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今年の「#文学」
saebou.hatenablog.com
『グランド・セフト・ハムレット』(Grand Theft Hamlet) を見てきた。これは新型コロナウイルス感染症流行によるロックダウンの際、『グランド・セフト・オート・オンライン』の中で『ハムレット』を上演しようとした人たちについてのドキュメンタリーである。終盤の数分以外、ほぼ全てがゲームを記録した映像で展開される。 www.youtube.com 2021年、新型コロナウイルス感染症によるロックダウンで仕事のない役者サムとマークは、いつも遊んでいる『グランド・セフト・オート・オンライン』のヴァインウッド(ハリウッドにすごく似てる)という地域の中に野外ホールなど芝居の上演ができそうな場所があるのを見つけ、ここで『ハムレット』を上演することにする。サムの妻で映像作家であるピニー(この映画の共同監督)もGTAオンラインを始め、世界初のGTA内演劇プロダクションが始動する。いろいろ問題も出て
Small Things Like Theseを見てきた。アイルランドの有名作家クレア・キーガン(『コット、はじまりの夏』原作者)の小説を同じくアイルランドの有名劇作家エンダ・ウォルシュが脚色したものである。マット・デイモンがプロデューサーの一人なのだが、キリアンはもともとキーガンのファンで、この映画化プロジェクトのことを『オッペンハイマー』撮影中にマットに話したところ、マットが興味を持って参加することになったそうだ。 www.youtube.com 舞台は1985年、ウェクスフォードの郊外のニューロス近辺である。石炭業者のビル(キリアン・マーフィ)はシングルマザーの息子で、今では幸せな家庭を築いているが、お金持ちの地主だった女性ミセス・ウィルソン(ミシェル・フェアリー)の助けでなんとか一人前になれたという苦労人である。ビルの取引先である女子修道院にはマグダレン洗濯所があって未婚で妊娠した
アンドレア・アーノルド監督の新作Birdを見てきた。 www.youtube.com 12歳のベイリー(ニキヤ・アダムズ)は若い父親バグ(バリー・キョーガン)に引き取られて暮らしている。バグはカエルからあやしげなドラッグを作る商売に手を出しており、さらに土曜日に新しいガールフレンドと結婚すると宣言する。父親の電撃結婚に不満なベイリーは、バードと名乗るふしぎな男(フランツ・ロゴフスキ)に出会う。 とにかくベイリーが暮らしている状況は相当に深刻である。バグは14歳くらいの時にベイリーの兄ハンター(ジェイソン・ブダ)の父親になったそうで、まだ若いが養わないといけない子どもが複数いる…のに定職にはついていないようで、あやしい仕事をしている。ベイリーが住んでいる家はものすごいボロ集合住宅でほとんどプライバシーもないし、犯罪も横行していて、ベイリーもあやうく犯罪に巻き込まれて非行少女になりかけるという
ジョン・M・チュウ監督『ウィキッド ふたりの魔女』を見てきた。 www.youtube.com 舞台の大人気ミュージカル『ウィキッド』の第一幕にあたる部分を映画化した作品である。『オズの魔法使い』の前日譚読み直しみたいな作品で、主人公は西の悪い魔女ことエルファバ(シンシア・エリヴォ)である。生まれた時から肌が緑色だったエルファバはみんなにからかわれ、親からも疎まれて不幸せな少女時代を送る。車椅子を使っている妹のネッサローズ(マリッサ・ボーディ)の付き添いでシズ大学に出向いたところ、魔法の才能を見出されて一躍、期待される学生となる。大学で同室になった人気者のガリンダ(アリアナ・グランデ、後にグリンダと呼ばれることになる)は最初はエルファバをいじめていたが、やがて仲良くなる。 今年の初めに舞台を見たばかりで正直、大変不安だったのだが、期待を上回る面白さで、むしろ台本は舞台より時間をかけてキャラ
