こうの史代『この世界の片隅に』上・中 ※下巻の感想はこちら 下巻で完結するまで言及しない方がいい、と自戒していたのだが、またもや書いてしまう。「またもや」というのは上巻が出た段階でがまんしきれずに「赤旗」の連載で紹介してしまったからだ(そのあと連載は終わってしまったので、赤旗読者には紹介できる最後の機会になったので、ぼくとしてはほっとしている)。 「もう下巻まで書かんぞ」と思っていたのだが、またもや中巻が出た段階でウズウズして書いてしまった。なんという作品。 戦時下の広島県・呉市に嫁いだ北條すず(旧姓・浦野)の物語で、昭和18年——1943年の12月から本編がはじまる。呉は歴史上、1945年7月に市街地が無差別に爆撃される大空襲を受ける。こうのがそれを描くのかどうかは単行本しか読んでいないぼくは知らないのだが、物語はその日時へとむかってゆっくりと進んでいることは間違いない(すでに中巻の終り