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日本企業がイノベーション能力を取り戻すには――『経営の論点2024』から

かつて、きわめて革新的であるとみなされていた日本企業。しかしいま、イノベーションを実現しようと試みているのに、思うような成果を出せないという声も多く聞く。

たとえば、「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」という目標に向けて経済産業省が推進するGX(グリーントランスフォーメーション)は、企業にとって政府の補助金を活用しながら、イノベーションを起こし、新たな事業を立ち上げる絶好の機会となる。特に洋上風力発電は日本国内でこれから大きな需要が見込まれる新領域として有望視されている。しかし、プロジェクトを落札するのは商社などの日本企業だとしても、発電に用いる肝心の大型風車を見るとどうか。日本勢はとうの昔に撤退し、独シーメンス系のシーメンス・ガメサ・リニューアブル・エナジー(スペイン)や、米ゼネラル・エレクトリックなど海外製品を調達してくるしかない。環境・エネルギー技術で先行していたはずの日本企業は、どこに姿を消したのだろうか。

『BCGが読む経営の論点2024』(日本経済新聞出版)では、BCGコーポレートファイナンス&ストラテジーグループの平谷 悠美植田 和則が、日本企業がイノベーションを競争戦略の中心へと取り込むうえでの要諦を考察している。抜粋して紹介する。

存在感が薄れる日本企業

BCGでは15年以上、グローバルでイノベーションに関する調査を定期的に実施してきた。企業の経営層を対象とした最もイノベーティブな企業についてのアンケート調査や、TSR(株主総利回り)など複数の基準で分析し、ランキングを作成している。2023年と15年前の2008年の結果(図表1、2)を見ると、上位50社の顔ぶれはかなり変わったことがわかる。

特に顕著なのが、日本企業の存在感が低下していることだ。かつてはトップ10に日本勢が3社入っていたが2023年には1社もなくなり、代わりにアジア勢として韓国のサムスン、中国のファーウェイ(華為技術)やBYD(比亜迪)が名を連ねる。

変化するイノベーション手法

日本企業はなぜ劣後してしまったのか。その背景にあるのが、グローバル競争においてイノベーションのあり方が時代とともに変化していることと、それらを成功に導く要因が複合化していることだ。

現在イノベーション巧者と見られている企業は、各業界において今の競争環境に合ったイノベーションモデルを構築してきた、あるいは素早く順応してきた。一方、日本企業の多くはかなり硬直的だ。先進事例にならい、外部の力を活用するオープンイノベーションやCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、新規事業育成プログラムなどの多様な手法を取り入れてはいるが、自社が過去に成功したイノベーションモデルに最適化された体制・仕組みの中に足し算をしているような状況だ。

その結果、旧来の枯れ始めたイノベーションモデルの枠組みの中で、小さな成果は出せるものの、本当の意味でのイノベーションにはつなげられず、悪戦苦闘している企業が多い。あるいは、自社のイノベーションモデルでは足元で大きな成功を収めている一方で、その次への漠然とした不安を感じ、新たな試行錯誤をしている企業も少なくない。

イノベーションを成功に導く要因

イノベーション手法の変化に加えて、イノベーションを成功に導く要因として、①デジタル、②イノベーションのエコシステム、そして③国の支援とそれを企業がどう生かすか(アドボカシー)の重要性が増している。

まず、イノベーションの実現スピードに大きな影響を及ぼしているのが、デジタルの進化である。アプリなどのデジタル製品では、完成品ではなくベータ版やMVP(必要最低限の機能を備えたプロダクト)をユーザーに試してもらい、改善していくのがおなじみの手法となっている。これが、デジタルだけでなく物理的な世界にも拡がっている。テスラ車はネットワークに常時接続され、運転状況を集めてアルゴリズムを進化させ、搭載ソフトウエアを更新していく。従来の、完成品としてソフトウエアを搭載する設計思想とは、集まる情報も試行回数も大幅に異なる。

次に、イノベーションを起こすためのエコシステムについて、国内外の差はさらに広がっている。米国には、50年以上の歴史を誇る老舗のベンチャーキャピタルがある。優秀な人材や技術者が起業家を目指し、そこに巨額のリスクマネーが集まり、新しい技術とビジネスモデルが生まれ、さらに大企業側にもそれらをうまく取り込んで成長する仕組みが定着した。それにより、起業家にとっても投資家にとっても出口の幅が広く、厚みのあるエコシステムが形成されている。こうしたエコシステムを競争戦略に組み込んでいる企業がイノベーションをリードできる。オープンAIに着目したマイクロソフトもその典型例だ。

最後が、イノベーションに対する国のバックアップだ。これまで、イノベーションの芽があってもそれを拡大展開する段階で日本企業が後塵を拝する歴史が何度も繰り返されてきた。太陽光電池、液晶パネル、リチウムイオン電池などは、技術競争では日本企業が最前線を走っていたのに、グローバルでの事業の拡大展開では独走できず海外企業に先を越されてきた。国別に企業の研究開発費を比較すると、主要国の中でも日本以外の国の企業は投資を伸ばしていることがわかる(図表3)。

これらの要因が旧来よりも複合化してきていることも、イノベーションの競争にさらされている日本企業にとっては見過ごせない動向である。

その年のビジネスを考えるうえで経営者が押さえておきたいトピックを、BCGのエキスパートが解説する『BCGが読む経営の論点』。最新刊では、時代の変化を読むうえでカギとなる4つの論点と、今後新たな事業機会を見つけ変革を促すために重要な4つの経営能力に着目する。第6章「イノベーション 進化する手法と日本企業復活へのポイント」では、前述のイノベーションを成功させる3つの要因を詳しく解説したうえで、際立って革新的な企業にみられる特徴や、日本企業がイノベーションを競争戦略の中心に取り組むためのポイントを紹介している(詳しくはこちら)。