秋田 スーパー店内のクマ 設置のわなに入り 捕獲 店の外へ

11月30日、秋田市のスーパーマーケットで、従業員の男性を襲ったあと、そのまま店内に居続けていたクマについて、丸2日たった12月2日朝、箱のわなに入っているのが確認され、その後、昼すぎに店の外に運び出されました。

11月30日の朝、秋田市土崎港西のスーパーマーケット「いとく土崎みなと店」で、47歳の従業員の男性が店に入り込んだクマに襲われ、頭にけがをしました。

クマはそのまま店内に居続け、警察によりますと、店長が外から確認したところ、奥の肉売り場が荒らされていたり棚が壊されたりしていたということです。

その後、クマはバックヤードにいるのが確認され、警察などが、バックヤードと売り場をつなぐ扉の付近にハチミツやりんごなどを入れた箱のわなを設置していました。

警察によりますと、12月2日午前4時すぎに県から設置されたわなのセンサーが作動したという連絡があり、警察が午前8時すぎにわなに入っているのを確認したということです。

クマは体長およそ1メートルの大人のメスで、吹き矢で麻酔を打たれて眠らされたあと駆除され、午後1時半前に軽トラックにわなごと載せられて、店の外に運び出されました。

現場は秋田港に近い海側にあり、住宅や商業施設などが集まった地域で、山間部から離れたところにあります。

秋田県では11月下旬に入って学校周辺や市街地などでクマの出没が相次いでいて、県は11月30日までとしていた「ツキノワグマ出没注意報」を12月末まで延長することを決めています。

地元の人から安どの声

スーパーマーケットに居続けていたクマが捕獲されたことを受け、地元の人たちからは安どの声が聞かれました。

現場の近くにいた60代の女性は「まずは安心しました。まさかこんなところでと思っていたので、ほっとしました」と話していました。

近くに住む80代の男性は「3日くらい前にもクマが入り込んだスーパーで買い物をした。こんなところにクマがいるなんてびっくりした」と話していました。

近くを散歩していた別の80代の男性は「町中にクマが出るなんておっかないです。捕まらないと外に出られなかったので、安心しました」と笑顔で話していました。

店の外に運び出されるまでの経緯

クマが従業員を襲ったのは、11月30日の午前6時20分ごろでした。

秋田市土崎港西のスーパーマーケット「いとく土崎みなと店」で、開店の準備を進めていた男性従業員が店内でクマに襲われました。

頭に軽いけがをした従業員は仲間に助けられ、その場を離れましたが、クマはそのまま店内に居続けます。

警察によりますと、店の奥にある肉売り場が荒らされたり棚が壊されたりしたということで、秋田市などが売り場にドローンを飛ばして捜しましたが、クマをなかなか見つけられません。

事態が動いたのは12月1日の午後でした。

店舗のバックヤードでクマが動いているのを、売り場で警戒していた警察官が確認。

警察などは、売り場とバックヤードをつなぐ2か所にわなを設置して捕獲を試みました。

そして、12月2日午前4時ごろ、わなのセンサーが作動したという連絡を県から受けた警察が、午前8時すぎにクマがわなに入っているのを確認しました。

クマが従業員を襲ってからおよそ55時間が経過した午後1時半前、捕獲されたクマはわなごと軽トラックに載せられて、店の外に運び出されました。

地元の猟友会会長「難しい状況だった」

箱のわなを用意した地元の猟友会の会長が当時の状況を語りました。

秋田市みなと猟友会の伊川武志会長によりますと、猟友会では11月30日、警察などと連携して店の入り口付近でクマを捕獲するための箱のわなを用意しました。

店内にはほかにも多くの食べ物があったため、わなにはクマをおびき寄せられるようにりんごやバナナ、食パンなどを入れたほか、ハチミツをふだんより多くかけたということです。

また店内では当時、花の売り場スペースが荒らされていて、鉢がひっくり返ったり、割れたりする様子がみられたということです。

伊川会長は「小屋だと出入り口がひとつだが、今回はそれがたくさんあり、クマの姿も見えないなか難しい状況だった。そのような中でも捕獲できてよかった」と話していました。

前日夜 クマとみられる動物が道路を走る様子が

クマがスーパーに入り込んだ前日の11月29日の午後9時ごろ、現場から北東におよそ200メートル離れた施設に設置された防犯カメラの映像では、クマとみられる動物が、道路を走っている様子がうつっています。向かった先は国道7号の方面だということです。

