先月中旬、日本では東京新聞などに、米国ではニューヨーク・タイムズ紙に、ウクライナ戦争の停戦交渉を提唱する大型の意見広告が出された。別々のグループによる呼び掛けだが、共通するのは欧米からの大量の兵器投入による戦闘の激化が世界大戦や核使用につながりかねないという危機感だ。日本での意見広告を取りまとめた和田春樹・東大名誉教授と伊勢崎賢治・東京外大名誉教授に提唱の真意を聞いた。(稲熊均)
◆「戦争をあおるのではなく、停戦のテーブルを」
意見広告は本紙掲載(先月13日)が先進7カ国(G7)首脳らに、ニューヨーク・タイムズ掲載(同16日)がバイデン大統領らに呼びかけた声明となっている。
日本の発起人は和田、伊勢崎両氏を含め社会学者の上野千鶴子さん、政治学者の姜尚中さん、作家高村薫さんら32人の有識者。米国はジャック・マトロック元駐ソ連大使、デニス・ライヒ退役陸軍少将といった外交官や軍の元高官ら14人が名を連ねる。
それぞれの趣旨は—。
【東京新聞での意見広告】
「今やウクライナ戦争は北大西洋条約機構(NATO)諸国が供与した兵器が戦争の趨勢 を左右するに至り、代理戦争の様相を呈している。おびただしい数の犠牲者を出している戦争が続けば、影響は別の地域にも拡大。核兵器使用の恐れもある。広島でのG7サミットに参加する首脳に求めます。武器を供与し戦争をあおるのではなく、ロシアとウクライナの停戦のテーブルを作ってください」
【NYタイムズでの意見広告】
「戦争の直接の原因はロシアの侵略にある。それでもNATO拡大が(ウクライナの加盟で)ロシア国境にまで及ぶ計画が現実味を帯びてきたことで、ロシアに恐怖を抱かせたことは否定できない。ロシアの指導者は30年間、危惧を発し続けてきた。米国内でもNATO拡大の(ロシアの軍事行動を招く)危険性に警告を発する声もあったが、後戻りできなかった。背景には兵器の売買によって得られる利益もあった」
「(ウクライナ戦争での)衝撃的な暴力の解決策は、兵器の増強や戦争の継続ではない。軍事的な激化は制御不能になりかねない。人類を危機にさらす前に、戦争を迅速に終わらせるための外交に全力を挙げることをバイデン大統領と議会に求めます」
◆長引く戦闘で広がってきた危機感
2本の意見広告が掲載されて約20日たつが、停戦交渉どころか、戦闘はむしろ激化している。広島サミットでも、ウクライナへの軍事支援とロシアへの経済制裁の強化に重点が置かれた。それでも和田、伊勢崎両氏とも、米国でこのような意見広告が出たことに国際社会の停戦機運の大きな変化を感じている。
「昨年5月にも私たちは停戦交渉の開始を国連事務総長に求める書簡を送っている。当時、欧米の有識者にも呼びかけたが、ほとんど応じてもらえなかった。ロシアの非道を許さずウクライナの正義のために軍事支援するというのが民主国家の『正論』で、停戦の呼び掛けはそれに背くものとして受け入れ難かったようだ。今は『正論』にのみ固執することへの危機感も広がっている」(伊勢崎氏)
「昨年5月にも私たちは停戦交渉の開始を国連事務総長に求める書簡を送っている。当時、欧米の有識者にも呼びかけたが、ほとんど応じてもらえなかった。ロシアの非道を許さずウクライナの正義のために軍事支援するというのが民主国家の『正論』で、停戦の呼び掛けはそれに背くものとして受け入れ難かったようだ。今は『正論』にのみ固執することへの危機感も広がっている」(伊勢崎氏)
「NYタイムズでの声明は元軍人や外交官ら安全保障の専門家の訴えという意味も大きい。この戦争の継続が人類にとって危険という警鐘は多くの市民にも響いている」(和田氏)
◆代理戦争から直接戦争へ 戦術核使用の危機
現在の戦況は、ウクライナの反転攻勢が間もなく始まると見込まれている。その関連かは不明だが、ウクライナとの国境に近いロシア西部のベルゴロド州で「反プーチン武装勢力」を名乗るグループが破壊活動を散発させている。
伊勢崎氏は「ドローンによるロシア国内での攻撃も多発している。クレムリンへの攻撃もあった。N...
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