話題2024年、「荷待ち2時間ルール」の適用がいよいよ本格化した。国土交通省は「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」のなかで、「荷待ちや荷役にかかる時間を2時間以内に収めること」を定めた。この規制強化を受け、多くの企業がバース予約管理システムの導入に動き出している。しかし、果たしてシステムの導入だけで課題は解決するのか。
物流効率化ICTソリューション「LogiPull(ロジプル)」としてバース予約管理システムの開発も手掛ける株式会社シーイーシー(CEC)の答えは、意外にも「ノー」だ。なぜなのか、一方で、同社は「ソリューションの組み合わせ次第で課題は解決できる」と言い切る。同社でバース予約管理システムの開発をけん引するキーマンに、その真意を聞いた。
バース予約管理システムだけで荷待ち2時間ルールを守れるのか
「バース予約管理システムだけで荷待ち2時間ルールを守れるのか」という記者の質問に対し、エリア統括事業本部西日本サービス事業部第一サービス部部長の今村純氏は、「バース予約管理システムだけでは難しいケースもある」と答えた。
その理由は、バース予約管理システムでトラックの到着時間を管理できても、庫内作業の前後工程まで効率性が向上するとは限らないからだ。トラックが到着するまでに積み下ろしなどの作業が完了していなければ、結局ドライバーを待たせることになりかねない。待ち時間を完全に解消するためには、前後の工程を連携し、生産性を向上させる仕組みが必要だという。
今村氏は「もちろん、バース予約管理システムを導入するだけでも一定以上の効果は得られる」としながらも「バース予約管理システムを導入しているにもかかわらず、荷待ちが発生している現場も少なくない。業務フローの見直し、根本的な要因特定ができていないと、システムをいれても現場は疲弊するばかりだ」と話す。
DX化を真に機能させるのは各工程の「連携」
庫内の効率化を図る手段として、DX(デジタルトランスメーション)を思い浮かべた方も多いだろう。しかし、自動倉庫やマテハン機器(マテリアルハンドリング機器)を導入してみたものの、思ったほど効率が上がらなかったというケースは多い。そうしたケースを見ると、庫内物流と輸送との連携が取れていないことがほとんどだ。これではトラックが時間通りに着いても、スムーズに荷物を運び出すことは難しい。
柄谷昌良氏(エリア統括事業本部 西日本サービス事業部 第一サービス部 グループマネジャー)は現状を分析して「バース予約管理システムが認知されはじめたのに対し、各工程の連携の必要性はまだ十分に認識されていない」と話す。
前後工程を含む物流を最適化するには
各工程を連携させる媒体として、今村氏は「WES(倉庫運用管理システム)」を提案する。WESの役割はまさに、ロボットやシステム、作業員を含めた庫内の動きを総合的にコントロールすることにある。
シーイーシーの西山充氏(営業本部 西日本営業部 グループマネジャー)は、自社の「LogiPull WES(ロジプルWES)」を例にとって、WESがいかに各工程をつなぐかを説明してくれた。
WMS(在庫管理システム)と連携させた場合、WESはWMSから取り込んだ入出荷情報を取得し、作業スケジュールを自動生成する。WESはそのスケジュールをもとに、トラックの到着時間や入出庫の時間を突合し、マテハン機器や作業員に適切な指示を送ることができる。
WESは庫内の横の動きはもちろん、上層と下層をつなぐ縦の動きも円滑にしてくれる。作業員がAGVで貨物を送ったつもりでも、到着先の作業員がそれに気づかず、エレベーターに貨物が乗りっぱなしということも多々起こる。こういったケースではAGVとエレベーターをWESで連携させれば、自動で荷物の受け渡しが可能になる。こうした庫内の物流を円滑にすることもまた、入出庫にかかる時間と手間を短縮することにつながる。
自動倉庫とバース予約管理システムを連携させた例では、バース予約管理システムが入場した車両を検知し、その車両が積み込む予定の荷物を特定。出庫準備ができていない場合は、自動倉庫にその荷物の出庫作業を優先的に行わせることもできる。AGV(無人搬送車)と連携させれば、出荷準備ができた状態でトラックの到着を待つことも可能だ。
導入後のイメージを共有
WESの応用の幅は実に多種多様だ。シーイーシーには、大量の航空貨物を扱う空港で生じた、トラックによる渋滞を解消した実績もある。コストや事業規模に応じて、必要な機能を追加、カスタマイズできることは、同社の大きな強みだ。
LogiPull WESには、作業の進捗状況を数値やグラフで表現する機能も備わっている。作業の見える化をすることで、現場の状況が把握しやすくなり、データを課題の抽出や改善に役立てることも可能になる。
シーイーシーは運用開始後に見解の相違が生じないように、導入時には現場と綿密なコミュニケーションをとる。顧客からのヒアリングを徹底し、業務内容を正しく理解して初めてスムーズな運用が可能になると考えているからだ。WESはいわば、物流現場全体を俯瞰するシステム。開発側には、現場の状況や意見を正確に汲み取れるスキルと経験が求められる。
1968年の創業以来、シーイーシーはシステムインテグレーターとして第一線を走り続けてきた。LogiPullは、物流業界向けのシステムとして開発され、現在70社を超える導入実績を持つ。柄谷氏も「システム導入にはまとまった費用がかかる。導入に際して慎重になるのは当然のこと。その点、われわれは具体的な運用例を提案できるため、導入後のイメージを共有しやすい」と自信をのぞかせる。
さらにLogiPull WESは機器のメーカーや設備を問わず連携できる。各工程の連携が進まない理由にシステムの標準化がなされていないことが挙げられるが、シーイーシーのWESは、メーカーの垣根を超えた連携が可能だ。
課題はWESの認知度アップ
徐々にではあるが、バース予約管理システムの必要性は業界に浸透しはじめた。行政の後押しもあり、「荷待ち時間短縮にはバース予約管理システム」といった雰囲気も醸成されつつある。しかし、その一方でWESは存在自体を知られていないケースも多いという。
倉庫と路上をつなぎ、物流を最適化するために、シーイーシーは引き続きWESの認知度アップに努めたい考えだ。すでに述べたように、トラックの到着時間をコントロールするだけでは荷待ち2時間ルールは守れない。これからはバース予約管理システムをはじめとした各種システムと、WESをセットにした提案がスタンダードになっていく。
その際の説得材料になり得るのが、WESが持つ拡張性の高さだ。WMSとWESとの違いが十分に理解できておらず、機器導入のたびにWMSを改修していく現場も多い。そうすると、工程に合った新しい機器を導入するごとにまとまったコストや手間が発生することになる。また、複数の拠点を一元管理する場合にも、拠点ごとの特異性をWESが吸収することで、全体の効率化を図ることができる。
シーイーシーはシステムインテグレーターとして、そういったメリットを積極的にアピールしていく。それが結果としてバース予約管理システムが十分に機能するための下地になり、荷待ち時間の短縮につながるからだ。