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日本人の性質を活かした究極のブレストとは?

認知バイアスを破壊すれば新しいアイデアが出てくる

[濱口秀司]Ziba戦略ディレクター

ビジネスの現場でどうすればイノベーションを生み出せるのか。もっとも手軽な方法はブレインストーミング(以下、ブレスト)によるアイデア出しです。「あ、それなら普段からやっているよ」と言う人もいるでしょうが、ブレストにはいくつかのレベルがあると考えています。

「思いついたことを口にする」「とにかく数をひねり出す」「絶対に否定してはいけない」「筋道立てて整理しない」などのシンプルなルールのもとで、アイデアがアイデアを刺激して、通常の議論では出てこないような発想を導き出すのが、いわゆるブレスト。

一番スタンダードなブレストの手法を確認しましょう。まず、小規模な会議室にメンバーを数人集めます。ここでは7人が集まった例を紹介します。部屋には7人のほかに、1人のファシリテーターがいて進行役となります。

スタンダードなブレストに潜む落とし穴

最初にすることは、1時間で100個のアイデアを出すこと。メンバーは全員、付箋にアイデアを書いていきます。書いたアイデアをどんどん壁に貼っていって、100個アイデアが集まったら、次に投票。「どのアイデアが一番面白い?」という観点から、再び付箋を1人に3枚ずつ渡して、100個のアイデアの上に貼っていきます。3枚×7人=21枚の票があり、その集まり方によって優秀なアイデアが決まります。

そうやって7人に支持されたアイデアを使って、さらに大きめのアイデアを作ったり、もしくは、組み合わせて別のアイデアを探ります。ブレストを行うモチベーションは「一番面白いアイデアを出す」こと。このスタンダードなブレストは、私の定義からいえばレベル1にあたります。

今、このレベル1のブレストをシミュレーションしたとき、大きな矛盾があったことにお気づきでしょうか。それは「100個のアイデアを出したなかに、真にイノベーションを感じさせるものがあったならば、投票など必要なかったのではないか」という疑問です。

「なぜ自分は面白いと感じたか」を捉え直してみる

もし、素晴らしいアイデアが出ていたならば、それを見た瞬間に、7人とも目が離せなくなり、賛否両論で盛り上がり、「今からプロトタイプを作ろうぜ」と走り出すはず。なぜ、7人がおとなしく投票していたかというと、「どうも全部、面白くないけれど、仕事として決めないとダメだから、まずは成果を出そう」と考えていたからです。つまり、今、シミュレーションしたレベル1のブレストでは、イノベーションは見つからないままに、予定時間が終了してしまうのです。

それならばどうすればよかったのでしょうか。100個のアイデアを出して、再び付箋を1人に3枚ずつ配るところまでは同じです。この時点で、みんなの背筋が凍るような、エッジの効いたアイデアが出ていないことがわかっています。

ファシリテーターは、「それでは100個のアイデアの中から、すごいと思うアイデアを3つ選んでください」と言います。これもレベル1のブレストと同じ。違うのはここからです。「なぜそれが面白いと思ったのか、理由も書いてください」。

Ziba(ジバ)の強さは、48職種・18カ国、110人の多様性に富んだ社員が生み出すイノベーティブなソリューションだ。3MやJhonson&Jhonson、General Electricなどの企業を顧客に持ち、アメリカを代表するデザインコンサルティング会社として知られている。
http://www.ziba.com

→WORKSIGHTの記事はこちらから

新しい「切り口」は
捉え直しの過程から生まれる

これには具体的なルールがあります。何らかの軸を使って説明してもらう、ということ。例えば、「従来は男性用に販売しているものを、女性用に切り替えたから、面白い」とか、「従来は5つぐらいのパーツでできているのに、これは1個で済ませるから、面白い」とか、どんな切り口でもいいのですが、とにかく軸を明確にすること。

この「アイデアそのもの」ではなく、軸に変換して説明することがすごく重要なのです。それを踏まえて、メンバーは3枚の付箋を、理由のコメントを付けて、発表していきます。

ここで行っているのは、具体的なアイデアへの投票ではなく、抽象概念としての「切り口」の見える化です。100個のアイデアを出した時点で、ピピッと来るものはなかったけれど、そこですべて捨てるのはもったいない。そこからメンバーが発見した何かのエッセンス(=考えるヒント)を引きずり出そうという取り組みです。その結果、3×7=21個の切り口が抽出できます。

例えば「対象の性別を変える」とか「構成パーツの数を変える」といったものが見つかる。今度は、それをいろいろなものに当てはめてみればいいのです。例えば、日傘をイノベーションしたいならば、「対象の性別を変える」の切り口を使うと、「男性用の日傘」というアイデアが出てくるでしょう。「アイデアそれ自体に固執せず、そこから抽出した切り口ベースで考える」。これがレベル2のブレストです。

縦軸と横軸で構造化したうえで、認知バイアスを転換させる

これだけでもイノベーションを生み出す確率はずいぶん上がりますが、まだ足りません。目指すレベル3では、この切り口を組み合わせて、構造化するところまで持っていきます。

例えば、「対象の性別を変える」という切り口からは「男性⇔女性」の軸がとれます。そして「構成パーツの数を変える」という切り口からは「ゼロ⇔無限」の軸がとれます。これを縦軸、横軸として構造化したうえで、マッピングしてみると、私たちがその商品に対して持っている認知バイアスが見える化されます。日傘でいえば、「女性を対象」かつ「多くのパーツから構成」という思い込みがわかります。

