ロシアの戦争終わらせられる?アメリカ前駐ロ大使の考察
「私ならロシアの戦争を終わらせることができる」
大統領選挙でこう繰り返し主張し、さっそく「プーチン大統領と電話会談した」とも報じられたトランプ氏。
ロシア側はこの情報を否定していますが、トランプ氏は侵攻を続けるプーチン大統領にどう対応するのか。日本をはじめとする同盟国との関係はどうなるのか。
前のトランプ政権で外交当局のナンバー2、国務副長官を務め、ウクライナ侵攻前後には駐ロシア大使だったジョン・サリバン氏に詳しく聞きました。
(国際部デスク 渡辺公介)
※以下、ジョン・サリバン氏の話(インタビューは10月28日に行いました)
大統領選挙でこう繰り返し主張し、さっそく「プーチン大統領と電話会談した」とも報じられたトランプ氏。
ロシア側はこの情報を否定していますが、トランプ氏は侵攻を続けるプーチン大統領にどう対応するのか。日本をはじめとする同盟国との関係はどうなるのか。
前のトランプ政権で外交当局のナンバー2、国務副長官を務め、ウクライナ侵攻前後には駐ロシア大使だったジョン・サリバン氏に詳しく聞きました。
(国際部デスク 渡辺公介)
※以下、ジョン・サリバン氏の話(インタビューは10月28日に行いました)
プーチン氏にとってアメリカ大統領選挙とは?
プーチン氏はアメリカ大統領選挙を注視しています。
最近、旧ソビエトのモルドバとジョージアで選挙が行われましたが、ロシアは選挙に介入して影響を及ぼそうとしていました。
アメリカ大統領選挙におけるプーチン氏の最も重要な目的は、アメリカの分断を作り出すことです。アメリカ人を分断し、アメリカ政府や民主主義への信頼を低下させることが、ロシアの情報操作の目的のひとつです。
トランプ氏が副大統領候補に指名したバンス氏が「懸念されるのはウクライナよりもアメリカの国境だ」と発言しました。こうした考え方は、まさにプーチン氏が支持するものでしょう。
最近、旧ソビエトのモルドバとジョージアで選挙が行われましたが、ロシアは選挙に介入して影響を及ぼそうとしていました。
アメリカ大統領選挙におけるプーチン氏の最も重要な目的は、アメリカの分断を作り出すことです。アメリカ人を分断し、アメリカ政府や民主主義への信頼を低下させることが、ロシアの情報操作の目的のひとつです。
トランプ氏が副大統領候補に指名したバンス氏が「懸念されるのはウクライナよりもアメリカの国境だ」と発言しました。こうした考え方は、まさにプーチン氏が支持するものでしょう。
トランプ氏は「ロシアの戦争を終わらせる」?
それは大げさな話で誇張していると思います。
トランプ氏は2016年の大統領選挙の際「メキシコとの国境沿いにつくる壁の建設費はメキシコに支払わせる」と主張していましたが、そんなことは起きませんでした。
そう言うことで、トランプ氏はバイデン氏と自分を区別しようとしたのです。
トランプ氏は「プーチン氏は私を恐れている。もし私が大統領だったら、プーチン氏は決してこの戦争を始めることはなかっただろう」と言いましたが、私はそうは思いません。
プーチン氏は、アメリカ大統領が誰であろうとウクライナで達成しようと考えている目標があると思います。ですから、これは政治的なレトリックです。
ただ、トランプ氏の大統領への返り咲きはウクライナにとっては大きなリスクであり、ウクライナはより厳しい状況に追い込まれることになるでしょう。
トランプ氏は2016年の大統領選挙の際「メキシコとの国境沿いにつくる壁の建設費はメキシコに支払わせる」と主張していましたが、そんなことは起きませんでした。
そう言うことで、トランプ氏はバイデン氏と自分を区別しようとしたのです。
トランプ氏は「プーチン氏は私を恐れている。もし私が大統領だったら、プーチン氏は決してこの戦争を始めることはなかっただろう」と言いましたが、私はそうは思いません。
プーチン氏は、アメリカ大統領が誰であろうとウクライナで達成しようと考えている目標があると思います。ですから、これは政治的なレトリックです。
ただ、トランプ氏の大統領への返り咲きはウクライナにとっては大きなリスクであり、ウクライナはより厳しい状況に追い込まれることになるでしょう。
本当に“戦争”を終わらせられる?
