あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
さてこの季節、特にフィギュアスケートをテレビ観戦していると、気になることがある。外国語の日本語表記の件だ。
フィギュアスケートのジャンプは6種類。難度の高い順にAxel、Lutz、Flip、Loop、Salchow、Toe-Loop。これを新聞の表記基準に沿ったカタカナにすると、アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコー、トーループとなる。
最後の2つについて引っかかる方がおられるかもしれない。テレビや雑誌などでは「サルコウ」「トウループ」「トゥループ」といった表記を使うところもあり、そちらを見慣れている方も多いかもしれない。
「トーループ」は「つま先で蹴るループジャンプ」といったほどの意味合い。表記の違いは「つま先(toe)」をカタカナでどう書くかだ。
英語の発音記号は「tóu(米)」、「təʊ(英)」で、いずれも「トを強く発声し、その口のまま軽くウを続ける」という感じ。実際に発音するとわかるが、これは「ト」の子音部分を伸ばすのと大きく変わらない。また英米ともt音の後に「nose(鼻)」の「o音」という説明(ケンブリッジ辞書)なので、一般に鼻を「ノーズ」と表記する日本語では「トウ」でも「トー」でも、ほぼ適切な表記といえるだろう。
以前もご紹介したが、共同通信の配信を受ける新聞社は表記統一のため原則的に共同の基準に合わせる。外来語や外国人名では時事通信も共同に合わせることが多く、新聞ではおおむね同じカタカナ表記が使用される。
共同の表記基準では、「エイ」「オウ」といった二重母音には原則「ー(長音符号)」を使う。英語の「way=道」は「ウエー」、「make=作る」は「メーク」。だから1995年の長嶋巨人に端を発する「メークミラクル」は「メイク」とは表記されない。「Salchow」も「サルコー」となる。
外国語のカタカナ表記に基準がないと、モノによって表記がバラバラになる不都合が生じることはお分かりいただけるだろう。一方で基準に合わないカタカナ表記が一般的になると、読者から「間違っている」などといわれることもある。例えば表記基準に従えば湖は「レーク」。そのため八村塁が所属するNBAの「Lakers」は「レーカーズ」となる。
基準に合わない表記が日本語として一般的になると、そちらに合わせることもある。主要を意味する「main」は以前は「メーン」だったが、世間に合わせて数年前に「メイン」になった。一方、バレーボールやテニスの「Deuce」は今でも「ジュース」だ。
メイド喫茶がはやり始めた頃、記事を書こうとしたら「メード喫茶」とせざるを得ず、著しく興をそがれた。基準は変わっていないが、今なら特例的に「メイド喫茶」で許容されるのかと思う。
インディ500の開催地は基準通り「インディアナポリス・モータースピードウエー」だが、静岡県の富士スピードウェイは「ウェイ」。これで会社登記されている固有名詞だからだ。NBAやチームが日本法人を作って「レイカーズ」で登記してくれれば、そう表記できるようになるかも?
さて、「toe」は発音から「トウ」でも「トー」でも適切だが、新聞表記基準の上で後者だという話だった。では「トゥ(ウが小さい)」は?
残念ながらこれは使用者が、カタカナの表す発音を誤解しているとしか考えられない。「トゥ」は「トに、弱い発音のウを続ける」という表記ではない。日本語の読みを英語で説明するのも変だが、英語の「too」や「two」のような音の表記で、「toe」とはまったく発音が違う。
この誤表記は国内のゴルフ界でも一般的みたいだ。クラブヘッドの先端を「toe」と呼ぶが、ネットで検索しても日本語は「トウ」か「トゥ」ばかりだ。以前、弊紙の記事で記者が「トゥ」と書いてきたのを「いくら何でも表記が発音と異なる」と指摘したら、ゴルフ担当デスクは「トー」には抵抗があるからと「トウ」に直していた。
「トゥ」表記を使う件のフィギュア中継では、解説者が「トーループ」と発音していたのをはじめ、「トゥループ」と文字の通りに発音している人はいなかった。それはそれで文字の重要性が軽んじられているようで残念だ。(只木信昭)