これを機として、株の売却だけにとどまらないNTT法の見直しを求めているのがNTTだ。NTT法は40年前の環境を前提としているため現代にはそぐわない規制も多く、それがNTTの事業の制約になっているからだ。
中でもNTT側が見直しを求めているものの1つが研究開発の開示義務である。NTTはNTT法によって、他社に求められた場合自ら研究開発した成果を開示する義務が定められているのだが、これは民営化当初、NTTと新興の通信会社との間に技術などで大きな差があったことから公正競争のため設けられた規制と考えられる。
だが現在この規制によって、NTTが他社と共同研究をしたいと思っても、NTT側に成果の開示義務があることを理由に断られてしまうケースが生じているという。またこの規制は安全保障上の問題も指摘されており、例えばNTTがグループが総力を挙げて研究開発している新しいネットワーク基盤「IOWN」の研究開発成果なども、海外の企業から技術開示が求められたら応じなければならない。自らの研究開発成果を守れず国益を損じる可能性が出てきたことも、見直しを求める大きな理由となっているのだ。
2つ目は、日本国籍以外の人が取締役に就任できないこと。国内市場だけを考慮していればよかった40年前とは違い、現在は通信技術やサービスもグローバル化が進んでいる。それゆえ外国人が取締役に就任できないことが海外の優秀な人材を確保する上で大きなハードルとなっていることから、こちらも見直しを求めている。
そして3つ目が、ユニバーサルサービスとして規定されている固定電話網の維持を求められていることだ。NTT法はNTTだけでなく、公社時代に固定電話網を構築するために整備された土地や局舎、とう道、管路などの資産を受け継いでいる子会社の東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)も対象なっており、NTT東西はNTT法によって、日本全国津々浦々で固定電話網を維持することが求められている。
固定電話網は現在、光ファイバーによるIP電話ベースのサービスと、古いメタル回線によるサービスの2種類が存在するが、NTT側が問題視しているのはメタル回線の方。利用者が減少しており、維持にもコストがかかるメタル回線を廃止したいが、NTT法によるユニバーサルサービス義務で維持が求められているからだ。
実際NTT東西は、メタル回線維持のため約600億円もの赤字を抱えており経営負担も大きい。メタル回線の廃止にはNTT法に何らかの見直しが必要なことから、NTTとしては通信事業者全体に適用される「電気通信事業法」に、固定電話のユニバーサルサービスの規定を移してほしいと主張している。
ただ先にも触れた通り、NTT東西は公社時代から持つインフラを全国に多く保有していることから、政府がNTT株を手放したとなると海外の企業がNTTの株式を買い占め、外資に日本のインフラが乗っ取られることが懸念される。だがNTT側は日本の重要な通信インフラはNTTだけでなく、競合のKDDIやソフトバンクなども保有しているとし、NTTを含む主要な通信事業者を外国為替及び外国貿易法(外為法)で守ることを提案している。
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