死者との交信、透視、自動筆記、空中浮遊といった心霊現象を探求する「心霊主義」の歴史を描いた『心霊の文化史』(河出書房新社)が刊行された。19世紀イギリスを席巻したこの精神運動について、著者の吉村正和・名古屋大教授(ヨーロッパ文化史)は「荒唐無稽(むけい)で周縁的な文化現象と見なされがちだが、合理主義と表裏をなすものとして、『近代』を明らかにするのに役立つ」と話す。 同書では、心霊主義が伝統宗教の衰退に伴う「代用宗教」として機能したことや、社会主義的な社会改革、田園都市建設といった運動とも結びついていたことを指摘。分析心理学を打ち立てたユングも、出発点には心霊主義があったことを紹介している。 吉村教授は「心霊主義は人間理性を無限に信頼し、自分で自分を救済・完成させていく『自己宗教』の一つ」と述べる。現在、心霊現象を真剣に受け止める人は少ないが、スピリチュアルブームなど自己宗教の流れは根強い。