社説:与党税制改正大綱 財源の議論が不十分だ
自民、公明両党は2025年度の与党税制改正大綱を決定した。パートやアルバイトで働く人に所得税が生じる「年収103万円の壁」について、非課税枠を123万円まで引き上げて手取りを増やすことを盛り込んだ。25年分所得から適用する。
年収の壁の見直しを巡り、自公と協議している国民民主党は178万円への引き上げを求め、123万円に強く反発している。非課税枠が引き上げられれば税収が減ることになり、地方自治体の懸念は大きい。
減収分の財源をどうするのかという重要な議論が不十分と言わざるを得ない。政府は野党との議論を深め、国民に詳細を示さなければならない。
与党税制改正大綱は、国税・地方税の税率や課税対象を見直し、今後の検討課題なども盛り込んだ文書。自公の税制調査会が省庁や業界団体からの要望を踏まえ決める。政府は与党の大綱に沿った税制大綱を閣議決定し、翌年の通常国会に関連法案を提出する。
10月の衆院選で自公が少数与党となり、予算や法の成立には野党の協力が欠かせない。自公は、衆院選で非課税枠を178万円に引き上げると訴えていた国民民主と協議を始めた。3党は「178万円を目指して、来年から引き上げる」と合意。これを受け国民民主は24年度補正予算案に賛成した経緯がある。
しかし段階的に引き上げる認識の自公は「大幅な引き上げは困難」として、123万円を大綱に記載した。国民民主が103万円に設定された1995年以降の最低賃金の上昇率から178万円を算出したのに対し、食料品や光熱費といった生活に欠かせない品目の物価動向を踏まえた額だという。
年収の壁を所得税、住民税それぞれ75万円引き上げると、国と地方の合計で年7兆~8兆円の減収という政府試算も示した。財政への影響を最小限に抑えたいという考えがにじむ。
大綱には3党の幹事長が合意した「178万円を目指す」との文言が盛り込まれ、3党は協議の継続を確認した。しかし自公と国民民主の間には認識の違いもあり、難航が予想される。
全国知事会長の村井嘉浩宮城県知事は、年収の壁で自治体の税収が減少する場合、国の恒久財源で補塡(ほてん)するよう石破茂首相に求めている。当然だろう。
今回の大綱には、3党で合意したガソリン暫定税率の廃止も記載された。この措置によって国と地方の税収が年間で計約1兆5千億円減るとされる。代わりとなる財源のめどは立っておらず、結論が先行した形だ。
このほかにも減税策を盛り込み、物価高の中で個人消費の下支えや企業の投資促進につなげる狙いがうかがえる。一方で国の借金である国債の残高は2024年度末に1100兆円を超える見通し。財政健全化に向け猶予はない。将来世代に対しても責任ある税制が求められる。