今年のノーベル賞の授賞式が10日に開かれます。ちょうど50年前、ストックホルムでノーベル物理学賞を受けたのが江崎玲於奈さん(98)です。受賞から半世紀。インターネットが普及し、人工知能(AI)や量子コンピューターの開発が進むなど科学技術は大きな発展を遂げました。本紙のインタビューに応じた江崎さんは、AI技術がさらに進展していく将来に向け、人間の創造力を育むことがより一層重要になると訴えます。 (榊原智康)
江崎さんのノーベル賞は、自然科学分野では湯川秀樹博士(1949年)、朝永振一郎博士(65年)に次いで日本人として3人目となる受賞でした。評価対象となった業績は、電子や陽子といった非常に小さな粒子は障壁を越えて移動できるという「トンネル効果」を半導体で発見したことです。
大学ではなく、民間企業で研究に取り組んだことが江崎さんの特徴です。トンネル効果を発見したのは57年で、東京通信工業(現ソニーグループ)在籍時の成果です。その後60年に渡米し、IBMで研究を続けました。江崎さんは「私の人生に大きな影響を及ぼした。米国では在籍している機関以外から研究費を獲得することが重要。(受賞によって)研究費が得やすくなり、やりたい研究がやりやすくなった」と受賞を振り返ります。
◆日本の研究力
これまでにノーベル賞を受賞した日本人は、米国籍を取得した人も含めて28人います。2000年以降でみると、自然科学系3賞(生理学・医学、物理、化学)の日本人受賞者は20人で米国に次いで2番目の多さになっています。ただ、評価対象になる成果を挙げた年から実際に受賞するまでには20~30年ほどかかるとされます。
「現在、ノーベル賞が受賞できそうな日本人研究者が少なくなってきているように思う」と江崎さんはみます。実際、文部科学省が公表した最新ランキングによると、引用回数が上位10%に入る注目論文の数で、日本は13位にまで後退しています。90年代までは世界トップのシェアを誇っていた日本の半導体産業が衰退したことも「研究力が弱くなった証拠だ」と語ります。
「科学技術立国」を掲げる日本は今、研究力の低下が懸念されています。「人類の文明の基本を形作る科学技術への投資は、絶対に必要だ」と江崎さんは力説します。57年に旧ソ連が人工衛星スプートニクの打ち上げに成功したことを受け、「スプートニク・ショック」との言葉が生まれた米国では、研究力を高めるため、積極的に海外から人材を呼び込んだと説明。「研究は、いろいろ(考え方などが)違った人たちが交流することで触発される」とし、日本も研究の国際化を進めることが必要だと指摘します。
◆科学技術の進歩
江崎さんは、人間の知的能力は「分別力」と...
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