日々が駆け抜けるように過ぎていく
2歳児くんの保護者をしています盛田 諒ですこんにちは。先日、片耳がイヤホンつっこんだみたいに聞こえづらくなる「突発性難聴」という病気になりました。ストレスの多い人がよくかかるそうです。40℃近い熱を出しながら一人で子どもの世話をしたり、仕事で忙しいときに胃腸風邪にかかった子どもの看病休暇をとるみたいなことが続いていたので納得しました。詳しくは原因不明ということなので無理をすると透明なイヤホンを耳につっこんでくる妖怪が出たのかもしれないです。
突発性難聴になったからということもあるのですが、家庭と仕事の完璧な両立は普通に無理なんじゃないかと思いました。わが家はそれなりに家事育児を分担している方だと思いますが、それでも片親が出張に行ったり子どもが風邪をひいたり生活にちょっと変化が出るだけでストレスは多くなります。自分の軟弱さをさしひいても無理なところはありそうです。
●とにかく時間が足りないのです
働く親はとにかく家事育児の時間が足りないのです。お仕事系サイトに載っている「働くママのタイムスケジュール」の例を見てみると「5時50分起床、24時就寝」というものがありました。仕事時間は7時間。家にいる約9時間ほぼすべてを家事育児に追われています。
具体的には朝起きたらすぐ弁当を作り、朝食を作り、夕食の下ごしらえをして、洗濯機を回し、食洗機を回し、掃除をして、子どもを送って、仕事に行き、仕事が終わったら買い物に行き、帰ってすぐに夕食を作り、子どもの宿題を見て、お風呂に入り、子どもを寝かし、翌日の支度をして、家事がすべて終わったらすぐ寝るというもの。自由に使える時間は通勤時間のみという激詰めのスケジュールです。「朝のうちに夕食の下ごしらえを済ませているので帰宅後は温めなおすだけ!」とライフハックでも紹介するようなテンションの明るいイラストがそえられていたのですが、同じことを毎日しろと言われたら絶対無理です。みずからイヤホン妖怪を招くようなものです。
平成28年の社会生活基本調査(総務省統計局)によれば、共働き世帯の女性が家事育児に使っている時間は1日平均4時間54分。専業主婦は7時間56分なので約3時間の開きがあり、専業主婦世代の母親とおなじことをするのは相当困難です。先ほどの女性はさらに1時間足しているのでかなりの無理が出ています。共働きの男性が統計上わずか46分しか家事育児をしていないのもどうかと思うのですが、男性の仕事時間は8時間31分。女性の4時間44分を倍近く上回っていて、家にいられる時間が少ないために物理的に分担できないという事情もありそうです。
●誰かに家事育児を頼めば働けるけど
こういう話をすると「母親だけに家事育児を負担させているのが悪い」とか「日本人は残業が多すぎる」みたいな話になりやすいのですが、家族の負担だけで家庭と仕事を両立することにそもそも無理があるんじゃないかと思います。働き方改革にしても「働く時間を減らして家庭のために頑張ろうね、でも生産性は落とさないでね、努力と工夫で乗りきろうね」だけでは無茶です。
本当に家庭と仕事の両立をめざすには、家事育児(介護)を誰かに頼めるような施策がもっと進まないと厳しいんじゃないかと思います。
たとえば以前住んでいた杉並区には、家事代行やベビーシッターのような有料の子育て支援サービスが利用できる「子育て応援券」の交付制度があってかなり助かりました。自治体ではなく国のレベルで、子どもに夜ごはんを食べさせるとか、子どもが風邪をひいたら看病するみたいに、家庭の負担を減らして誰もが安心して働ける仕組みがもっと推進されてもいいんじゃないかと思います。国が財政面を含めた支援を進めている「子ども食堂」も、家事育児の時間がとれない親が代わってもらっている部分はあると思います。
ただ、家事育児を外注してまで家庭と仕事を完璧に両立させることが本当にいいことなのかというとよくわからないんですよね。「育児は子守りにまかせて親は働くのが当たり前」というフランスのような国もあるのですが、移民に違法な低賃金で子守りをさせることは社会問題になりました。結局のところ誰かにしわ寄せが行くことになりかねず、自分自身が家庭と仕事に何を求めるのか考えてもいいのかなと思っています。軟弱者としては「ほぼほぼ両立」、どっちもサボれるくらいがちょうどいいんじゃないかと感じています。
●暮らしを変えるより夢を変えたいわ
とはいえ家事も仕事もできないことが増えることはいやなもので、どこで満足するかというのは難しいところですよね。どう考えるかというとき、ちょっと話がずれますが、個人的には子どもが生まれてから何が幸せかというものの見方が変わってきたところがあります。
子どもが生まれるまでは、自分が書いたものをたくさんの人に読んでもらい、社会に必要とされ、すみずみまで清潔な家に暮らし、あたたかな料理を食べることが幸せで、自分が生まれてきた意味もそこにあるのだと思っていました。でも、それは単なる幸せのイメージでしかなかったと最近は思います。早朝ウグイスの鳴き声で目をさまし、窓を開けてしらじら輝いているサザンカの葉をながめ、まだ寝ている子どもの顔をのぞきこんだとき、「これ以上望めることがあるだろうか」という絶対的な幸せのようなものを感じたんですよね。子どもがそこにいるだけでほかのイメージがぶっとんでしまい、当たり前の日々が輝いて見えてくる「すわ天啓」というくらいの鮮烈な体験でした。
天啓を受けた後もまだ社会に必要とされたいという気持ちは強くあり、それには時間が足りない、もっと時間がほしいという焦りはあります。けれどもそこまでしないと人生を満足に終えられないかというとそんなことはないんじゃないだろうかという気持ちも出てきています。家庭と仕事が満足に両立できていなくても、こんなに幸せならそれでいいんじゃないか。愛する人がそばにいて、自分を本当に必要としてくれる人が数人でもいてくれたら、それ以外はすべてが人生のおまけなんじゃないだろうか。きれいごとではすまないところもあり、それとこれとは別だという部分もありますが、絶対的な幸せを人生の軸にすることで気持ちがラクになるところはありそうだと思いました。そう思いこませる妖怪のしわざなのかもしれないですけど。盛田 諒でした。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。2歳児くんの保護者です。Facebookでおたより募集中。
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