うまくいくかはすぐ分かる

 油断してはいけないことに、高度経済成長期に大儲けをした企業に限って、このような経営幹部が多くいらっしゃる。そして、そのような方が決まって言うセリフがもう一つある。「失敗したらどうするのですか?」だ。またまた私は心の中で「駄目だったらすぐやめるのだから、失敗することはない!」と叫ぶのだが、この説明にはたっぷりと時間を割くようにしている。

 説明しよう。私の経験から言えば、実は開発を始めてから比較的早い時期にうまくいくかどうかが分かるのである。

 本当にすぐに分かる。何故なら駄目な理由や原因はすぐに顕在化するからだ。技術がない(未熟)ということから性能が悪い、材料の選定が間違っている、設計が甘い、不良率が高い、お客様が良いと言わないなどだ。要するに、作っても売れないだろうとすぐに分かってしまうのである。

 だから、駄目と分かればすぐにやめる。これが鉄則だ。早いうちにすぐにやめれば、モノを作らないで済むのだから、傷は浅くて済む。事業も立ち上げず、商品も作らなければ、掛かる経費は最小限で済むのであるから、これを失敗と言う人はいない。

 逆に失敗するときは、駄目なのが分かっていながら進めるときだ。駄目なのに開発を進めるのだから、多くの経費が掛かり続けることになる。しかも、無駄な努力や労力をつぎ込むのだから、精神的なダメージも大きい。これが失敗である。

 それでは、駄目と分かっているのに、なぜ失敗するのだろう。理由は色々あるが、最も多いのは、「開発を進めよう」と言い張る人に駄目と言えないからである。それが社長であったり、経営幹部や上司であったりすると、なおさら言い難い。心の中で「もう駄目だ」と叫んでいても、その人の前に出ると「やりましょう!」とついつい言ってしまうのが“サラリーマン”なのだ。

 それをサラリーマンの悲哀と言ってしまえばそれまでだが、失敗の責任を背負わされるのもサラリーマンなのだから、考えなくてはいけない。

 お分かりいただけただろうか。「駄目ならやめよう」は、失敗しない唯一最大の心構えであり、鉄則なのである。

 さて、このようなつぶやきが「リアル開発会議」に添える私の独り言、ブログである。「リアル言えない大事」というタイトルで連載する羽目になったが、読者に駄目と言われる日まで、存分に書こうと思う。

開発の鉄人”ことシステム・インテグレーション 代表取締役の多喜義彦氏は、これまでに3000件の開発テーマの支援に携わり、現在も40社以上の技術顧問などを務めている(システム・インテグレーションの詳細はこちら)。「リアル開発会議」では、多喜氏を指南役に、オープンイノベーション型の新事業開発プロジェクトを開始する(詳細はこちら)。