「孤立するのは中国」離任直前 米エマニュエル大使に聞く

「孤立するのは中国」離任直前 米エマニュエル大使に聞く
「インド太平洋地域は中国にとってはホームであり、われわれアメリカにとってはアウェー」

バイデン政権のもと、駐日大使として中国と向き合ってきたアメリカのエマニュエル大使はこう述べました。

来年1月の離任を前に行ったNHKとの単独インタビュー。中国、次期トランプ政権、ロシアによるウクライナ侵攻について何を語ったのか。詳しくお伝えします。

(国際部デスク 石井勇作 / 記者 海老塚恵)

エマニュエル大使とは

ラーム・エマニュエル大使は中西部イリノイ州シカゴ出身で、1990年代に民主党のクリントン政権で大統領上級顧問を務めたあと、下院議員を経てオバマ政権では政権運営の要となる大統領首席補佐官を務めました。

オバマ大統領が最重要課題とした医療保険改革で議会対策を取り仕切り、改革の実現に道筋をつけたと評されていて、この頃に当時、副大統領だったバイデン大統領の信頼を得たと言われています。

バイデン大統領の退任に伴い、1月中旬に離任する予定のエマニュエル大使がNHKの単独インタビューに応じました。
※以下、エマニュエル大使の話(インタビューは12月23日に行いました)

3年間の在任期間を振り返って

3年前に着任してからきょうまでを振り返ると、日米同盟は確実に将来に向けた備えがより充実したと言えると思います。

もっと時間があれば、いろいろなことができたのにと思うことはありますが、時間を最大限に活用できました。

この3年間で日米関係は将来の課題に備え、両国民がその機会を最大限に活用する準備ができていると思います。

中国とどう向き合ってきた?

中国の全体的な戦略はアメリカをインド太平洋地域から追い出そうとすることにあります。

インド太平洋地域は中国にとってはホームであり、われわれアメリカにとってはアウェーです。ハワイやカリフォルニア州のロングビーチから取り組むのでは、中国に対してあまりにも譲歩することになります。

そのため、アメリカはこの地域で仲間が必要です。それは日本であり、韓国、フィリピン、オーストラリア、ニュージーランド、インドのことです。

最も重要なことはアメリカ、日本、フィリピンなど、それぞれの国の強みを生かす点にあると思います。

中国は政治、外交、経済、安全保障、ソフトパワーやハードパワーの圧力を使って、日本やフィリピン、あるいはインドなどを孤立させ、行動を制限しようとします。

私たちが取るアプローチはその逆です。複数の国がともに立ち上がることで孤立するのは中国です。日本やフィリピンではなく、中国が孤立するのです。

アメリカの外交・安全保障政策 変わる?変わらない?

「変わるか」と問われれば「変わるものもあれば変わらないものもある」と答えるのが適切でしょう。

共通の課題である中国は、アメリカと日本の両国にとって「北極星」のような存在であり、日本とアメリカ双方が防衛の信頼性を強化する必要性は変わらないでしょう。そこに変化はないと思います。

私はバイデン政権の一員として、いわゆる多国間主義のアプローチを形づくることに携わったことを誇りに思っています。一方で、トランプ政権がその点についてどう出るかはまだ明らかではありません。

予断を持ちたくはありません。第1次トランプ政権にいたマット・ポッティンジャー氏(※ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議でアジア上級部長など歴任)の周辺には多国間主義のアプローチを支持する人々がいたことを知っています。

ただ、それを新政権の国家安全保障担当大統領補佐官や国務長官も同じように支持するかどうかは別問題です。個人的には、彼らも支持すると思います。戦略的な観点を見れば、その政治的な価値が理解されるはずです。

次期トランプ政権にどう向き合うべき?

第一に、(首脳同士の)個人的な関係には価値があります。

また、日本はアメリカ議会の上下両院に多くの支援者がいます。民主・共和両党にまたがり、議会全体で、日本を支持する声が広く存在しています。こうした支援は日本の利益を実現する上でトランプ政権に対して大きな力となり得ます。

第二に、経済分野では日本は過去5年間、アメリカへの直接投資でトップに立ち続けています。

大使館で計算したところ、G7の中でも日本の投資の44~45%が製造業などの分野に集中しており、G7の他のどの国よりも高い割合です。この点は、トランプ次期大統領にとって特別な魅力と言えるでしょう。
加えて、これは日本政府の関係者に伝えたことはありませんが、日本は、州知事や州政府に対して行ってきた支援を、国として十分に活用していないと感じます。