レベル3のブレストでもっとも重要なのは、構造化したうえで、まったく別の位置にマッピングすることで、認知バイアスを超える、という点です。

もし、この「対象ユーザー」と「製品構成」を切り口に、プロダクトプランナーがアイデアを考える傾向があるとすると、女性向け日傘・女性向けシンプル日傘・男性向け日傘・男性向けシンプル日傘という具合に発想が拡散します。そして「男性を対象」と「より少ない部品から構成」という方向でユニークな日傘のコンセプトが組まれ始めます。

仮に、これが殆どのプランナーの思考バイアスであったとしたらどうでしょう。このアイデアに到達する確率は極めて高くなります。すべての方向が埋まっているようですが、この構造を見たときに新しいゾーンが見えます。実は誰もポイントしないこの構造の真ん中(軸の交点)にユニークな答えがあるかもしれません。

男女兼用で少しシンプル……女性用なのだが、男性一緒にも使えるシンプルな日傘。例えば、二段階に開く日傘で、普段は小さく広げて使い、彼氏と一緒に暑い日差しの下歩くときは広く広げて彼氏に持ってもらう。でも構成は少しシンプルに軽く……このようにして新しい日傘のヒントを探ります。

もちろん対象者や構造以外の切り口を探してきてもかまいません。とにかく、バイアス構造を見つけて壊すことを目指すことが大切なのです。

つまり、ブレストは、レベル1のプロセスでは右脳的なインスピレーションでアイデアを掘り出していますが、それでいいアイデアが出てこなかったときは、左脳的なアプローチに切り替えます。具体的にはレベル2、レベル3と進んでいくなかで、アイデアからエッセンスをロジカルに切り取り、その可能性を構造的に探る。

そして、それでもダメなときは、再び右脳的なアプローチに戻り、レベル3の最終形として、認知バイアスを超えたアイデアの破壊を模索する。この一連のプロセスそのものが、ブレストの本当のあり方です。

レベル2~3のブレストが
最も得意な国民とは?

ところで、私はこのブレストについて、アメリカ人とやると「どうもやりにくい」と感じていました。一般には、アメリカ人はブレストが得意だと言われていますが、それはレベル1のやり方に限った話で、レベル2、レベル3と進もうとすると、すごくもたつくのです。

その理由が最近わかりました。たぶん、深いところに宗教概念があるのです。アメリカ人の多くは一神教を信仰しています。唯一神を信じているからこそ、例えばアイデアを100個出したあと、そこからパッと1つを選んで、「これが最高の答えです」と言える。つまり、一つに絞り込む投票が簡単にできるのです。

誤解を恐れずにいえば、何かを選ぶということは神様の御加護だと考えているし、投票は正義だと信じている。カルロス・ゴーン氏が系列企業をバシッと切れたのは、彼が一神教を信じてるからだと思うのです。

日本人は最もイノベーション思考に恵まれた国民

しかし、100個から1つを選ぶことを多くの日本人は良しとしない。八百万の神という信仰にみられるように、どれにも理があると考えるから、100個のアイデアからどれかを選べと言われても、「そうは言っても、これもいいし、あっちも捨てがたい」と躊躇する。こういう外国人とはまったく別のメンタリティーがあるから、決められない。全部持っておきたい、しかも包括的に所有しておきたいと欲するのです。

これは、外国人からすると、「日本人は物事を決めれない国民だ」となりますが、「イノベーションを起こす」という観点からみると、この日本人の気質は強い。日本人はレベル1のブレストではもたつきますが、そのあと、レベル2、レベル3と進んでいくときに、その力を遺憾なく発揮します。

これは、私自身、日本の大企業でのビジネス、グローバルなデザインコンサル会社でのビジネスを広く経験したなかで、本当に実感していることです。日本人はイノベーションにつながるブレスト(=チャレンジ)にとことん向き合える素質がある。そして、認知バイアスを超えるアイデア出しができる。だからこそ、私はもっと日本人が本質的なブレストを上手に活用して、世界があっと驚くアイデアを出せる瞬間を待ち望んでいるのです。

2012年4月に行われた「TEDxPortland」の様子。「Break the bias (バイアスを壊す)」というテーマでスピーチを行った。
https://www.youtube.com/watch?v=6g2pMOYmyoQ

2012年8月24日、WORKSIGHT LAB.のキックオフセッションで行われた濱口さんの講演の様子。
「認知バイアスの崩し方」や「日本人がイノベーションに向いている理由」などを中心に語っていただいた。
→WORKSIGHT LAB.についてはこちらから

WEB限定コンテンツ
(2012.7.27 渋谷ヒカリエ8階にて取材/取材協力: Creative Lounge MOV)

 

濱口秀司(はまぐち・ひでし)

大阪府生まれ。京都大学卒業後、松下電工に入社。研究開発や戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年に米国のデザインコンサルティング会社Zibaに参画。USBフラッシュメモリなど様々なコンセプト作りをリード。パナソニック電工米国研究所の上席副社長や、米国のベンチャー企業LUNARR社COOなどを歴任。2009年Zibaにリジョインし、現職。ドイツRedDotデザイン賞審査員。

 

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