英国から幕末に日本に通訳として赴任し、後に外交官となったアーネスト・サトウ氏の、幕末から維新にかけての回顧録です。
この時期に日本を訪れた外国人の回顧録はいくつかありますが、サトウ氏は、当時の超大国英国というバックボーンと、持ち前の日本語力で、政局の中心にいた人物たちと論を交え、時に杯を交わし、職権を超えて日本の行くべき方向性についての独自の論を発表するなど、当時の日本の政局に深く触れており、それが本書の大きな価値になっています。
高杉晋作、木戸孝允、大久保利通、西郷隆盛、後藤象二郎、坂本龍馬などの幕末の志士、
徳川慶喜、伊達宗城、山内容堂、鍋島直正などの将軍や大名、
大久保一翁、勝海舟などの幕臣、
岩倉具視などの公家といった、時代を動かしたビッグネームと次々に会い、描写は少ないものの、彼らの印象なども書かれているのがとても面白いですね。
この時代は、長州、薩摩、土佐、越前、会津の動きばかりが目立ちますが、肥後、備前、宇和島、阿波、加賀などの動静も記されており、各藩が独自にに情報収集や人脈作りをしてる動きもとても新鮮でした。
私は実は、この時代の歴史書はあまり読んでおらず、大まかな歴史の流れを人並みに把握している程度の知識ですが、生まれも育ちも東国のため、どうしても幕府側からの視点の読み物や物語に偏る性質がありました。そのため、外国の外交官という公正な目線から、実際に主要人物と会うなどしているこの回顧録の目線はとても新鮮でした。
幕府に対する不信と嫌悪感が、薩摩、長州に対する共感へと変わり(一方で会津に対しても共感を抱いているのが面白い)、鳥羽伏見の戦いあたりからは横暴な薩摩への非難めいた文章も散見され始めるなど、サトウ氏の心境の変化も興味深いものがあります。
そんなサトウ氏の回顧録を読んでいて気になるのは、当時のイギリスを中心とした諸外国の日本対するスタンスと、サトウ氏への日本側からの評価です。
本書の巻末の解説では、欧州から見て、当時、「世界の果ての果て」でありリソースを投下する価値のない国だった日本への、内政不介入という諸外国の基本的なスタンスが解説され、サトウ氏の回顧録そのもの見方や、この時代の日本の見方に大きな示唆を与えてくれます。サトウ氏の回顧録はもちろん読み応えのある面白い読み物ですが、この時代をより客観的に理解できる巻末の解説だけでも、一読の価値があると思いました(その後、2022年放送のNHKスペシャル「新・幕末史」で、日本が重要視されていたという新説が登場し、驚きましたが)。
もう一つの気になる点である、日本側からのサトウ氏の評価は、本書では語られていないのは残念な点です。ただ、解説の冒頭で「英国が討幕、フランスが佐幕で日本での権益を争っていたとされる旧来の歴史観(それ自体は、この解説で近年の研究では否定されていると語られています)が、サトウ氏のこの回顧録の影響と示唆されており、それ自体が、当時の日本人を含めた旧来の日本人にとっての、サトウ氏への大きな評価を表していると取ることもできるでしょうか。
長々と書いてしまいましたが、幕末から維新にかけての日本の政局と変化、控えめではありますが主要な人物たちのと直に接した描写、市井の様子などが、見事な訳文で生々しく描かれており、この時代に興味がある方は是非読むべき本の1冊と感じました。
ほかの方が書かれていましたが、確かに年表があると、より分かりやすいとは思いましたが、そのあたりは、ほかで探すことも可能なのではないでしょうか。
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一外交官の見た明治維新 (講談社学術文庫 2666) 文庫 – 2021/4/15
アーネスト・メイスン・サトウ
(著),
鈴木 悠
(翻訳)
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<幕末史の必読書、新訳登場!>
薩英戦争と下関戦争、開港をめぐる激しい外交戦、熱い政治談義、刺激的な国内旅行、そして戊辰戦争―
英国青年外交官が「幕末日本」を全身で体感する!
攘夷の嵐が吹き荒れ、政局が緊迫する文久二(一八六二)年、一人のイギリス人通訳官が日本の地を踏んだ。
西郷隆盛ら雄藩・幕府の要人、果ては天皇、あるいは市井の人々との出会いを重ね、日本文化の奥深さに魅了され、そしてときには命の危険を乗り越えながら、彼は日本史上の最大転換点を目撃する。
日本人が長く読み継いできた幕末史の第一級証言を、英国外交史研究を踏まえた新訳で読む。
巻末には、イギリス外交史、日英関係史を研究する訳者による、これまでの研究蓄積を踏まえて本書の歴史的意義を問い直す、懇切な解説を掲載。
歴史小説などで語られてきた歴史像を刷新し、グローバルな視野で幕末日本を見据える視座が得られる!
