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コラム

    • グサッとくる連載

    • 2013年01月15日2013:01:15:09:45:35
      • 楢原多計志
        • 福祉ジャーナリスト

 

 日ごろ、あまり医者が書いた文章を真剣に読むことがない。マスコミ批判は結構(同感することが多い)だが、“上から目線”の行政・患者批判が目立ち、筆者に自戒の念が薄く、陳腐、噴飯な内容が多すぎるからだ。テレビ番組に常連のように出演する医者の著書に多いのは、どういうわけか。
 
 

■3分の1が滞納世帯

 
 毎週、一気読みしている連載がある。『週刊新潮』の連載コラム「がん練習帳」だ。筆者は中川恵一・東大病院放射線科准教授。面識はないが、医療ガイド本の執筆のほか、講演活動にも熱心な人だと聞く。当初、「ひまな医者のバイト原稿か…」と高をくくって読み飛ばしていたが、時折、グサッとくるものがあり、何回も読み直すことがある。
 
 ことし1月3日、10日合併号(第181回)のテーマは「国保加入者の“貧困”」。勝手に要約すると、(1) 国保(市町村国保)加入者の所得が大幅に低下している。(2) にもかかわらず、国保加入者には高齢者ら低所得者が多く、健保組合や共済組合と比べ、より大きな負担を求める構図になっている。(3) 2025年には国保世帯の3分の1が保険料滞納世帯になりかねない━。
 
 厚生労働省などが公表しているデータを使って書かれており、データとしての目新しさはない。厚生労働省記者クラブに配置されている記者なら、この手の配布資料を基に(関連取材を加えて?)一度は記事にしているはずだが、こんなに読みやすく、ポイントを抑えた文章を私は読んだ記憶がない。
 
 

■権益擁護の言いがかり

 
 私も、横浜市国保の加入者だ。健保組合のある会社を60歳定年したあと、加入した。驚いたのは、保険料の高いことだ。組合健保では事業主負担(50%余)があったからだから、当然だといえば、当然だが…。
 
 高い、安いは、根本的には相対的な感覚だろう。しかし、医療費は高齢になるにつれてかさんでくる。私も持病を抱えており、現役の時より数倍の医療費を窓口負担している。 
 
 一方、定年後、収入はガクッと下がった。これも当たり前だが…。それでも保険料ブラス窓口負担の“重み”は現役時の比ではない。生計の柱は公的年金のはずだったが、「贅沢していないのに、毎月、預貯金が減っている」と妻が嘆く。私は「貧しくて死んでも、死ねば救われる」と言葉を返すことにしている。
 
 昨年暮れ、高額療養費のことで区役所の窓口を訪ねた。隣のテーブルでは八十代と思われる女性が滞納と給付制限の説明を受けていた。女性の声が小さく、ほとんど聞こえなかったが、途中、女性が「いくら払えば、6か月の保険証がもらえますか」と聞いていたことは理解できた。
 
 中川氏は、「健保組合や共済組合では保険料負担率は所得の5%にも達しない」「一人当たりの医療費も、健保組合では年間13万円程度、国保加入者は29万円にも上る」「いったん保険証を失った人が医療機関にかかることは非常に難しく、受診率は保険証を持つ人の2%以下になる」と書いた。
 
 医療費を含む社会保障費の伸び率を抑えることは、現状では、やむを得ないことかもしれない。しかし、皆保険、皆年金を維持するには、相応の所得再配分が必要。現行制度てば不十分だ。できれは、公的医療保険は、職域に関係なく、所得に応じて国民が保険料を支払う国民統一保険が望ましい。
 
 持論で恐縮だが、当面、健保組合、共済組合、国保組合などを協会けんぽに吸収し、市町村国保と二本立てにする。そして統一保険へとつなぐべきだろう。「国保では保険者機能が発揮できない」との主張は、権益擁護のための言いがかりとしか聞こえず、見苦しい。
 
 
 
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楢原多計志(共同通信社 客員論説委員)

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