数え方にもよりますが、私が大使に就任してからこの3年間で、27から30もの州知事が日本を訪れています。

例えば、アメリカの大きな州であるテキサス州を見てみると、三菱重工業の米国本社はヒューストンにあり、トヨタの米国本社はダラス近郊にあり、いずれもテキサス州で大きな雇用を生み出しています。

こうした日本企業による投資はテキサス州、インディアナ州、ミシガン州、ノースカロライナ州、ジョージア州、テネシー州、オハイオ州、アリゾナ州など、多くの州に広がっています。

こうした投資を政治的な利点として最大限活用し、影響力として使うべきです。これはまさに「影響力のポートフォリオ」と言えます。

日本は過去5年間、アメリカへの直接投資でトップを維持しており、100万人ものアメリカ人を雇用しているのです。このような事実は広く共有されるべきです。

そして、日本は、こうした資産を活用し、影響力を発揮すべきです。

大統領選挙・民主党はなぜ敗れた?

民主党は、取り残された中間層のために闘うという声を失ってしまいました。

コロナ禍を経て人々の生活は大きく混乱しましたが、私たち(民主党)は人々の怒りやフラストレーションに対して十分に敏感ではありませんでした。
子どもたちの学校のスケジュールは混乱し、配偶者やパートナーの仕事のスケジュールも乱れ、日常が崩れました。さらに、インフレが生活に大きな混乱をもたらしました。

人々は静けさと日常の回復を求めていますが、ポストコロナの時代にはそれが得られていません。そのため、人々が不満を感じるのは当然のことです。

もし民主党が再び政権を取りもどすつもりなら、ただ「反トランプ」を訴えるだけではだめです。アメリカのための政党として再び足場を固め、訴えを見いだしていかなければなりません。

アメリカ社会の抱える課題とは?

アメリカンドリームにアクセスする4つのポイント、つまり家を持つこと、子供の教育費をまかなう能力、退職後のための貯蓄、そして医療へのアクセス、これらすべてが大きく圧迫されています。

私は3軒の家を所有しています。私が3軒の家を所有して経済的な恩恵を受けられる一方で、結婚しても家を買う余裕がない人もいるというのはおかしいと思います。

アメリカでは家を持つことが資産を築く最初のステップです。教育費をまかなうために必死になる人々がいて、それでも多額の学生ローンを抱えて卒業し、家を買う余裕がない。
さらには退職後のための社会保障やその他の資金も不安定です。われわれはアメリカンドリームをもっとアクセス可能で包括的なものにしなければなりません。

この30年間、グローバリゼーションの影響で勝者はますます少なくなり、多くの人々が停滞した状態に陥っています。アメリカンドリームが多くの世代にとって遠いものになってしまったのです。

これに代わる、アメリカの人々を救うビジョンをわれわれは実行できておらず、それがどれほど難しいことかを十分に理解しているようにすら振る舞っていません。

ウクライナ侵攻「24時間以内に終わらせられる」?

私はアメリカの大使として次期大統領と争うつもりはありませんが、重要なのは戦争を終わらせることではなく、持続可能な平和を築くことです。

2014年のクリミア併合から2022年2月にいたるまでの流れを考えると、問題は「戦争を終わらせるかどうか」ではありません。

確かに、誰かがそれを1日で終わらせることができるかもしれませんが、適切に対処しなければ、戦争は再び始まります。

2014年のクリミア併合後、2022年2月まで、低強度で継続的な戦争が続いていました。現在の戦争を終わらせるだけでは不十分です。

重要なのは、ウクライナの人々が主権を持ち、独立した未来を享受できるような、持続可能な平和を実現することです。その未来が、ロシア軍による高強度または低強度の戦争で脅かされることのないものでなければなりません。

問うべきは「戦争を終わらせるかどうか」ではなく、「その平和が努力に見合う価値があるかどうか」なのです。

日本へのメッセージは?

日本は防衛費をGDP比の1%からおよそ2%に増額し、反撃能力を得ました。

日本の自国防衛への投資は、アメリカにこの60年間で最も重要な安全保障上の変革の1つを促しました。

多国間の連携には価値があります。抑止力に信頼性を与えるのです。

戦争をしたくない、または攻撃を受けたくないというのは誰もが望むことですが、それを実現するための最良の方法は、最善の準備を整え、防衛に関する信頼性を持つことです。

多国間の安全保障や外交イニシアチブはその抑止力に信頼性を与え、一国では実現しえない力を与えるのです。
(12月23日ニュース7などで放送)
国際部デスク
石井 勇作
1995年入局
ロサンゼルス支局、ワシントン支局などを経て、
2021年から国際部・アメリカ担当デスク。
国際部記者
海老塚 恵
2018年入局 京都局を経て2023年8月から現所属
ウクライナ情勢のほかアメリカ、国連などを中心に取材