あなたは解ける?「国際成人力調査」日本“世界トップレベル”

OECD=経済協力開発機構が行った「国際成人力調査」で、日本は「問題解決能力」で1位、「読解力」と「数的思考力」は2位でいずれも世界トップレベルとなりました。

一方、みずからのスキル不足や専攻した学問と現在の仕事が合っていないと答えた人の割合が高いなど、課題も浮き彫りとなりました。

この問題解けますか?

社会生活で求められるスキル=成人力を測る国際成人力調査。
どのように行われ、どのような問題が出されたのでしょうか。

まず調査は、対象者の自宅などでタブレット端末を使って対面式で行われました。情報を活用するスキルを重視し、高度な数学の公式などの知識がないと解けない問題は出されていません。

OECDは実際の問題は非公表としていますが、問題の例を公表しています。

実際に見ていきましょう。

答えは記事の文末にあります。

問題1「読解力」について

問題:幼稚園のルールのリストを見てください。登園時間は何時までですか?

『幼稚園のルール』
幼稚園へようこそ!学びながらお互いを知り合う楽しい一年となることを期待しています。お手数ですが、当園のルールをご確認ください。

・午前9時までにお子様をお連れください。
・お子様は動きやすい服装にし、着替えをお持ちください。
・アクセサリーやキャンディーはご遠慮ください。お誕生日のお子様には特別なおやつを用意しますので、担任の先生にご相談ください。
・お子様の着替えを済ませてからお連れ下さい(バジャマは不可)。
・朝食は午前7時30分頃に提供されます。
・お昼寝用の小さな毛布か枕をご持参ください。おもちゃはご自宅に置いてくるようにお願いします。
・お薬はラベルが貼られた元の容器に入れ、各教室にある投薬表に必ずサインをしてください。
・何かご質問がございましたら、クラス担任か佐藤先生にご相談ください。

問題2「数的思考力」について

問題:「寝室の図面」と「壁紙計算機」を見てください。タンスと机の後ろの壁(矢印で指している部分)に、床から天井まで壁紙を貼ろうとしています。「壁紙計算機」に正しい情報を入力してください。

部屋の天井までの高さ
2.50メートル(m)

1ロールの壁紙
幅:52センチメートル(cm)
長さ:10.05メートル(m)

【壁紙計算機
壁紙の幅(cm):
壁紙の長さ(m):
幅(m):
高さ(m):

問題3「状況の変化に応じた問題解決能力」について

問題:今は朝の8時です。あなたは下のメモにあげられたしごとを完了する必要があります。これらのしごとを完了するための最短ルートを計画してください。時間の制約に注意すること。

・午前8時30分までに子供を学校に送り届ける。
・毎週の食料品を買う(20分)。
・午前9時30分のミーティング前に帰宅する。

日本は世界トップレベル

「国際成人力調査」は、社会生活で求められるスキルを測り、学歴や所得との関連などを調べるため、OECDが2011年に初めて行い、2回目となった2022年の調査結果がまとまりました。

調査には、31の国と地域の16歳から65歳までのおよそ16万人が参加し、日本からは無作為に選ばれた5000人余りが、「読解力」と「数的思考力」、それに「状況の変化に応じた問題解決能力」の3つの分野の調査に解答しました。

日本は、前回から調査内容が変わった「状況の変化に応じた問題解決能力」で、平均を25点上回ってフィンランドと並んで1位となりました。
また、前回は1位だった「読解力」「数的思考力」は順位を下げていずれも2位となりましたが、トップレベルを維持しました。

3分野すべてでフィンランドが1位となり、次いで、日本、スウェーデン、ノルウェー、オランダとなっています。

3つの分野の調査結果を詳しく見ると、日本は3つすべての分野において、得点が低い人の層の割合が参加した31の国と地域の中で最も少なくなったほか、「読解力」でも得点が低い層の割合が参加国の中で最も低くなりました。また、「数的思考力」では得点が高い層の割合が前回の19%から25%と6ポイント増加し、16歳から24歳の得点の平均が、1位となりました。

一方、男女差の得点でみると男性の平均得点が女性を12点上回り、得点差も参加国の平均よりも2点余り大きくなりました。

このほか、解答者の属性をもとに結果を分析すると、すべての分野について親の学歴が高いほど得点が高いという結果になりました。

課題は“仕事とのミスマッチ”

一方、聞き取り調査では課題も浮き彫りとなりました。

日本では、自分のスキルの一部が仕事に必要なものより低いと回答した人の割合がおよそ29%となってOECDの平均の10%と比べて3倍近くとなりました。

その理由としては、ITスキルを向上させる必要があると答えた人が42%、チームワークやリーダーシップのスキルを向上させる必要があるとした人が40%などとなっています。また、働いている人のうちおよそ35%が現在の仕事に対して必要以上の学歴や資格を持っていると回答し、OECDの平均の23%と比べて高くなりました。

さらに、最終学歴の専攻が自分の仕事に最も関連する分野でないと答えた人も46%に上り、平均を8%上回るなど、仕事とのミスマッチを回答した人の割合が高くなっています。

今回の調査結果について文部科学省は学校教育の充実を進めてきた結果だとみられるとした上で、「調査結果を大学などで学び直す、リカレント教育を通した人材育成に生かしていきたい」と話しています。

OECD局長 “教育システムの効率 非常によい”

OECD=経済協力開発機構の教育分野の責任者、アンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は「全体的に『読解力』が高いと『数的思考力』も高い関係にある。日本は長く、質の高い教育をしてきた歴史から、若い人も高齢者も『読解力』が非常に高い。教育システムの効率が非常によいことなども結果につながったのではないか」と分析しています。

一方、現在の仕事に対してスキル不足や専攻した学問とのミスマッチを感じている人の割合が高いことについて「日本では大学レベルになると、大学で教わることの価値は何かということがあまり重視されていない。卒業証書のようなものに対する重要度は大きくせず、もっとスキルを重視することが労働市場のニーズに応えることに役立つのではないか」と指摘しました。

そのうえで「これからの日本では、働いている人が新しいスキルを身につけるリスキリングや、既存のスキルを向上させるアップスキリングへの投資を考えていかなければならないだろう」と話しています。

専門家“ミスマッチ解消やスキルに見合った賃金に”

労働政策などに詳しい、独立行政法人労働政策研究・研修機構の深町珠由副統括研究員は、今回の調査結果について「順位に一喜一憂するのではなく、調査から成人が持つスキルを社会の中でどう発揮できているのかを見ていくべきだ」と指摘しています。

その中でも、みずからのスキル不足や専攻した学問と現在の仕事が合っていないと答えた人の割合が高くなったことについて「年齢や性別などで賃金が決まり、学歴やスキルが賃金に反映される余地が大きくないのが、いまの日本の労働市場の姿だ」としたうえで「大企業などでは、ジョブローテーションでいろんな仕事を経験し、学んできた専攻とは関係がない分野の仕事も行う。こうした日本型雇用の特徴が、結果にあらわれている」と分析しています。

そのうえで「日本は労働生産性が低いと言われているが、仕事のミスマッチを解消することや学歴やスキルに見合った賃金にしていくことが個人の能力を発揮させ、労働生産性の改善につながるのではないか」と話しています。

問題の答えはこちら

問題1:「午前9時まで」
問題2:「壁紙の幅 52cm、壁紙の長さ 10.05m、幅 2.2m、高さ 2.5m」
問題3:「自宅→学校→A店→自宅を最短でつなぐルート」
※記事冒頭の画像のみかん:5つ