トランプ氏が言うように「戦争を終わらせる」には、アメリカがウクライナに降伏するよう圧力をかけることが唯一の方法かもしれません。
しかし、たとえアメリカがウクライナ支援を打ち切ったとしても、ウクライナは降伏しないでしょう。
プーチン氏はウクライナ侵攻を始めたとき、ロシアの情報・治安機関である連邦保安庁から「ウクライナは抵抗しない」と聞かされていました。
これまで証明されていることは、ロシアがウクライナの領土を軍や治安機関を使って占領したとしても、ウクライナは抵抗を止めないということです。
しかし、たとえアメリカがウクライナ支援を打ち切ったとしても、ウクライナは降伏しないでしょう。
プーチン氏はウクライナ侵攻を始めたとき、ロシアの情報・治安機関である連邦保安庁から「ウクライナは抵抗しない」と聞かされていました。
これまで証明されていることは、ロシアがウクライナの領土を軍や治安機関を使って占領したとしても、ウクライナは抵抗を止めないということです。
プーチン氏は「ウクライナ政府はアメリカの手下だ」と言っていますが、トランプ氏がウクライナに圧力をかけようとすれば、プーチン氏はウクライナがアメリカの手下ではないと思い知るでしょう。
この2年8か月の間にあまりにも多くの命が失われ、多くの暴力、残虐な行為が行われました。
最終的には、ある種の停戦、いわゆる「紛争の凍結」となるかもしれませんが、それはウクライナの降伏を意味せず、ゲリラ戦のような形で抵抗は続くでしょう。
この2年8か月の間にあまりにも多くの命が失われ、多くの暴力、残虐な行為が行われました。
最終的には、ある種の停戦、いわゆる「紛争の凍結」となるかもしれませんが、それはウクライナの降伏を意味せず、ゲリラ戦のような形で抵抗は続くでしょう。
では、ウクライナ侵攻にどう対応?
ウクライナ情勢については、より大きな視点で考えることが重要です。
北朝鮮はウクライナの戦争に関与し、イランはウクライナ侵攻を続けるロシアを支援しています。こうした動きには、中国も含めることができます。
一方、ロシアは、イスラエルと対立するイランが後ろ盾となっているイエメンの反政府勢力、フーシ派などを支援しています。すべては連鎖しています。
つまり、これは、ひとまとまりの問題であり、誰がアメリカの大統領に就任しても、イランと北朝鮮、中国と連携した侵略的なロシアとの対決を避けることは難しいのです。
北朝鮮はウクライナの戦争に関与し、イランはウクライナ侵攻を続けるロシアを支援しています。こうした動きには、中国も含めることができます。
一方、ロシアは、イスラエルと対立するイランが後ろ盾となっているイエメンの反政府勢力、フーシ派などを支援しています。すべては連鎖しています。
つまり、これは、ひとまとまりの問題であり、誰がアメリカの大統領に就任しても、イランと北朝鮮、中国と連携した侵略的なロシアとの対決を避けることは難しいのです。
トランプ政権の外交どうなる?
