Appleは先日のスペシャルイベントでさまざまなものを発表しましたが、同社の新しい医療研究および健康のプラットフォーム(基盤)であるResearchKitについてはあまり知られていません。この取り組みは、実際に人々の生活をよりよいものにする見込みが非常に高いことは明らかです。実は、世界中ですでに利用されており、医師や患者が病気の兆候を見極め、健康を改善するのに役立っています。今回は、ReserchKitが実際にどのように健康管理を改善する可能性があるのかを詳しく説明します。
Apple Watchや新型のMacBookなどの新しい消費者向けガジェットの紹介が中心となった記者会見で、AppleのResearchKitは、異色の輝きを放っていました。このプラットフォームは、iOSデバイスを持っている全ての人に医療研究に参加し、病気の症状を追跡するのに役立ったり、かかりつけ医師と情報を共有したりするプログラムに加わる機会を提供することをねらいとしています。どのような新しい技術にもいえるように、一般に浸透するには時間がかかるでしょうが、いずれは(一部は既に開発中です)、本当に人々の役に立つ可能性があります。
自分で数量的なデータを測定し、専門家にデータを検討してもらう
「自己の定量化」とは、テクノロジーを使って日々の生活データを記録し、自己改善につなげることを言います。私たちの多くにとって、これは自分の足跡を追跡し、食事や運動の内容を記録し、睡眠さえも追跡するということを意味します。もちろん、これらの記録機器から得られた全てのデータが信頼できるものではありませんし、情報のどこを見ればいいか、また、得られた情報が全体的な健康状態にどう関わっているかがわからない場合は、情報の解釈がより難しくなります。
そこでResearchKitが役立ちます。医療機関や研究機関と自分のスマホを連携することによって、記録した情報、歩数、提供された情報を精査できる医師や研究者の元へ送られるのです。つまり、医師がこのようなツールを実用化することで、食事や移動、活動を記録する試験やツールが導入可能となり、なぜ1日に1万歩も歩いているにもかかわらずやせないのか、あるいは夜に8時間の睡眠をとっているのに日中に眠くなってしまうのか、という理由を患者が正確に理解する助けとなります。
要するに、好きなだけ自分の活動を追跡することができるのですが、私たちが全体像を完璧に把握し、見ている情報を理解する(異常値を識別し、データの傾向を見出す)のに十分な知識を持ち合わせていない限りは、無駄な努力になります。ResearchKitがその情報と、それを分析し、フィードバックを提供するのに最も適した人との橋渡しをできるようであれば、個人レベルの健康についての潜在的な用途は多大です。
すでにResearchKitに似た技術が利用されている分野
Appleのアプローチが興味深いのは、何百万もの人々が既に所有しているデバイスを、健康改善のためのツールに変換するという点です。とはいえ、すでに何年にもわたって多くの研究機関が、ResearchKitのような技術を試験や実験で使用しています。例えば、ウィスコンシン州マディソンにあるPropeller Healthというの会社は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者を救うために、何年もの間、病院や公共の健康機関と連携して、病気の症状を把握し、患者の動きを追跡し、発作を記録しており、薬の投与が必要な場合には、その全情報を担当の医師に送ります。
ケンタッキー州ルイビルの試験的なプログラムでは、喘息患者にGPSが搭載され、Bluetoothに接続された救急吸入器を渡し、いつも通りの生活をするように指示されています。吸入器を使うたびに、吸入器に搭載されているデバイスが患者の位置を記録し、スマートフォンにデータが送られます。さらにスマートフォンは、出来事、居場所、時間帯、その他発作の起きた時間、場所、継続時間などの有益な情報を記録します。
