心を削らない働き方』(山口由起子著、 阪急コミュニケーションズ)の著者は、30代、40代女性を対象に、コーチングをベースにした個人セッションをしている人物。その仕事内容について、「まえがき」にこう記しています。

私は、仕事の悩みを持つひとたちの相談に乗る仕事をしています。たとえば、悩みを生み出す原因を取り除いたり、仕事の方向性を整理したりするお手伝いのようなことです。(2ページより)

相談に訪れる人を見て感じるのは、「熱心に仕事に取り組んで、顧客から信頼を得て、同僚や上司からも一目置かれているにもかかわらず、表情が晴れないひとが多い」ことだとか。そういう人は口をそろえて「仕事はうまくいっているけど、自信がない」と言うといいますが、それは著者自身も同じだったのだそうです。

つまり気持ちを共有できる立場に立って、本当の自身を育てるための方法を記したのが本書だというわけです。Chap.2「自分の味方になって、安心感を取り戻す。」から、いくつかを拾ってみます。

自分との戦いは、自分を弱くする

「自分に甘くすると、ダメになる」と思っている人は、「自分との戦いを続けていると、心身ともに鍛えられて、強くなる」と思い込んでいることも。しかし、自分との戦いは自分を弱くすると著者は主張します。

理由は、自分との戦いを続けていると緊張状態のなかで毎日を過ごすことになり、休まるヒマがなくなるから。自分は「敵」なので、自分自身から攻撃されないように、絶えず警戒していなければならない。それが24時間365日続くのですから、常にピリピリしながら過ごすことになります。

このような状態を続けていると、外からは強く見え、「できる人」のように思われることもありますが、内面は、中身が無視に食われてスカスカの柱のようにもろいといいます。だからちょっと注意されただけで落ち込み、ひどい状態になると、バタッと会社に行けなくなることも。

がんばり続ける限り、強くなるどころか、どんどん弱くなっていくわけです。(56ページより)

自分のせいにするのを、やめる

自分を敵にしてしまう人は、失敗やうまくいかない原因を自分のせいにしがち。過剰に責任を感じ、自分自身を責めるそうです。でも、人は強い思い込みを持っていると、それを強化するために事実をつなぎ合わせて理屈をつくるもの。「自分はダメだ」という思い込みがあると、具体的にうまくいかないことがあったとき、原因を真っ先に自分自身に求めるのだそうです。

そこで、自分自身のせいにすることをやめて、「自分はダメだ」の強化をストップする。癖として染み付いてしまっているので簡単ではありませんが、「自分のせいだ」という気持ちが出てきたら、フタをせずに受け取る。気持ちを流れるままにする。そして気がすむまで責めたら、別の角度から物事を見てみる。

ここで大切なのは、「自分の手の届かないところにも、失敗の原因はあるのではないか」という視点で見ること。つまり「ひとつの現象が起こるには、いろいろな原因が積み重なっている」ということを実感する。その一部を、自分の責任として受け取るようにするというわけです。

「とはいっても、自分があそこで間違えなければ...」と、別の理屈から攻撃したくなるようなときは、攻撃させておくのではなく、「大丈夫だよ」とただ受け止める。モヤモヤとした気持ちは残るかもしれませんが、やわらかい言葉で受け止めて気持ちをおさめることで、心のなかからとがった刃物が消えるといいます。(60ページより)

自分の味方になる

自分の味方になると、「自分はダメだ」という前提から生まれる不安が消えるため、むやみにがんばる必要がなくなり、いつもリラックスしていられるとか。リラックスできる理由のひとつは、心にセーフティネットが張られるから。ドーンと落ち込みすぎたり、不安でたまらなくなるようなことがなくなるそうです。

自分との戦いをしているときは、落ち込んだ自分をとことん責めるもの。でも自分の味方になると、落ち込んでも、自分で追い打ちをかけることをしなくなる。もちろん人間ですから感情の波はありますが、慣れれば自然とある一定の沈み込みでおさまり、回復もスムーズになるのだとか。

リラックスできるもうひとつの理由は、自分を尊重できるようになるから。「自分はダメ」が前提のときは環境に左右されやすく、うまくやっていくためにがんばり続けなければならなかった。しかし自分の味方になると、求められることに応じるだけでなく、自分自身を尊重し、「できないことは、できないと伝える」という選択ができるようになる。無限にがんばらなくてもよくなるので、安心していられるわけです。(71ページより)

頑張りすぎることも、緊張でピリピリすることも、いつでもやめることができます。リラックスして毎日を過ごすことは、誰にでもできることなのです。(74ページより)

もし、このフレーズに少しでもピンときたとしたら、本書をぜひ読んでみてください。

(印南敦史)

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