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- 本の長さ664ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2021/4/15
- 寸法10.8 x 2.6 x 14.8 cm
- ISBN-104065227763
- ISBN-13978-4065227763
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商品の説明
著者について
Sir Ernest Mason Satow. 1843-1929年。在日イギリス公使館通訳官を務め、後に駐日公使。著作に『アーネスト・サトウの明治日本山岳記』『アーネスト・サトウ公使日記』など。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス博士課程修了(Ph.D.)。専攻は日英関係史。著書に『Britain, Japan and China, 1876-1895: East Asian International Relations before the First Sino-Japanese War』(Routledge)がある。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス博士課程修了(Ph.D.)。専攻は日英関係史。著書に『Britain, Japan and China, 1876-1895: East Asian International Relations before the First Sino-Japanese War』(Routledge)がある。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2021/4/15)
- 発売日 : 2021/4/15
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 664ページ
- ISBN-10 : 4065227763
- ISBN-13 : 978-4065227763
- 寸法 : 10.8 x 2.6 x 14.8 cm
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- 2022年8月2日に日本でレビュー済み
- 2022年8月10日に日本でレビュー済みAmazonで購入アーネスト・サトウは、意外と知られていないが、明治維新に大きな影響を与えた人物の一人。
英国の外交官でありながら、倒幕派志士らとも交流し、時代の変わり目に臨場した。
彼の幕末維新における記録は、第三者的な視点でもあり、貴重な証言である。
「一外交官の見た明治維新」はまさに歴史研究にとって大事な史料と言えるだろう。
新訳は読みやすく、また最新の研究成果も盛り込まれており、読む価値がある。
- 2021年8月14日に日本でレビュー済みAmazonで購入明治維新関連の歴史書、小説、随筆の類は多々あるがこの本に興味を持ったのは著者が外国人という点にある。維新の当事者はそれが官軍側の人間であれ、幕府側の人間であれどうしてもバイアスがかかるだろう。その点局外者である外国人の書いた記録ならば中立的でより実態に近いのではなかろうか、そう考えて購読してみた。
著者はサトウ(Earnest Mason Satow)というイギリス人。彼は若い時なんとはなしに極東の島国日本に興味を持ち、偶々イギリス外務省が募集していた日本語通訳研修生に応募して採用され在日本イギリス公使館に配属された。弱冠19歳の時である。日本に着いたのは1862年(文久2年)、直後に生麦事件が発生するという幕末混乱期であった。生来の勤勉家で且つ語学の才能の持ち主だったようで2年ほどの勉強の結果日本語での会話は公私ともに不自由なくこなすだけの実力を身に付けた。後年、候文もこなすほど上達、日本の古書籍も勉強したというほどだから相当な能力の持ち主だったと言える。
彼は単なる通訳官として働いただけではなく、ある意味では情報将校の役割も果たした。当時のイギリス政府はヨーロッパで多くの問題を抱えていて極東の島国日本との関係は深入りを避けていた風がある。一方日本サイドでは薩摩、長州のような西国諸藩が、また江戸の徳川幕府も西欧の圧力を回避するためにはイギリス、フランスその他西欧諸国から新知識を導入する必要性を強く感じていて、イギリスとの関係親密化はその意味合いから重要であったようだ。日本サイドとしては手の内は見せたくはない、しかし西欧の新知識は得たい、なんとなく虫の良い話ではあるがそのような印象を受ける。。そういう事情のもとサトウは上長である公使から語学力を生かして日本サイドの内情を探る役割を期待され、また日本側も上のような意味合いからサトウに積極的に近づいた。とにかく日本語が達者で意思の疎通にかけては右に出る人物がいないのだし、サトウ自身もこの種の政治的事情の探査に関心が深かった模様である。ある時は西郷吉之助と腹の探り合い的な会話もあったようだ。また伊予の宇和島候をはじめ何人かの大名もサトウの来訪を大いに歓迎し意見交換に努めた。