秋田県内のクマ目撃情報 11月は42件

秋田県内のクマの目撃情報を地図上に示す県の情報マップシステム「クマダス」によりますと、11月の1か月間に県や市町村によって報告されたクマの目撃件数は42件でした。

このうち、11月18日からの目撃件数は31件と、全体の70%以上を占めていて、学校周辺や市街地などでクマの出没が相次いでいました。

スーパーにクマ出没は異例 難しい対応迫られる

秋田県内のスーパーマーケットにクマが出没したのは過去にないケースで、県や市などは想定外の事態に難しい対応を迫られたとしています。

秋田市によりますと、対応はけが人を出さずに行うため慎重に進められ、まずは、店内のどこにクマがいるかを特定するのに時間を要したということです。

さらに、現場で対応にあたる関係者の安全を確保したうえで、どこにわなを仕掛けるのがよいかなど、協議事項も多かったとしています。

鳥獣保護管理法では市街地での猟銃の使用を禁止していて、発砲するには、警察官が警察官職務執行法に基づいて発砲を命じる必要があります。

しかし、発砲を命じるにあたっては、銃弾が貫通して後方などに飛んでいくのを避ける「バックストップ」を確保するなど、安全面のさまざまな条件をクリアすることが求められます。

市などによりますと、今回の現場はスーパーの店内という異例のケースで、発砲した銃弾が別の建物やガス管などに当たってしまうリスクもあり、猟銃を使用する可能性は非常に低かったとしています。

今年度 全国でクマの被害に遭った人や出没件数は

環境省によりますと、昨年度、クマに襲われるなどの被害に遭った人は、全国で219人と過去最悪となりました。

今年度は10月末時点で75人と、去年の同じ時期の半数以下となっています。

また、クマの出没件数は、今年度10月末時点で1万7988件となっています。これは去年の同じ時期の1万9374件を1000件余り下回ってはいますが、依然として多い状況が続いています。

今年度、出没件数が多いのは、
▽岩手県が2678件
▽京都府が1705件
▽長野県が1364件などとなっていて、
10月だけで見ると、多い順に
▽兵庫県で265件
▽京都府で239件
▽山口県で226件などとなっています。
ただ、これらの件数は都道府県ごとにそれぞれ異なる方法で取りまとめたもので、九州と沖縄は調査をしておらず、北海道は出没数を公表していません。

環境省は、クマ鈴やラジオなど音の出るものを携帯するなどして自分の存在を知らせることや、目撃、出没情報のあったところには近づかないことなど注意を呼びかけています。

また、クマに出会った場合は、▽距離が離れているときは、ゆっくりと静かに立ち去ること、▽距離が近いときは、クマがパニックになり突発的な攻撃をする可能性があるため、刺激しないことが大切で、走ったり大声を出したりせず、クマから目を離さずにゆっくりと静かに後退するようにしてほしいとしています。

専門家 “人間の撤退にあわせ 動物の生活圏拡大しているか”

クマの生態に詳しい東京農工大学大学院の小池伸介教授は、山から離れた市街地にクマが出没したことについて「40年、50年という長いスパンの中でクマが人の生活圏に近づいている。人口減少や高齢化、それに人の生活圏の一極集中が進み、人間が撤退するのにあわせて野生動物の生活圏が拡大しているためではないか」と指摘しました。

小池教授によりますと、ことしは木の実の実り具合が良く、山の中には餌がたくさんある状況だということですが、それにもかかわらずクマが市街地に現れたことについては「去年の秋に市街地で栗や柿を食べたことを覚えていて、また食べられると思っておりてきた可能性がある」と分析しました。

一方、捕獲まで時間がかかった理由については「クマがどこに潜んでいるのかわからず、目標が見えないなかで麻酔銃で撃って眠らせるというのは難しい。また、食べ物が多いスーパーマーケットでは、わなにおびき寄せるための餌も効果がなかったのではないか」と話しました。

そのうえで、今後の対策については「野生動物の専門的な知識を持つ人が行政にはいないところも多い。クマの出没が全国で相次ぐ中、今後は専門家を配置して、行政が責任を持って対応できる体制を作っていく必要がある」と述べました。