リドリー・スコットの『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を見てきた。 www.youtube.com ヌミディアの戦士ハノ(ポール・メスカル)はローマの侵攻で捕虜になり、剣闘士を訓練しているマクリヌス(デンゼル・ワシントン)に買われる。ハノは同じく戦士であった妻アリシャト(ユヴァル・ゴネン)を戦闘で殺した将軍アカシウス(ペドロ・パスカル)に復讐したいと願っている。一方、アカシウスはローマ皇帝ゲタ(ジョゼフ・クィン)とカラカラ(フレッド・ヘッキンジャー)の腐敗に嫌気がさし、前皇帝マルクス・アウレリウスの娘である愛妻ルッシラ(コニー・ニールセン)と組んで反乱を企てる。 24年前の有名作『グラディエーター』の続編である。私はそもそも前作にあまり思い入れがないのでそんなに深く第1作を分析したことがあるとかいうわけではないのだが、それでもけっこう前作に似たところもあると思った。そんなにたくさん新機
『新居浜ひかり物語 青いライオン』を試写で見た。自閉症の画家である石村嘉成の半生を描いたものである。山陽放送が作った地元映画みたいな作品だ。 www.youtube.com とにかくダメな作品である。石村嘉成の画家活動に関するドキュメンタリーならまあいいと思うのだが、子どもの時から現在までの話が回想フィクションパートみたいな感じでくっついており、ここが低品質な再現ドラマみたいな感じで全く要らない。演技もたいがいわざとらしいし、演出も安っぽい。療育に関する教育的な内容が含まれているのだが、登場人物が突っ立って療育について説明するだけみたいなところが多く、これなら療育の専門家へのインタビューを織り込んで全部ドキュメンタリーにしたほうがマシだったと思う。 さらに良くないと思うのは、この再現ドラマパートが基本的に石村嘉成の母親にフォーカスしており、この母がすごい犠牲を払って息子を育てようとする様子
アレックス・ガーランド監督の新作『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を見てきた。 www.youtube.com 近未来の全体主義的なアメリカが舞台である。3期目をつとめている大統領の政府に対していろいろな地域の党派が武力で刃向かっており、全米が内戦に巻き込まれている。戦争写真家のリー(カーステン・ダンスト)はジャーナリスト仲間のジョエル(ヴァグネル・モウラ)、師匠格のサミー(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)、リーに憧れてグループに加わった若い写真家ジェシー(ケイリー・スピーニー)とともにワシントンDCを目指す。 現代のアメリカの分断が進んだらそのままこうなる…みたいな内戦を描いたえらくリアルな作品である。リアルな内戦の映画というと舞台はバルカン半島だったりアフリカだったりしてアメリカ人には全くの他人事なんだろう…と思うのだが、それをアメリカに持ってきて描いているというところがポ
先日アップされた私が『ダーティハリー』を批評したこちらの太田出版のエントリについて、須藤にわかさんという方が反論をしていました。 ohtabookstand.com note.com 簡単に説明すると、須藤にわかさんは私がアメリカンニューシネマ(1960年代末から70年代頃のハリウッド映画の新しい潮流をざっくり指す言葉)について嘘ばかり言っているとおっしゃっておられます。須藤さんがアメリカンニューシネマがお好きなのはわかりますが、これはまったく歴史的な経緯をふまえていない議論です。むしろ須藤さんのエントリのほうが、現在の映画批評で言われていることに比べるとだいぶ違うので、アメリカンニューシネマあるいはNew Hollywood(上記記事で触れているように、これは日本語と英語では微妙にズレた意味で使われることもあると思いますが)について大きな誤解を招く可能性があると思います。私は基本的に、先