この本に興味を持ったのは上に書いた如く、当時の日本の状況とくに維新で中心的な役割を果たした諸々の人物、西郷、大久保、木戸、将軍慶喜、勝 -- 等が何を考えどう行動したか、それを第三者的な目で見たサトウの眼を通して読み取ることが出来るだろうとの期待からである。この目論見は部分的には成功であったが全体としては多少物足りない感じが残った。当事者の心中は当事者に語ってもらうしかないのだろう。この点に関して言えば少々高望みだったのかも知れない。
- 2022年11月5日に日本でレビュー済みAmazonで購入岩波文庫版(坂田精一氏訳)は何度も読み返している愛読書なので、21世紀の新訳はどんなものだろうかと大いに期待して購入した。訳者のかたは1985年生まれとあるから新進気鋭の若手であり、前書きにも坂田訳以後「六十年で蓄積された研究を踏まえ」とある。巻末の訳者解説も興味深い。そういうわけで期待はいや増して本文に進んだのだがなんと第5章あたりで早くも失望してしまった。文章がよくない。大学の研究者が一般向けの新書など書き下ろすときによくある、ぎごちない文体なのだ。第5章でサトウが当時の日本の大衆演劇についての感想を記した個所の末尾などは日本語として読んでまったく意味が通じない。
世の中には翻訳家いう職業の人々がいて、原書を読みこなすだけでなく日本語の文章力も鍛えている。そういうプロの文章と比較すると「大学の研究者(つまりアマチュア)が書いたもの」という印象で、全体の完成度では坂田訳にとうてい及ばない。
前書きに続く個所で「『十九世紀のイギリス人の記述』を日本語にすることを意識した」と書いておられるが具体的にどういうことなのか理解できない。同じ第5章の生麦事件の個所で、被害者が同行者に叫んだ言葉が「逃げよ」とあるが、十九世紀の訳にしても二十一世紀の訳にしてもずいぶん稚拙だ。まずは「一般読者に分かりやすく魅力的な文章を書く」筆力を身につけるべく、地道な努力を続けられるようお願いしたい。
またわが国のある種の専門家によく見かけることだが海事・軍事についての用語が正確でない。というかほとんどが誤訳である。第8章薩英戦争の個所、薩摩藩の汽船を「押収した」とあるが、これでは警察の家宅捜索なので、海事用語では「拿捕した(または捕獲した)」が正しい。続く119ページには旗艦の、おそらく原文では「マガジン magazine」とある個所を「弾倉」と訳してあるけれども、これは拳銃や自動小銃のような小火器での用語であって、軍艦なら「弾薬庫」である。122ページ14行目の「水位線」は「喫水線」で、悲しいくらい初歩的なミス。さらに「通報艦 Aviso」を「郵便船」と訳してある(137ページ)。アヴィゾはれっきとした軍艦だが、郵便船は Packet ship の訳語で、こちらは民間船だ。軍艦と商船の区別も海事の初歩である。以下いちいち挙げればきりがないが、これらの誤りは普通に入手できる専門文献を参照してさえいれば(たとえば海文堂の「英和海事用語辞典」)容易に防げたはずである。
重箱の隅をつついてどうすると怒られそうだが、これらの個所は坂田訳では正しく「拿捕」「弾薬庫」「喫水線」「通報艦」となっているのだから、「60年も昔の不正確な旧訳とはデキが違いますよ」という訳者の自慢には、どうも先達への敬意がまったく感じられず印象はよくない。若さゆえか、と苦笑してしまうと今度は当方が上から目線で失礼だが、しかしご自身の限られた専門分野とは別の、幅広い一般教養のウンチクでは坂田氏にずいぶん見劣りしている。
通読して、歴史に関心のある一般読者向けとしては、岩波文庫の坂田訳に優る部分はまったくない。どちらも読んだことがないという方には、私は岩波文庫版をお勧めする。少し古い文章だとしてもはるかに読みやすい。労作にして今でも最高の名訳である。
岩波版を読了されたら、次はサトウの同僚だったミットフォードの著書、『英国外交官の見た幕末維新:リーズデイル卿回想録』(講談社学術文庫、1998)をお勧めする。訳者は大学の経済学部卒業ののち実業界に転じた人であるが平易な訳文で、ここでも本書の訳者との力量の違いは歴然としている。さらにお小遣いと時間の余裕のある方には萩原延壽氏の大著『遠い崖 アーネスト・サトウ日記抄』(朝日文庫 全14巻)に進む手もある。残念ながら本書はこれらの労作のあいだに割って入るほどの出来ではない。
第4章でサトウは自分は完璧な日本語の文章を書けるようにはならなかった、と述べた後に「翻訳者の関心は、よい日本語の文章を書くことよりも、原文に忠実な翻訳を作ることにあるので、止むを得ないことだった」(本書訳)と続けている。いみじくも本書についても(翻訳は忠実でも正確でもないが)あてはまることだと思う。