<連載 みんなが主人公 ~まちを変える>④
東京23区で唯一の自然渓谷・等々力(とどろき)渓谷(東京都世田谷区)のすぐそばにある国家公務員宿舎跡地。渓谷と玉川野毛町(たまがわのげまち)公園の間に位置する、この約3ヘクタールの土地を国から買い取った区が「行政の常識」を飛び越えた公園づくりを進めている。基本計画・設計の策定に近隣住民が深く関与し、その思いが色濃く反映されているのだ。
区の集計では2018年6月以降、延べ1万5316人の住民が計173日間にわたって、跡地を散策したり対話を重ねたりして、公園の未来を描いた。
その一人、水野可奈子さん(53)は当初、静穏な暮らしが侵されないかと抵抗感を抱いていた。
◆プレーヤーになると、不安も消えていった
「多くの人は遠くから遊びに来るだけかもしれないけど、私は隣に住んでいるので心配」。水野さんは2019年9月、公園づくりを巡る区主催のシンポジウムに「クレームを言う気満々」で乗り込み、騒音などへの不安を訴えた。
区にはフットサル場や大型レストラン建設の要望も寄せられた。でも、区が設けたさまざまな対話の機会や現地見学会などで、水野さんら住民が話し合いを重ねるうち、「大きな建物を造るのではなく、原っぱで寝転がりたい」といった意見に収れんされていった。
それはなぜか。公園に生まれ変わる国家公務員宿舎跡地には、イチョウやケヤキなど多くの木が茂っている。豊かな緑に触れ、このまま残したいというのが共通した願いだと、みんなが気付いたから。
水野さんも「そのころから私の脳もクレーマーから、『どうせ公園ができるなら良い場所にしよう』というプレーヤーに変化していった気がする」。公園づくりに主体的に関わることで、不安も消えていった。
「つくりこみすぎない公園」というコンセプトが固まり、建造物を最小限に抑えた公園の基本計画・設計も決まった。あとは24年3月の一部開園を目指し、区が整備を進めるだけ—とはならない。今後も公園づくりや運営に多くの住民グループが関与する。ここが他の公園整備と大きく異なる。
例えば水野さんのグループは、家庭の生ごみを各自が自宅で堆肥化し、公...
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