ネットショッピングでトラブル急増 あなたを惑わす7つの手口

ネットショッピングでトラブル急増 あなたを惑わす7つの手口
皆さん、ネットショッピングなどでこんな経験はないですか?

カウントダウンのタイマーや、「今だけ」などという表示にせかされて、思わず商品を買ってしまう。
「通知を許可してください」と何度もポップアップが出てきて、面倒になり同意してしまった。

こうした、私たちが無意識のうちに、不利な判断に誘導されてしまうウェブデザインは「ダークパターン」と呼ばれています。
実際にダークパターンを経験した人に話を聞きました。

(経済部 坪井宏彰・国際部 芋野達郎)

定期購入の字が小さくて…

長野県に住む、小松利知子さん(74)。
ことし1月、スマホアプリのゲームをしていたところ、美容クリームの広告が出てきました。

「シワが改善する」などの文言に惹かれて見てみると、通常価格1万1000円ほどの商品が、初回限定2000円で購入できると書いています。
小松さん
シワやタルミが気になっていたので、2000円だから試しに使ってみようと思い、購入しました。
ところが、購入後にインターネットで商品について調べていると、「知らないうちに定期購入になっていた」という投稿が多く見つかりました。

慌てて、販売会社のカスタマーセンターに問い合わせると、案の定、「小松さんが購入したのは定期購入の商品だ」「定期購入だと書いてある」と言われました。

こちらが、小松さんが見たという広告の再現イラストです。
通常価格から大幅に割り引かれることが大きく示されていた一方、商品が定期購入であることや、2回目以降をキャンセルする場合には追加料金がかかることは、小さく書かれていました。
小松さん
乱視や老眼があり、小さい文字が見えないということはあったかもしれません。でも、本当に虫眼鏡で見ても読みづらいような小さな文字で…。読まなかった私が悪いということなんでしょうけど、卑怯だよなって思いました。
結局、2回目以降の商品をキャンセルするのに、およそ9000円を追加で支払うことになったと言うことです。

請け負うウェブデザイナーは

無意識のうちに不利な判断に誘導される「ダークパターン」は、なぜ作られてしまうのか。

商品の販売会社などからウェブサイトの制作を請け負っているウェブデザイナーに話を聞きました。
デザイナー
ウェブサイトでは、購入につながったかが最重要です。どんなにきれいに美しくても商品が購入されなければ、それはだめなデザインです。私の中では、しっくりきていない部分はありますし、消費者には気の毒だと思いますが、企業としては商品が購入されるかぎり利益になりますので、なくなることはないと思います。
その上で、ダークパターンのノウハウが、少なくない企業の間で許容されているような状況があると明かしました。

たとえば、定期購入のボタン。

「お得にはじめる」などと表記して、定期購入であることを感じさせないようにしてほしいと企業から要望を受けることも多いと言います。
そのうえで、ボタンは緑色など、消費者が安心感を抱きやすいと言われている色にして、大きく配置することが多いそうです。

一方、「お得にはじめる」を押した場合に、定期購入となり、2回目以降をキャンセルするには追加で料金がかかることなどは、注釈で小さく書くことで、消費者の目に触れにくいようにデザインすることが、暗黙のうちに求められていると言います。
デザイナー
ダークパターンの中には、私でも『すごいところまで進んでいるな』と感じるような、巧みなものがあります。消費者は感情で動くので、いかにそこに入り込んで、感情を揺さぶって購入させようか考え尽くされています。消費者がダークパターンに誘導されないようにすることは、なかなか難しいのが現状だと思います。

意図しない契約は「年間1兆円」の推計

ダークパターンによる消費者トラブルはどの程度広がっているのか。

国民生活センターによると、典型例とされる定期購入をめぐる相談が、ことしは10月末までに約4万8000件にのぼり、去年を上回るペースで寄せられていますが、国内ではダークパターンに対する直接の規制がなく、詳しい実態はわかっていません。

こうした中、消費者庁は今年度、ダークパターンの実態調査に乗り出したほか、総務省の有識者会議が9月にスマホアプリを手がける事業者にダークパターンの是正を求める報告書案をまとめました。
消費者庁・新未来総合戦略本部 酒井啓課長補佐
例えばステルスマーケティングの表示とか、個別に規制する法律はあるが、法律がない部分もある。日本にどういうダークパターンが存在していて、どういう分類ができるのかということをまずは基礎研究として行っている。消費のメインの場所がデジタル空間になっていくにあたって新しい消費者問題として非常に重要な課題だと考えている。
民間でも、自主的にダークパターンを是正していこうという動きが出始めています。

