これまで15年以上、仕事場で原稿を書く環境はずっとWindows上だった。UNIXやLinuxのシステムを運用していた時期もあったが、その上で原稿を書いたことはほとんどない。あくまでも特定の目的に特化したシステムだったり、単なる実験環境としての利用であった。
それがこの3月から原稿をMac、初代Mac Proの上で書き始めている。もちろん、いきなり書き始めたのではなく、ここ2年あまり海外出張などの機会にMacBookで原稿を書いてみて、これなら行けそうだ、と思ったからである。とはいえ、Windowsと縁が切れたわけでもなく、Mac OS X上の仮想環境内はもちろん、デスクトップPC、ノートPCを問わずWindowsマシンの利用も続いている。原稿を書くメインマシンにはできても、100%完全にMacへ移行することはできないだろう、というのが今の自分自身での予想だ。
この予想が当たるかどうかはともかく、仕事マシンをMacに切り替えるうえで、一番悩んだのは実はキーボードだった。筆者はこれまでWindowsマシンで、1994年製の古いPS/2インタフェースのキーボードを愛用してきた。IBMのキーボード事業がLexmarkへ売却された翌年に作られたメカニカルスイッチ採用の英語キーボードで、これまで10年近く筆者に仕えてきてくれた(使い始めたのは購入して3〜4年してからのことだ)。ところが、PS/2ポートのないMacでこのキーボードをそのまま使うことはできない。USBアダプタを用いて使う、という手もあるのだが、アダプタとキーボード間の相性問題もあれば、アダプタ経由では起動時のOptionキー(PCの英語キーボードではAltキー)操作が利かない、といった問題もある。
何より、1994年製のキーボードにはいわゆるWindowsキー(USBの規格的にはGUIキー)がない。Windowsキーは、アップルのキーボードではCommandキーに該当する。WindowsではWindowsキーはなくても致命的ではないが、Commandキーが使えないとMac OS Xの操作はかなり困難になる。古いキーボードにこだわるより、そろそろ新しいキーボードに切り替えるべきだと判断した。
問題は、どんなキーボードを選ぶべきか、ということだ。おおざっぱに言えば、Macで利用可能なキーボードは、
1.アップルの英語キーボード
2.アップルの日本語キーボード
3.PC用の英語キーボード
4.PC用の日本語キーボード
の4種類がある(1と2にはMac用のサードパーティ製キーボードも含まれる)。
これまでWindowsで英語キーボードに慣れ親しんできたことを考えれば、1を利用することが最も自然な流れに思われた。アップルのキーボードであれば、イジェクトキーのような特殊キーも問題なく使える。しかし、これには大きな落とし穴があった。筆者はどうしてもアップル純正キーボードのタッチ感になじめないのである。
現在、アップルのデスクトップ機(Mac miniを除く)には、薄いアルミベースの「Apple Keyboard」が付属する。なかなかスタイリッシュなキーボードではあるのだが、いかんせん長時間テキスト入力するユーザーに適したキーボードではない。同じキャラメル状のキートップではあるものの、MacBookのキーボードのほうが、ベースユニットがしっかりしている分、まだ打ちやすい。
筆者の手元には、以前Macに添付されていた透明なアクリルベースのキーボードもある。しかし、こちらは筆者の感覚的に打鍵感がもっさりと重くて、やはりダメなのである。では、ということでサードパーティ製のキーボードを探すが、あまりよいものが見つからない。PCに比べて、キーボードの選択肢はかなり狭いのではないかと思う。
正式にMac対応をうたっていて、打鍵感に定評のあるキーボードというと、PFUのHappy Hacking Keyboard Professional2(HHKB Pro2)くらいしか思いつかない。確かに悪くない(むしろとてもよい)キーボードではあるのだが、その姿形があまりにもストイックすぎて、視覚的な部分を含め筆者にはちょっと辛い。
ならばということで、PC用のキーボードを利用する方針を固める。中にはMacでの動作保証をうたっていない製品もあるが、実際に動作すればよしとした。けれども、バリエーション豊富なPC用キーボードにしても、USB接続でWindowsキーを備え、納得のいくキータッチのキーボードとなると、それほど多くはない。上述のHHKB Pro2、東プレのRealforceシリーズ、富士通コンポーネントのリベルタッチ、そしてダイヤテックのマジェスタッチというところだろうか。そのうち、英語キーボードはHHKB Pro2、日本語キーボードがRealforceとリベルタッチ、唯一マジェスタッチのみが英語と日本語の両方をラインアップしている(Realforceにも英語キーボードはあるのだが、PS/2のみ)。
このうち筆者は、マジェスタッチの英語キーボード、Realforceとリベルタッチの日本語キーボードを所有している。本当はRealforceの英語キーボードも持っているのだが、これはあいにくPS/2インタフェースだ。Macに接続するにはUSBアダプタが必要となるので、とりあえず候補から外す。
手持ちのUSB接続のRealforceは、91Uという10キーのないタイプで、しかもジャストシステムの直販「Just MyShop」で扱っている「Realforce91Uカスタマイズキーボード for ATOK」と呼ばれるもの。どの辺が「カスタマイズ」かというと、Escキーと半角/全角キーの入れ替えと、CtrlとCapsLockの入れ替えがディップスイッチで設定でき、入れ替えた場合用のキートップがちゃんと付属するあたりだ。「for ATOK」なのは、通常Ctrl+F7やCtrl+F10など2キーストロークが必要になる単語登録やATOKメニューの呼び出しなど、ATOK関連のキー操作を1キーで可能なよう、こちらもディップスイッチで設定できるところである。筆者はこのCtrlとCapsLockが入れ替えられる、というところを評価して購入していたものだ。
いずれのキーボードにしても、PCで使っていたIBMの英語キーボードに比べればはるかにタッチは軽い。とはいえ、どれもそれなりによく作られたキーボードであり、だからこそ具体的に使う予定はなくても買ってストックしておいたキーボードだ。
最初はこれまでの流れもあって、マジェスタッチの英語キーボードを使ってみた。これで問題がなければ、これほど都合がよいことはない。だが、しばらく利用したところ、どうも使いにくいことに気づいた。入力モードの切り替え(Windows流に言えばIMEのオン/オフ)に割り当てる適当なキーがなかなか見つからないのだ。
これまでWindowsで英語キーボードを使う際、筆者はスペースバーの右にある右AltキーをIMEのオン/オフに使ってきた。もともとはAXキーボードの流れをくむやり方で、今も隠れファンが多いキー割り当てだ。このアサインがMac OS X上でもできればよかったのだが、どうもうまくいかない。Macの英語キーボードで入力モードの切り替えにはCommand+スペースを使うのが一般的なようなのだが、入力モードの切り替えに2つのキーを押すのは、あまり好きではない。しばらく使ってみて、日本語キーボードへ変更する決断を下した。
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