国立科学博物館(科博)が7日、インターネットを通じて寄付を募るクラウドファンディング(CF)を始めた。光熱費の高騰で標本や資料を保存する資金に窮しているためだという。短時間で目標額の1億円を突破。既に5億円超が集まり、金額的には成功といえる。しかし、CFがコケていたらどうなったのだろう。学術研究に対する国の支援の在り方に問題はないのか。(木原育子、安藤恭子)
◆#地球の宝を守れ と呼びかけ
10日、東京・上野公園(台東区)内にある国立科学博物館を見に来た。入り口でデゴイチの愛称で人気の「D51」型の蒸気機関車(SL)が出迎えてくれた。
2つの施設のうち「日本館」は国の重要文化財に指定されている。昭和初期に造られたネオルネサンス様式の建物が、近代建築の歩みを感じさせる。中をのぞくと夏休み中だからか、親子連れでごった返していた。
そんな科博のCF。来場者はどう思っているのか。辺りで聞いた。
小3の長女(9つ)と年長の男児(6つ)とともに訪れた東京都八王子市の鷹見裕子さん(36)は「大賛成! ぜひ続けてほしい」と身を乗り出した。「子どもたちが恐竜の模型が大好きでよく来るが、こんなに充実した施設はない。子どもたちのためにもぜひ」と続けた。
科博は、地球の成り立ちや自然に関する動植物の標本や恐竜の化石、鉱物の資料など500万点以上を保管する国立で唯一の総合科学博物館だ。保管には厳格な温度や湿度の管理が必要だが、光熱費が高騰。コロナ禍に伴う来館者の減少も重なり、資金繰りが苦しくなったとして、7日、CFを開始した。知名度の高さもあってか、約9時間で目標額の1億円を突破した。
同日の会見で、科博の篠田謙一館長は「標本は未来の日本人全体の宝。こんなにも早く達成できたことに驚くとともに感謝している」と喜んだ。支援額は伸び続け、10日夕現在、5億5000万円が集まっている。
◆「国は国民に甘えてる」本来なら税金では
しかし、金融機関をリタイアしたばかりという男性(60)は首をひねる。「資金が集まってよかったが、本来は国が税金を使ってやること。国は国民に甘えてる」と訴えた。「そもそも博物館は日本人全員の財産だが、入場料も高めで皆に等しく開かれているといえるのか」とヒートアップ。夫と一緒に来た博物館好きの女性(37)も「これで国が味を占めないといいのですが…」と冷ややかだった。
科博周辺には外国人観光客の姿も多かったが、海外ではどうか。観光旅行中のフランス人のダフネさん(30)は「フランスでも博物館の資金が足りず、寄付を募ることはある。どこも同じね」と口角を上げた。同じく観光中の米国人のダニエルさん(47)は「父親が軍人で全博物館の入場料は生涯無料だった。満足度に応じて観覧者が入場料の額を決められる美術館もあった。運営の在り方は国によってそれぞれだ」と続けた。
◆「英国の博物館はほとんど入場無料」ここは有料
一方、イギリスから都内の大学に留学中のエスメさん(24)は「ナンセンス!」と肩をすくめた。「英国の博物館はほとんど入場無料。資金をなぜ国民が出すのか信じられない。国の責任だ」ときっぱり話した。
国内では最近、科博以外の博物館でもCFが導入されている。例えば国立歴史民俗博物館(千葉県)の「正倉院文書」複製制作プロジェクト。奈良国立博物館の庭園内茶室「八窓庵 」の保存活動でも実施された。
永岡桂子文部科学相は8日の会見で、科博のCFが目標額を達成したことについて、「文科省も鋭意予算措置を行っている」としつつ「博物館による自主的な予算獲得の努力だ」と評価。CFが博物館運営の一端になることを期待した。
◆クラウドファンディングに関係者「異例で衝撃」
「過去の知見を集め、人々の好奇心を刺激し、未来につなげる結節点となるのが博物館。...
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