ロシアに対してどのようなアプローチをとるのかは、閣僚が決まるまではわかりません。
トランプ氏は大統領でなくなっても勢いを振るってきた珍しい政治家です。
しかしトランプ氏は、当選すれば最大で8年、大統領を務める可能性があったハリス氏とは違って、任期は最大4年なので、ある時点でいわゆる“レームダック”になるでしょう。
また、トランプ氏がNATO=北大西洋条約機構を支持しない、あるいは、日本や韓国、フィリピンに対する同盟義務の完全な履行を表明しないような人物を閣僚に指名したとしても、議会上院で承認を得ることは不可能だと思います。
大統領が共和党、上院の多数派が共和党でも、共和党の上院議員は民主党の議員と協力して、行政の長、軍の最高司令官がNATOや同盟国を支援するというアメリカが長年とってきた政策と、どれほど逸脱しているのかをチェックすることになるでしょう。
トランプ氏は大統領でなくなっても勢いを振るってきた珍しい政治家です。
しかしトランプ氏は、当選すれば最大で8年、大統領を務める可能性があったハリス氏とは違って、任期は最大4年なので、ある時点でいわゆる“レームダック”になるでしょう。
また、トランプ氏がNATO=北大西洋条約機構を支持しない、あるいは、日本や韓国、フィリピンに対する同盟義務の完全な履行を表明しないような人物を閣僚に指名したとしても、議会上院で承認を得ることは不可能だと思います。
大統領が共和党、上院の多数派が共和党でも、共和党の上院議員は民主党の議員と協力して、行政の長、軍の最高司令官がNATOや同盟国を支援するというアメリカが長年とってきた政策と、どれほど逸脱しているのかをチェックすることになるでしょう。
北朝鮮軍受け入れのプーチン氏のねらいは?
ウクライナでのむごたらしい戦争にロシアのより多くの若者を動員するのを避けたいのでしょう。
わたしの予想では、ロシアは、かつて民間軍事会社「ワグネル」が受刑者から募った戦闘員をウクライナ軍のざんごうに対する“人の波”として使ったように、北朝鮮の部隊を利用するのだと思います。
わたしの予想では、ロシアは、かつて民間軍事会社「ワグネル」が受刑者から募った戦闘員をウクライナ軍のざんごうに対する“人の波”として使ったように、北朝鮮の部隊を利用するのだと思います。
わたしが駐ロシア大使を務めていたとき、2021年から2022年だったと思いますが、ロシア外務省とは、ロシアで働く北朝鮮からの出稼ぎ労働者の送還など、北朝鮮に対する国連安保理決議の履行について協議しました。
そのわずか数年後に、ロシアと北朝鮮は有事の際の軍事的な支援などを明記した包括的戦略パートナーシップ条約を締結し、さらに履行しています。
ロシアの政策がいかに変わったかということを示していますが、プーチン氏の強さについて言うならば、プーチン氏の立場は、考えられているよりも強くはありません。
ロシア軍との訓練を行ったことがない兵士、ロシア語を話すかもわからない兵士に頼らざるを得ないからです。
いったい、どのようにして、ロシアは北朝鮮の部隊を自分たちの軍事作戦に組み込もうというのでしょうか。ロシア軍と訓練を行ったことがない部隊を戦場に投入したところで、ロシアに利益があるかどうかは分かりません。
そのわずか数年後に、ロシアと北朝鮮は有事の際の軍事的な支援などを明記した包括的戦略パートナーシップ条約を締結し、さらに履行しています。
ロシアの政策がいかに変わったかということを示していますが、プーチン氏の強さについて言うならば、プーチン氏の立場は、考えられているよりも強くはありません。
ロシア軍との訓練を行ったことがない兵士、ロシア語を話すかもわからない兵士に頼らざるを得ないからです。
いったい、どのようにして、ロシアは北朝鮮の部隊を自分たちの軍事作戦に組み込もうというのでしょうか。ロシア軍と訓練を行ったことがない部隊を戦場に投入したところで、ロシアに利益があるかどうかは分かりません。
北朝鮮へのプーチン氏からの見返りは?