ある女性患者は、担当医師が吸入器とスマートフォンにより収集されたデータを見た途端に、昼食時間にオフィス近くの公園を歩くときに、半定期的に喘息の発作を起こしていることがわかりました。初めは、公園の中の何かにアレルギー反応を起こしているのだと思われましたが、より詳細な調査とテストにより、そうではないことが患者の記録からわかりました。彼女の家の近くにはないような珍しい植物や動物は公園には存在しなかったのです。彼女が発作を起こした場所、時間だけでなく同市の気象観測所から得た風向きや、気象データなどを相互参照していった結果、研究者らは、公園から数マイル風上の高台にある養鶏場が原因だと特定できました。患者の発作が報告された日には、その養鶏場の方から風が吹いており、発作の原因だと考えられるアレルゲンが運ばれてきていたのです。この情報を収集したリアルタイムの追跡プラットフォームのようなものがなければ、全てのピースをつなぎ合わせて原因を見つけることは難しかったでしょう。
ResearchKitが「健康のビッグデータ」を汎用的に実現する方法
AppleのResearchKitは、会社や自治体に、このような実験や公式なテストを行う共通のプラットフォームを提供します。イチからプラットフォームを作り直す必要はないのです。将来的には、より初期投資を抑えられ、開発に時間がかからないこのようなプログラムが、世界中に飛び出してくるかもしれません。とりわけ、市場に出回っている全てのiOSデバイスは、すでに研究者が組み込むことにしたツールと互換性があるので、担当医師があなたに腕につけるデバイスを渡す日が来るかもしれません。そして、ResearchKitアプリをダウンロードして、数ヶ月後に経過観察の予約をして戻ってくるようにというかもしれません。その頃には、医師はあなたの状態を診断するための十分な情報を集められているからです。
しかし、プライバシーやセキュリティ面ではどうでしょうか。多くの健康関連企業が人々のデータを販売していることは証明済みです。しかし、Appleにしては珍しく、ResearchKitにより提供されるデータ内容をAppleが見ることは決してないと言及しました。そのほとんどが医療研究、個人的な患者のケアなどに使われることを考えればこれは、良いことです。しかし、研究機関や病院、医師が誰と情報を共有するかは彼ら次第ということになります。
同様に、Appleは昨日、Research Kitはオープンソースになると言いました。つまりそれは、おそらく、セキュリティの研究者たちが外部から手を加えることができ、情報漏洩やセキュリティホールを塞ぎ、脆弱性を認識するため、ResearchKitのために作られたアプリは、どれも同じように安全である(または、少なくとも安全である可能性が高い)ということです。この場合、オープンソースだからといって、ResearchKitがApple以外の製品、またはiOS以外のデバイスにすぐに対応することになるとは思いません。(ですので、GoogleやMicrosoftもじきにこの領域のサービス製品を発表するでしょう)。しかし、それでも本当に人を助けたいと思っている開発者や非営利団体、資金繰りが厳しい医療関係者たちが参画して、人助けできるということです。
HealthKitはギミックに過ぎないが、ResearchKitは実際に人を助ける可能性がある
AppleのHealthKitは、他の多くの健康追跡装置やアプリと同じような方法で使えます。活動レベルを追跡し、消費カロリーを見積もり、食事を管理する助けになります。こういった全ての機能には既に馴染みがあるでしょう。これらの機能は非常に良いのですが、大量に情報を取得しても健康増進にならないことは立証済みです。これをResearchKitと混同しないでください。これに引き替えResearchKitはあなたのデータをあなた(や他の人)を助けるために実際にデータを使う人へと送り、これらの人がより良いツールを作ることができるプラットフォームを提供するため、非常に有望なのです。
医師や病院は、すでにResearchKitを上記で紹介したように喘息のために使っています。Appleの発表によると、ResearchKitアプリは、パーキンソン病の人が器用さ、バランス感覚、機敏さなどを測定できるように設計されているということです。他にも、糖尿病患者が状態を管理するのに役立つものとして作られたアプリや、心臓病リスク測定に役立つことを目的として作られたもの、さらには、乳がん患者が治療後の経験を追跡する助けになるものまであります。次に何が出てくるか楽しみで仕方ありません。
Title photo made using Natykach Nataliia (Shutterstock). Additional photos by Intel Free Press and HealthGauge.