今年のノーベル生理学・医学賞は、生物の中でつくられて遺伝子の働きを調節する微小な分子「マイクロRNA」を協力して発見した米国の研究者2人に授与されます。マイクロRNAは、非常に小さく、当初は重要でないとみられましたが、ヒトを含む多細胞生物の成長や発達に深く関わり「あらゆる生命現象の陰の支配者」と呼ぶ専門家もいます。発見から30年が過ぎ、マイクロRNAを医薬品にするための研究開発も進んでいます。 (増井のぞみ)
生物は個体が同じなら、どの細胞も同一のDNAを持ちます。DNAは、体をつくる重要な部品であるタンパク質の設計図を遺伝情報として有しています。細胞の中では、DNAに「転写因子」と呼ばれるタンパク質が結合して、DNAから一部の遺伝情報が「メッセンジャーRNA(mRNA)」という物質にコピーされます。続いて、mRNAの情報をもとにアミノ酸がつながれてタンパク質がつくられ、筋肉や神経などさまざまな役割を持つ細胞に変わっていきます。
この生物学の根本となる遺伝情報の流れそのものを調節しているのが、マイクロRNAです。今回ノーベル賞を受けるのは、米マサチューセッツ大のビクター・アンブロス教授(70)と米ハーバード大のゲイリー・ラブカン教授(72)。2人は1993年、体長約1ミリの線虫でDNAからつくられたマイクロRNAがmRNAに結合し、タンパク質の合成を抑えて遺伝子の働きを調節すると米科学誌セルに発表しました。
◇調光器
東京大の泊幸秀教授(RNA生物学)は「マイクロRNAよりも転写因子の働きの方がおおまかな調節。照明なら、オン・オフを切り替えるスイッチが転写因子、緻密に明るさを変える調光器がマイクロRNA」と解説します。
当初はマイクロRNAは線虫だけにあると考えられました。しかし、ラブカン氏は2000年、ヒトやネズミなどのさまざまな多細胞生物にも存在し、進化の過程で5億年以上前に獲得したと考えられると英科学誌ネイチャーで発表しました。ヒトのDNAのうちタンパク質の設計図は2%で、残り98%にはマイクロRNAなどの設計図が含まれます。
泊氏は「ヒトの全遺伝子の3分の1から半分がマイクロRNAの制御を受けているとの試算もある。マイクロRNAは、遺伝子の働きを制御して、生命に不可欠なタンパク質をつくる量やタイミングを調節する。あらゆる生命現象の陰の支配者、調整役」と強調します。
埼玉大の高橋朋子准教授(核酸科学)は「ヒトでは、生物で最も多い約2千種のマイクロRNAが見つかっている。多様なマイクロRNAは、遺伝子の働きを精密に制御して、細胞の個性を発揮できる高等動物である証拠」とみています。
◇好奇心
アンブロス氏とラブカン氏は博士研究員の時に、線虫の遺伝子を研究する米...
残り 1151/2301 文字
この記事は会員限定です。
- 有料会員に登録すると
- 会員向け記事が読み放題
- 記事にコメントが書ける
- 紙面ビューアーが読める(プレミアム会員)
※宅配(紙)をご購読されている方は、お得な宅配プレミアムプラン(紙の購読料+300円)がオススメです。
カテゴリーをフォローする
おすすめ情報
コメントを書く
有料デジタル会員に登録してコメントを書く。(既に会員の方)ログインする。