より多くの石油やガスを送るのか、弾道ミサイルに関する軍事技術なのか、核兵器に関する技術なのか。現在の朝鮮半島や東アジアの戦略バランスを崩すものを提供する可能性もあります。
プーチン氏が気にしているのは、韓国や日本よりも中国の反応です。
わたしは、中国は北朝鮮が核・ミサイル技術を進展させることを望んでいないと考えています。
プーチン氏は北朝鮮よりも中国から幅広い、より多くの支援を得ているので、自制するかもしれません。
プーチン氏にとって中国からの政治的、経済的、軍事的支援は非常に重要です。中国が脅威だと感じる支援を提供すれば、プーチン氏は中国を遠ざけるリスクを負うことになるのです。
プーチン氏が気にしているのは、韓国や日本よりも中国の反応です。
わたしは、中国は北朝鮮が核・ミサイル技術を進展させることを望んでいないと考えています。
プーチン氏は北朝鮮よりも中国から幅広い、より多くの支援を得ているので、自制するかもしれません。
プーチン氏にとって中国からの政治的、経済的、軍事的支援は非常に重要です。中国が脅威だと感じる支援を提供すれば、プーチン氏は中国を遠ざけるリスクを負うことになるのです。
プーチン氏は妥協する?
プーチン氏自身も最近、言っていたように、和平を手にするために譲歩することはありません。
彼は、ウクライナでの戦争の目的、「非ナチ化」を達成しようとしているのでしょう。ロシアはウクライナから奪い取った領土を明け渡すことは決してないのです。
プーチン氏が実際に交渉したり妥協したりするというような雰囲気になるには、まだ時間がかかります。
今のところ、プーチン氏が妥協したくなるような状況になっているとは思えません。プーチン氏が「交渉する」というときは「ウクライナの降伏を受け入れる」という意味なのです。
彼は、ウクライナでの戦争の目的、「非ナチ化」を達成しようとしているのでしょう。ロシアはウクライナから奪い取った領土を明け渡すことは決してないのです。
プーチン氏が実際に交渉したり妥協したりするというような雰囲気になるには、まだ時間がかかります。
今のところ、プーチン氏が妥協したくなるような状況になっているとは思えません。プーチン氏が「交渉する」というときは「ウクライナの降伏を受け入れる」という意味なのです。
プーチン氏を交渉のテーブルにつかせるには?
プーチン氏にいま以上に大きな“痛み”を感じさせることが必要です。
ロシア軍の死傷者は60万人とも65万人とも言われています。ウクライナ軍は、ロシア西部のクルスク州の一部を掌握し、無人機でロシアの軍事施設や石油精製施設を攻撃し、黒海艦隊を追いやりました。
ロシアはすでに代償を支払っています。しかし、それは十分ではないのです。
ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領が交渉に応じ妥協するようになるには、ウクライナ軍がもっと戦場で前進し、ロシア軍を追い込まなければならないと信じています。
そして、ウクライナには安全の保証も必要です。 アメリカとイギリス、ロシアは1994年、ウクライナが核兵器を放棄する見返りとして、安全を保証しました。
しかし、それは2014年と2022年のロシアの侵攻を止めることはできませんでした。好戦的なロシアからウクライナを守るには、西側からの確固たる保証が必要なのです。
ロシア軍の死傷者は60万人とも65万人とも言われています。ウクライナ軍は、ロシア西部のクルスク州の一部を掌握し、無人機でロシアの軍事施設や石油精製施設を攻撃し、黒海艦隊を追いやりました。
ロシアはすでに代償を支払っています。しかし、それは十分ではないのです。
ゼレンスキー大統領は、プーチン大統領が交渉に応じ妥協するようになるには、ウクライナ軍がもっと戦場で前進し、ロシア軍を追い込まなければならないと信じています。
そして、ウクライナには安全の保証も必要です。 アメリカとイギリス、ロシアは1994年、ウクライナが核兵器を放棄する見返りとして、安全を保証しました。
しかし、それは2014年と2022年のロシアの侵攻を止めることはできませんでした。好戦的なロシアからウクライナを守るには、西側からの確固たる保証が必要なのです。
国際部デスク
渡辺 公介
2002年入局 ヨーロッパ総局 モスクワ支局
ワシントン支局などを経て現所属
渡辺 公介
2002年入局 ヨーロッパ総局 モスクワ支局
ワシントン支局などを経て現所属