デーヴ・パテール初監督作Monkey Manを見てきた。パテールが脚本や主演もつとめている。 www.youtube.com 主人公のモンキーマン(実名は不明)は小さな頃に母を亡くし、ヤタナ(ムンバイをモデルにしたインドのゴッサムシティみたいなやばそうな町)で闇ボクシングなどで生計を立てつつ復讐の機会をうかがっていた。高給売春クラブにボーイとして潜入し、母殺しの犯人で警察のトップであるラナ(シカンダル・ケール)暗殺にもう一歩というところまで近づくが、うまくいかずにひどく負傷してしまう。ボロボロになったモンキーマンはヒジュラの神殿の庵主であるアルファ(ヴィピン・シャルマ)に救われ、神殿でトレーニングを積む。 『ジョン・ウィック』シリーズに韓国アクションやカンフー映画などを足したようなかなり暴力的なアクション映画である。パテールはもともと子どもの頃から格闘技を習っていてかなり心得があるそうで、
二ダ・マンズール監督『ポライト・ソサエティ』を試写で見た。www.youtube.com www.youtube.com ロンドンの南アジア系コミュニティが舞台である。パキスタン系ムスリムの一家の娘であるヒロインのリア(プリヤ・カンサラ)はスタントウーマンを目指して武道修行に励んでいたが、蹴り技がなかなか決まらず悩んでいる。さらにアーティスト志望だった仲良しの姉のリーナ(リトゥ・アリヤ)がスランプに陥り、金持ちの息子で医学研究所の設立者であるサリム(アクシャイ・カンナ)と急に結婚することになる。姉が夢をあきらめたことやサリムがなんとなくうさんくさいことに危険を感じたリアは2人を引き裂こうとするが… 序盤は姉妹の間の感情のすれ違いをテーマにしたホームコメディ…かと思いきや、中盤くらいから本当にサリムの一家にヤバい秘密があることがわかってきて、終盤は陰謀を暴き、強制結婚に対抗するためにリアが学
『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』を見た。 www.youtube.com 1969年のケネディ宇宙センターが舞台である。NASAはアポロ11号打ち上げ準備をしていたが、議会があまり宇宙開発に関心を示さなくなり、予算がもらえないかもしれないという危機に陥っていた。アメリカがソ連との宇宙開発競争に負けることを危惧した政府筋のエージェント、モー(ウディ・ハレルソン)は詐欺師まがいの強引なやり口を得意とするPRスペシャリストのケリー(スカーレット・ジョハンソン)を雇い、国民の関心を宇宙開発に向けようとする。ケリーはアポロ11号の計画責任者であるコール(チャニング・テイタム)と時にはいがみあい、時には協力しつつPRを成功させ、議会の支持もとりつける。しかしながらあまりにもPRが成功しすぎて国民の注目が集まってしまったため、ケリーは失敗してしまった場合に備えてニセの月面着陸シーンを撮影するようモーか
アウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館に行ってきた。3.5時間の英語のガイドツアーを予約し、途中で気分が悪くならないように朝食は少なくし、昼食も抜くという万全の準備で出向いた(以前、ベルリンのホロコーストメモリアルとロマ・シンティの弾圧祈念碑を見ただけで胃が痛くなったので、世界遺産の中で万一気分が悪くなると困る)。 夏なので大混雑で、予約なしで行くと並ばないと入れないらしい。英語とポーランド語のツアーは15分から30分に1回くらい開催されているが、この時期は予約しないと入れなかったりするらしい。通常ツアーでも3.5時間かかる。 入るとまずビデオを見る。このビデオが他言語で、入り口でもらったヘッドホンを脇に刺し、15種類くらいある中からわかる言語の音声を選ぶこともできる。日本語は14番だった。 ヘッドホンを指す装置 そこからガイドツアーになるのだが、いろいろな言語のツアーが展開されているので、ガ
