのは鏡の世界です。なぜ鏡の世界にしたのでしょうか?

 うちのチビが鏡とかガラスに興味がある子だったので、チビとの思い出のアイテムの一つでもあります。動物って自分が自分だってあまりわからないものだけど、チビは子猫の時から仕事場に連れて行っていて、楽屋には鏡がいっぱいあったので、自分の姿を理解していたように思います。私がお化粧していると、自分の顔と私の顔を見比べることもありました。それと、鏡ってちょっと不思議というか、合わせ鏡にすると不思議な世界に入っていく感じがありますよね。同じように猫もすごく不思議な、ミステリアスなところがある動物だと思っていて。それで、鏡と猫をつなげようと考えつきました。

別れても心のそばにいる特別な存在

――モデルになったチビは、室井さんにとってどんな猫でしたか?

 チビは子猫の頃から一緒にいたので、私にとって子どものような、恋人のような、友だちのような、特別な猫でした。だから、なかなか死を受け入れることが難しくて、別れているけど別れてないよね、見えないけどほんとはそばにいるよね、という気持ちが今もすごくあって、そういう思いを絵本の中に入れようと思いました。こうだったらいいなとか、こういう世界があってほしいという気持ちが強いんですよね。

 私、今でも、チビが何かに生まれ変わって私のところに来てくれるんじゃないかって、待っているんです。動かないゴキブリを見ると「チビじゃないの?」って思ってつぶせなかったり、飛んできて離れないハエがいたら「チビかな?」と思ってしまったり。最近はちょっとひどくて、本当に困った時に、チビの名前を呼んで「助けてほしいんだ」って言うと、うまくいったりするんです。だから、「やっぱりいるんだ」って思っちゃうんですけどね(笑)。

――カワダさんの描いたチビはどうでしたか?

 チビの写真をたくさん見ていただいて、すごく可愛く描いていただいて、ものすごくうれしかったです。カワダさんにもちょっと似ているんですよね(笑)。ガラスに映ったチビの影が薄くなっているところの絵がとても好きで、吹き出しで「オマエ、ウスイ!」って入れてもらいました。

『チビのおねがい』(教育画劇)より

 チビが自分に似た猫を探すお話にしたのは、私もいつか、チビそっくりの猫が来たら絶対飼おうと絵本を作る前から思っていたから、というのもあります。チビが亡くなってしばらくしたら、チビと同じチャトラの猫が、何匹もうちに来るようになって、その度に「チビじゃないかな?」って思うんだけど、「目が違うな」「尻尾はもう少し長かったな」とか、そういう目で見てしまって。私自身がオーディションをしてました(笑)。

 猫や犬などペットとのつながりって、その人その人、固有のものです。自分や家族にしかわからない、独特のものだと思うんですね。そういう悲しい辛い思いをしている人にこの絵本を読んでもらえたらいいなと思います。これを読んで励まされるというわけではないかもしれないけれど、「終わりじゃないですよ」って伝えたい。「ペットロス」から立ち直るために無理に忘れる必要はなくて、ずっと想っていたっていいんです。私も、忘れられないからこういう絵本を作るんだと思います。