「カラスの刺し身を食べに来ませんか?」。取材で知り合った男性から誘われ、のけ反った。県内の一部地域に伝わる食文化とのことだが、水戸支局在勤四年目にして初めて聞いた。ジビエ(野生鳥獣肉)料理は嫌いでないし、実はカラスも焼き鳥ならぬ「焼き烏(からす)」なら試したことはあるのだが、生食となると話は別。悩んだ末、「やめた方がいいんじゃないか…」と心配する上司をよそに、好奇心が勝って行ってみることにした。さて、お味の方は−。(宮尾幹成)
カラス料理愛好家の集いに交ぜてもらったのは二月中ごろ。今季の県内の狩猟期間(昨年十一月十五日〜二月十五日)が終わるギリギリのタイミングだ。
こちらが新聞記者なので、男性は「ゲテモノを食べていると眉をひそめる人もいるので、あまり詳しく書かれてしまうと…」と心配している。具体的な場所や参加者の個人名を伏せるのを条件に、記事にすることを認めてもらった。「ひたちなか市の某所」とだけ記しておく。
ひたちなかは、隣の那珂市や東海村と合わせて国内シェアの九割を誇る干しいもの産地。男性いわく、この辺りのカラスは捨てられたサツマイモの皮をエサにしており、その肉は「スイートポテトのような味」なのだとか。半信半疑のまま、男性が運転する車で会場のお宅へ向かう。
道中、昨年亡くなった石原慎太郎さんを思い出した。東京都知事時代に都内のカラス撲滅に取り組み、「カラスのミートパイを東京名物に」と宣言していたが、あれはかけ声倒れに終わったのだろうか。
◆ビールに合う
大きないろりのある部屋に到着。カラスの剥製が飾ってある。十数人で車座に着席した。男性は「カラスを食べると声が良くなる。マリア・カラスのように」などと軽口をたたいている。この家のご主人が食前にふるまってくれたマツブサという薬草のお茶が、滋味たっぷりでうまい。
この日、カラス狩猟歴四十年というご主人が用意してくれたのは、ハシブトガラスとハシボソガラスの二種類、計十三羽。まずは串に刺したモモ肉を、いろりの灰に立てていく。
焼き上がりを待つ間に、ムネ肉の刺し身(しょうゆ漬け)が出てきた。一羽で数十グラムしか取れない希少部位。レバーを思わせる、かなり濃い赤身...
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