Immaculateを見た。 www.youtube.com 若いアメリカ人の修道女セシリア(シドニー・スウィーニー)は、年老いた修道女の介護施設として使われているイタリアの女子修道院に入って修行することになる。ところがセシリアはこれまで一度も男性と接触したことがないのに妊娠していることが発覚する。奇跡だとして修道院の人々はセシリアを崇めるが… 全体的に雰囲気のいいホラー映画で、美しい修道院(ドーリア・パンフィーリ美術館らしい)で非常にイヤな話が展開する。イタリアロケ以外はあまりお金もかかっていないと思うのだが、セシリア役のシドニー・スウィーニーのスクリームクイーン演技と気の利いた展開でかなりきちんとした作品に仕上がっている。血みどろで残酷なナンスプロイテーション映画なのだが、最初は敬虔でうぶなところもあったセシリアが苦手なものを克服し、自分の体を取り戻すべくたったひとりでそのあたりにある
リー・アイザック・チョン監督の『ツイスターズ』を見てきた。 www.youtube.com 気象を研究し、今はニューヨークで異常気象予測の仕事をしているケイト(デイジー・エドガー=ジョーンズ)は学生時代に竜巻調査でチームメンバーを失い、それ以来竜巻の調査からは手を引いていた。そんなケイトのところに、かつてのチームメンバーで今は民間の気象調査会社で働いているハビ(アンソニー・ラモス)がやって来て、最新機器を使った竜巻調査に誘う。ケイトは1週間だけという条件でオクラホマにハビと調査に向かうが、そこで竜巻動画で有名なYouTuberのタイラー(グレン・パウエル)に会う。 とくに1作目が好きとかいうわけでもなかったのだが(フィリップ・シーモア・ホフマンはすごく良かった)、役者陣が気になっている人ばかりだったので見に行ったところ、けっこう面白かった…というか第1作より良かったと思う。災害描写の迫力は
『マッドマックス:フュリオサ』を見てきた。言わずと知れたジョージ・ミラーのマッドマックスシリーズの最新作である。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のプリークェルである。 www.youtube.com お話は文明崩壊後、緑の場所に住んでいる幼いフュリオサ(アリーラ・ブラウン)がうっかりしていてバイカーホード(バイカーギャング的なもの)に誘拐されるところから始まる。母親のメリー・ジャバサ(チャーリー・フレイザー)が追跡するが、結局つかまってメリーはディメンタス(クリス・ヘムズワース)率いるバイカーホードに殺害されてしまう。フュリオサは一言も口をきかなくなるが、ディメンタスの養女として育てられることになる。やがてフュリオサは政略結婚を見据えてイモータン・ジョー(ラッキー・ヒューム)に譲り渡されるが、逃げ出して男装し(このへんで演じている役者がアニャ・テイラー=ジョイになる)、ウォー・リグの
スモックアリー劇場でThe Last Incelを見てきた。ジェイミー・サイクス作・演出による芝居である。登場人物は5人のみ、60分の小規模なプロダクションである。 4人のインセルがZoomでチャットをしているという設定の話で、全員四角い枠を持っており、これがPCの画面という設定である。途中でこの枠を持ってみんなで踊ったりするところもあり、ミュージカルみたいになるところもある。4人はインセルということで日々女性に対する敵意を語り合っていたが、メンバーのひとりであるアインシュタイン(Niall Johnson)の誕生日の前日、たまたま別のメンバーであるCuckboy (Fiachra Corkery) が女性とセックスしていたことがわかり、さらにはまだその女性マーカレット (Justie Stafford) が部屋にいてチャットに入ってきた…というところから始まるコメディである。 マーガレッ
ジョナサン・グレイザー監督『関心領域 The Zone of Interest』を試写で見た。 www.youtube.com アウシュヴィッツの所長だったルドルフ(クリスティアン・フリーデル)とヘートヴィヒ(サンドラ・ヒュラー)のヘス夫妻を描いた作品である。アウシュヴィッツ収容所内では連日残虐行為が行われているのだが、ヘス夫妻はのどかで立派な田舎家に住んでおり、ヘートヴィヒは理想的な家庭を築くべく努力している。ルドルフがオラニエンブルクに転勤した際も、ヘートヴィヒはアウシュヴィッツで子どもを育てたいと言って無理矢理留まろうとするほどである。 全体的にホラーみたいな怖い映画で、評価が高いのはよくわかるし何をやりたいかも完全に理解できるのだが、私の個人的な趣味でははっきりと全然好きになれない映画だった。コンセプトを立ててをそれを実現するという点では極めてうまくやっているのだが、良いと思うかと