ことし10月、通信会社の呼びかけに賛同した専門家などで作る「ダークパターン対策協会」が設立されました。

団体では、消費者の意図しない契約や購入は国内で年間およそ1兆円にのぼると推定。

ダークパターンではない、適切な対応を行っている企業を認定する制度を来年7月から始めるのを目指しています。

いわゆる「ホワイト」な企業を認定して、ウェブサイトやアプリ上でロゴマークを表示することで、消費者に安心してネットを利用してもらえる環境を整えていきたいとしています。
ダークパターン対策協会 小川晋平代表理事
認定を受けた企業にロゴマークを出します。このロゴマークがついているウェブサイトは安心して使えますよという広報活動をこれからやっていく。それを見ていただくことで安心できるウェブサイト、インターネット環境の目安にしてもらいたい。そうすればおのずと誠実なウェブサイトが増えていく世の中になるのではないか。
そのほか、デザインの専門家などでつくる「人間中心設計推進機構」では、新たに「ダークパターン研究会」を立ち上げ、ユーザー視点でのダークパターンの評価などを行っていくことにしています。

退会ボタンを分かりやすい位置に

企業側もダークパターンへの対応を迫られています。

東京に本社があるオンラインゲームなどを開発する会社では、運営するウェブサイトで、これまで、会員を退会するためのボタンがわかりづらい位置にありました。

しかし、これを分かりやすい位置に、大きく配置することにしました。
さらに、これまで必須としていた退会時のアンケートを任意に変更しました。
ネクソン マーケティングチーム 伊藤俊輔さん
ゲーム事業は、日本だけではなく、韓国、欧米など世界中で展開しています。ダークパターンについてアンテナが高い韓国や欧米の基準にあわせて運用する必要があります。新たな対策を取る場合は経費もかかるので負担にはなりますが、長期的に見ると企業イメージの向上にもつながるのでメリットがあると考えています。
背景には世界的にダークパターンを厳しく規制する動きが加速していることがあります。

EU議会はおととし採択した「デジタルサービス法」の中で、「プラットフォーム提供者はダークパターンを運用してはならない」と規定しています。

また、アメリカのFTCはおととし、ダークパターンの具体例や訴訟事例を紹介したレポートを公表し、ダークパターンを精査していくことを企業に警告。インターネット電話の企業を訴え、総額1億ドルが返金される和解が成立したほか、ショッピングサイト最大手のアマゾンに対しても、消費者を有料会員に誘導したとして訴訟を起こしています。来年4月には、定期購入などで契約するのと同じくらい簡単に解約できるように求めるルールが発効されることになっています。

インドでは去年、ガイドラインを発表し、「期間限定」や「在庫わずか」などのうその表示をさせないことや、有料の追加サービスや定期購入の選択肢は、購入者に自分でチェックを入れさせることなど、13種類の具体例を示して規制することにしました。

韓国では来年2月に法律の改正が行われる予定で、大きさ・形・色などで著しい差をつけたボタンを設けて特定の選択に誘導したり、会員の退会手続きを加入手続きよりも複雑にしたりするといった表示の仕方など、6種類のダークパターンを規制の対象にします。

専門家「救済措置を設けるのが実効的」

ネット上での買い物が当たり前になった現在、ダークパターンに対してどのような規制が望ましいのか。消費者や企業には何が求められるのか。

ネット上の取り引きに詳しい上沼紫野弁護士に聞きました。
上沼紫野弁護士
ダークパターンは定義づけが難しく、日本では事前に一律に規制するのは難しいと考えられる。一方、被害を受けたあと賠償を請求できる仕組みが不十分なので、事後的な救済措置を設けるのが実効的なのではないか。また被害の軽減に向けては消費者自身がリテラシーを高め、事業者をしっかり監視することも重要だ。そして事業者側には『自分の子どもに見せて大丈夫なのか』という視点で誠実に対応することが求められる。

私たちができることは

私たち消費者はどんなことに気をつければいいのでしょうか。
ポイントは大きく二つです。

一つが、ダークパターンにはどのようなデザインがあるかを知っておくことです。

OECD(経済協力開発機構)は、2年前に出した報告書で、ダークパターンを7つの類型に分類しています。
<強制>
ユーザー登録や個人情報の開示を強要する、など

<インターフェース干渉>
事業者に都合のよい選択肢を事前に選択している、視覚的に目立たせている、など

<執ような繰り返し(ナギング)>
通知や位置情報の取得など事業者に都合のよい設定に変えるように何度も要求する

<妨害>
解約やプライバシーに配慮した設定に戻すことなどを妨害する行為

<こっそり(スニーキング)>
取り引きの最後に手数料を追加する、トライアル期間後に自動で定期購入に移行する、など

<社会的証明>
ほかの消費者のうその感想や行動などを通知する

<緊急性>
うそのカウントダウンタイマー、在庫が少ない、需要が高いなどの表示
そして、ポイントのもう一つは「証拠を残す」です。

たとえば、特定商取引法では、最終確認画面で、定期購入の場合にはその内容や、解約時の違約金の情報などを明記することが義務づけられています。

そのため、最終確認画面などをスクリーンショットで残しておくと、トラブルにあった際に証拠として利用することができます。

サタデーウオッチ9(12月7日放送)

ネットショッピングの前に知っておきたいダークパターン
動画で詳しく解説
配信期限:12月14日(土)22:00まで