ビジネス用のノートPCはコモディティ化が進んでいる。だから、必要最低限の外観であればそれでいい。飾る必要はない。何よりも実用性を優先し、仕事の成果を守る存在に徹するべきだ。ソニーのVAIO開発チームは、そんなビジネスノートPCの常識を覆そうとし、そして VAIO type Gが生まれた。VAIO type Gは何をもってして常識を変えようとしたのか。開発に携わったソニーVAIO事業本部 Notebook PC事業部の林薫氏と同企画部の大塚純氏に話を聞いた。
──VAIO type Gの企画立案時に最初に決めたことは何でしたか。
大塚氏 「ストレスフリー」を実現したかったという一言に尽きます。従来からあるコンシューマー向けのVAIOでは、所有感を持たせることに尽力してきたことはご存じだと思います。ビジネス向けのVAIOでも、それは、絶対に守らなければなりません。それを守った上で、「堅牢性」を与えようとしたのです。堅牢性を高めれば高めるほど(本体が)厚くなるのは仕方ないですが、それでも、薄さを維持しながら丈夫なVAIOを作ろうとしました。
「ストレスフリー」というのは、物理的な衝撃からVAIOを守ると同時に、VAIOを使うユーザーが、気持ちの上でもストレスを感じないようにするという意味です。
「ソニーが作る(VAIOの)ビジネスモデルとはどのようなものなのか」を考えるスタートの段階で、この概念が出てきました。これまでのVAIOノートは、薄く軽くを常にやってきましたよね。そこに堅牢性を加えようとしたんですが、厚くするという単純なやりかたではダメなんです。なんとかそうじゃない方法で強くしたかったということです。今、VAIOノートの中で最薄なのはVAIO type Tですが、厚み的には(VAIO type Gと)そんなに変わらないんですよ。ノートPCの最厚部の値はバッテリーの厚みに依存しています。それより厚くしたくなかったので、(本体のほうで)小型化がすごく要求されたのです。
ビジネスの現場で求められるモデルなので、TCOなどと所有感をどう両立させるかを考えることに、最も時間をかけて議論しています。この段階で、(林氏が属する企画チームと)開発チームとベクトルを合わせられたと思います。開発が、企画の求めていることを理解してくれたわけです。ビジネス向けのノートPCというと無個性になりがちじゃないですか。でも、それはソニーが作るものではありません。ソニーが作る価値のあるものを生み出したいと考えたのです。ブランドイメージと技術を使って他社でできないものを作るのがソニーなのです。
ただ、営業マンがカジュアルな格好で客先を訪問しないように、あまりに奇をてらったVAIOではダメでしょう。だから、ビジネス向けのマシンとしてひんしゅくをかわないもの(=デザイン)を目指しました。でも、それは決して“無個性”ではないのです。
──ビジネス市場にVAIOの潜在ユーザーは必ずいると考えられたのでしょうか。
林氏 ビジネス向けのサブノートPCを開発するにあたって、1300社のユーザーに調査をしました。驚いたことに、予想以上のユーザーにVAIOを使いたいといってもらえたんです。
VAIOノートはモバイル性能に関して自信がありましたから、そこにビジネスシーンに対応できる要素を加えればいいと。だったら、書類と一緒にカバンに収納できるように、フラットなデザインが必要だということになりました。
それまであったコンシューマー向けのモデルだと格好が良過ぎるところがあるんですね。カジュアル過ぎるきらいがある。そういう、とんがったところが排除されていても、VAIOの素性が生きているような製品を目指しました。
大塚氏 ビジネスにピンポイントで訴えてくるVAIOがなかったということです(編注:過去には、ビジネスユーザーを意識したVAIO type Y、VAIO type BXなどのラインアップもあったが、VAIO type Yは2005年の春モデルのみで、VAIO type BXは2007年の夏モデルまで継続したが“大画面ノートPC”のカテゴリーだった)。実際に(ビジネス向けモバイルノートPCとして)買うときの選択肢がありませんでした。だから、そこに応えたかったのです。
林氏 ただ、見かけは1つの要素にすぎません。今までのVAIOはユーザーのライフスタイル(の向上)を訴求してきたのですが、それでは(製品の)ライフタイムが短いんです。でも、ビジネスは製品のコンセプトを継続させることが求められます。購入したPCも長く使うでしょう。それに、商品だけでは語れない法人営業の世界では、販売体制やサポート体制の強化が必須です。
ビジネスの現場では、ユーザー側に設けられたヘルプデスクの能力がとても高いので、多くのトラブルはユーザーサイドで解決できます。だから、いったん(ソニーのサポートセンターまで持ち込まれる)トラブルが起こると、相当高度なものになりがちです。そういうトラブルでもサポートしなければなりません。
そこで、デバイスなどに関しては、特に信頼のあるベンダーのものを選び、ソフトウェアも悪さをするようなものは入れないようにしました。素のOSに近いものですね。こういった、企業の情報システム部門に評価してもらえるようなVAIO type Gを構築したのです。
例えば、ユーザーに配布するVAIO type GのHDDイメージを作るときに使える、「バイオ設定状態表示ユーティリティ」を提供するようにしました。このユーティリティを実行すると、個々のVAIO type Gの状態が一目で把握できるので、サポートする側は、システムに関する多くの情報を短時間で得られます。
モバイルという視点で見たときに、“一点突破”のソリューションを得意するのがソニーです。でも、その方法を堅持するのはビジネス市場向けの製品において難しいです。なぜなら、修理のしやすさや稼働率の高さがとても重要だからです。
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