『ジョン・レノン 失われた週末』を試写で見た。ジョンとヨーコが別居し、ジョンがアシスタントで恋人だったメイ・パンと暮らしていた18ヶ月間を追ったドキュメンタリーである。 www.youtube.com メイ・パンとジョンの話はファンの間ではけっこう有名なのだが一般的にはあまり知られていないので、こういうドキュメンタリー映画ができたことは意義があることだと思う。メイとジョンのなれそめは極めて奇妙で、ヨーコが独り身だったアシスタントのメイにいきなりジョンと付き合ってくれと頼んだことから始まる…ということで、現代の感覚だとセクハラだし当時としても妻が夫との交際を頼んでくるとかいうのは常識外れもいいとこだと思うのだが、異常に押しの強いヨーコのせいで、ジョンもメイもあれよあれよという間に巻き込まれてしまう。最初はいい迷惑みたいな感じだったジョンとメイだが、2人ともわりと個性的な人でうまがあって、だん
『アイアンクロー』を試写で見てきた。既に公式サイトに推薦コメントを書いているのだが、とりあえず簡単に感想を書いておこうと思う。 www.youtube.com アメリカのプロレス界で有名な一家であるフォン・エリック一家を追った伝記ものである。父親のフリッツ(ホルト・マッキャラニー)は息子たちに厳しいプロレスの英才教育を行い、ケビン(ザック・エフロン)、デイヴィッド(ハリス・ディキンソン)、ケリー(ジェレミー・アレン・ホワイト)、マイク(スタンリー・シモンズ)は皆プロレス業界にかかわるようになる。ところが兄弟は次々と不幸に見舞われる。 私は試写に行くまでのこの一家の名前を全くきいたことがなく、他の登場人物も一切名前も知らなかったのだが、それでもものすごく面白かった。もともと私はよく知らないスポーツとかビジネス業界を知らない人にもわかるようにわかりやすく描いた映画が好きなのだが(『PLAY!
『デューン 砂の惑星 PART2』を見た。当然第一部の続編である。 www.youtube.com 父親を殺されたポール(ティモシー・シャラメ)は砂漠の民フレメンのもとで修業して砂漠の民らしい戦い方を身につけ、ハルコンネン家と戦って次第に支持を広げるようになる。スティルガー(ハビエル・バルデム)をはじめとする一派はポールが予言された救世主だと信じるようになり、ポールの母ジェシカ(レイチェル・ファーガソン)もフレメンの教母となってその予言を人に信じさせようとする。最初は救世主扱いに抗っていたポールだったが、やがてその役目を引き受けるようになり、ポールを愛するチャニ(ゼンデイヤ)はその姿に複雑な感情を抱くようになる。 アクションとか戦闘なども含めて1作目よりもメリハリがあり、宮廷陰謀劇のところも達者な役者陣が活躍していてたるんだところがない。皇女イルーラン(フローレンス・ピュー)が帝国の噂や起
クリストファー・ノーラン監督の新作『オッペンハイマー』を見てきた。 www.youtube.com 物理学者で原爆開発の立役者のひとりであるJ・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)の伝記映画だが、全人生はカバーしていない。オッペンハイマーが若手研究者として頭角を現し始めたくらいから始まり、ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)が商務長官就任を却下されるところまでで終わる。この終わりはいったいオッペンハイマーの人生にどういう関係が…と思うかもしれないのだが、実際に見ると極めてきれいに着地している(ここも面白いのだが、あんまりネタバレすると良くないのでこのレビューでは割愛する)。 まず、序盤でけっこういやな気持ちになることを覚悟したほうがいい…というか、オッペンハイマーがロスアラモスにマンハッタン計画のための科学者村を作り、原爆の実験を成功させるまでが、まるでむちゃくちゃ
『マダム・ウェブ』を見てきた。 www.youtube.com ニューヨークで救急隊員をしているキャシー・ウェブ(ダコタ・ジョンソン)はシャイな性格で、救急隊の仲間以外とは付き合いもなく、ひっそり暮らしていた。ところが、とある事故をきっかけに急に直後の未来が見える特殊能力が発現する。たまたま列車に乗り合わせた3人の少女が殺される未来を見たキャシーは無理矢理3人を降ろして助けようとするが… 全体的に、発想はけっこう悪くないのだが、きちんとその発想を活用することが全然できていない映画である。脚本がたるいし、終盤はかなり編集がとっちらかっている。孤独な救急隊員の女性が突然予知能力を得てしまい、殺人を防ごうとする…というのはやり方によっては大変面白いサスペンスになると思うし、また途中の救急車チェイスはわりと面白いと思うのだが、そのへんが全然うまく生かされていない。最初と中盤のペルーのくだりは全く要
『PLAY! 勝つとか負けるとかは、どーでもよくて』を試写で見た。 www.youtube.com 舞台は徳島の高専である。ケガでバスケットボールを諦めた達郎(鈴鹿央士)は『ロケットリーグ』というゲームの達人で、3人でチームを作って出場するeスポーツ大会への出場を計画する。張り紙に反応した翔太(奥平大兼)と、達朗が無理矢理リクルートした亘(小倉史也)でなんとかチームを編成する。全くの初心者の翔太と、やる気ゼロの亘を従え、チームは前途多難だが… 私は基本的に自分がよく知らないスポーツなどをわかりやすく見せてくれる映画が好きなのだが(全然モータースポーツのことを知らないのだが『ラッシュ/プライドと友情』が大好きだ)、これは『ロケットリーグ』というゲームのことを全く聞いたことがなくてもよくわかるように作ってあり、その点では非常に気に入った。また、登場する高専生のうち、達郎と翔太は家庭に問題を抱え
日生劇場で『テラヤマキャバレー』を見てきた。池田亮台本、デイヴィッド・ルヴォー演出で、死の直前の寺山修司の意識をめぐるお話である。 寺山修司(香取慎吾)が死亡する直前の意識の中で、いろいろな役者たちが登場して寺山に名前をつけてもらうところから始まる。寺山の芝居『手紙』をやろうとしたところ、死(凪七瑠海)が迎えにくる。死は感動する芝居を作るという約束で少し余裕の時間を寺山にくれることになる。 役者陣の演技もいいし、ヴィジュアルとか内容はよくできているように思ったのだが(序盤はちょっとこれ大丈夫なのかと思うようなところもあったが、最後まで見ればまあまとまってる)、どうも個人的にあんまり面白いと思えないところがあった。香取慎吾がめちゃくちゃかわいいのだが、どうも寺山修司というのは2024年にかわいく飼い慣らせるような劇作家ではないような気がするのである。寺山修司というのは前衛的なのに売れ筋という
アリ・アスター監督の新作『ボーはおそれている』を試写で見た。 www.youtube.com ボー(ホアキン・フェニックス)は母モナ(パティ・ルポーン)のところに帰省するつもりだったが、寝坊した上に自宅の鍵を盗まれて飛行機に乗れなくなる。その後受け取った母が異常死したという知らせに動転したボーは、いろいろあって事故にあってしまう。大けがをしたボーは医者一家の家で目覚めるが… 全体的にこれまでのアリ・アスター映画とは大きく異なり、ジャンル映画ではない…というか、精神分析みたいないかにもアートハウスっぽい映画である。何に似ているかというと、どっちかというとホラー映画よりはフェリーニの『8 1/2』みたいな、個人的体験をシュールに再構成して換骨奪胎した作品に似ている。笑えるところはけっこうあるし、ホアキン・フェニックスの演技は良いのだが、とにかく長いし、要らないところがけっこうある映画だと思った
ヨルゴス・ランティモス監督『哀れなるものたち』を見てきた。アラスター・グレイの同名小説の映画化である。 www.youtube.com ロンドンに住む医者のゴッドウィン(ウィレム・デフォー)は自殺した若い妊婦の身体に胎児の脳を移植し、ベラ(エマ・ストーン)を作り出す。最初は全くの子どもだったベラは急速に成長し、ゴッドウィンの学生であるマックス(ラミー・ユセフ)と婚約するが、結婚前に弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)と駆け落ちしてしまう。ベラはその後、波乱に満ちた暮らしをするが… 全体的にはなんちゃってヴィクトリア朝みたいな時代を舞台にしたスチームパンクダークコメディである。とにかくベラを演じるエマ・ストーンの演技がすごく、『フランケンシュタイン』的な形で男性医師に創られながら被造物としての従属することなく、人間社会の決まりにとらわれずに自由奔放に生きるベラはとても魅力的である。ランティモ
エメラルド・フェネル監督『ソルトバーン』を配信で見た。 Saltburn Barry Keoghan Amazon 舞台は2000年代半ば頃のオクスフォードである。奨学金をもらって進学してきたオリヴァー(バリー・キョーガン)は、エリートばかりの環境になかなかなじめない。ところがひょんなことからオリヴァーは上流階級の息子フェリックス(ジェイコブ・エローディ)と親しくなる。オリヴァーはフェリックスの両親が所有する巨大な屋敷であるソルトバーンに招かれ、そこで夏を過ごすことになる。 『回想のブライズヘッド』+『太陽がいっぱい』+ジョゼフ・ロージーの映画(『恋』とか『召使』)みたいな感じのお屋敷スリラーである。監督が『プロミシング・ヤング・ウーマン』のエメラルド・フェネルなのでけっこうなひねりもある。ひねりについては、中盤のやつはともかく、最後のは私はむしろ前作よりすっきりしていいのではと思った。
昨日のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』ポッドキャスト版で放送した、今年の映画ベスト10です。本年は205本の映画を見ました。 『ベネデッタ』 『ロスト・キング 500年越しの運命』(パンフレットにレビューを掲載したのでブログにレビューなし) 『ゼイ・クローン・タイローン/俺たちクローン』 『ボーンズ アンド オール』 『ニモーナ』 『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』 『オマージュ』 『バーナデット ママは行方不明』 『フローラとマックス』 『ブラックベリー』 今年は映画視聴状況が劇的に変わりまして、4月から『芸術新潮』の映画評連載を始めたところ、とんでもない数の試写状が来るようになり、来る試写は基本的に全て見るようにしたので(見なかったのは3本程度のはず)、鑑賞するだけでものすごく多忙になりました。205本中、試写で見たのが78本(8割くらいはオンライン試写)、配信が37本でし
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』を見てきた。 www.youtube.com おそらくアデレード郊外と思われるところが舞台である。17歳のミア(ソフィ・ワイルド)は母の自殺から2年たっているが、なかなか立ち直れず、父との関係もうまくいかずに親友ジェイド(アレクサンドラ・ジェンセン)の家に入り浸っている。そんな中、近所のティーンの間で、握って話しかけると霊に接触できるという手を使った降霊パーティが流行し、ミアも降霊パーティで憑依を楽しむようになる。ところがジェイドの弟でミアの弟分的な存在であるライリー(ジョー・バード)が憑依から抜け出せなくなり、自傷行為を繰り返して入院してしまう。責任を感じたミアはなんとかしようと対策を考えるが… 出てくる降霊パーティはドラッグのオーヴァードーズのメタファーと思われ、全体的には「ドラッグはやめよう」みたいな話なので、まあ教訓的なよくある話とは言え
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