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この3年で4回の著作権法改正、いったいどこがどう変わったのか 忘れられがちな改正内容を整理する(1/3 ページ)

» 2021年08月05日 09時54分 公開
[小寺信良ITmedia]

 2016年に汐文社というところから、学校図書向けに「学校で知っておきたい著作権」という本を上梓した。おかげさまで4刷までいく好調さでいまだに売れ続けているのだが、近年著作権法の改正が連発で行われていることから、もう改訂しないとダメだということになった。

 2016年ということは、平成28年である。一方著作権法は、平成30年(2018年)に行われた通常の著作権法改正とTPPによる改正で2回、令和2年(2020年)に1回、令和3年(2021年)に1回と、合計4回の改正が行われている。つまり平成31年/令和元年だった2019年を除いて毎年改正されているわけで、これまでないペースだ。

photo 著作権法の一部を改正する法律(平成30年法律第30号)

 TPPの頃は著作権議論もかなり盛り上がって、大いに注目を集めたものだが、昨今はもう著作権どころではなくなっていて、改正もあまり話題にならないところである。そこで今回は、平成30年からの4回の改正ポイントのうち、主だったところを整理してみたいと思う。

この記事について

この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、一部を転載したものです。今回の記事は2021年8月1日に配信されたものです。メールマガジン購読(月額660円・税込)の申し込みはこちらから。さらにコンテンツを追加したnote版『小寺・西田のコラムビュッフェ』(月額980円・税込)もスタート。

大胆に変わった平成30年改正

 まず平成30年の、通常の著作権法改正内容から見ていくと、以下の4点が柱になる。

  1. デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備(第30条の4、第47条の4、第47条の5等関係)
  2. 教育の情報化に対応した権利制限規定等の整備(第35条等関係)
  3. 障害者の情報アクセス機会の充実に係る権利制限規定の整備(第37条関係)
  4. アーカイブの利活用促進に関する権利制限規定の整備等(第31条、第47条、第67条等関係)

 1のポイントは、「柔軟な権利制限」という部分である。

 これまでも著作物利用の権利制限については、研究や技術開発に限って無許諾でできたのだが、目的が限定的すぎて使えないケースが多かったので、使いやすくしたということだ。

 例えばAIの学習のためにデータを食わせるとか、論文の盗用がないかチェックするために論文をデータベース化して、盗用箇所を比較で表示するみたいなことができるようにした。

 またサーバのキャッシュや保守のためのバックアップを著作権法的にどう扱うのかが不明だったのだが、著作権者の権利を不当に害さない範囲で利用がOKになった。

 加えて、これまで検索エンジンのための複製は許可されてきたが、紙の文書などアナログ情報の検索利用に関しては対象外だった。これも、例えば図書館の蔵書を検索して棚を表示し、見つかった文章の一部を表示するみたいな利用もできるようになった。

 これは、日本でもフェアユースを導入したらどうかという議論の末に行われた改正だ。結果的にフェアユースという概念の導入は見送り、従来の権利制限という穴を大きく、というか、著作権者の権利を不当に害さないなら大抵のことはいいんじゃないか、みたいな方向性で調整した結果である。

 2については、リモート学習に対する大きな改正である。これまでも、教育機関の授業内で利用するのであれば、著作物の無許諾コピーはできた。また授業のリアルタイム配信で使用するのもOKだった。だが、予習復習のために著作物の一部を生徒に送る、みたいなのはNGだった。なぜならば、授業中じゃないからである。

 そんなアホな話があるか、ということで、教育機関であれば、リアルタイム授業以外でもデータ送信ができるようになった。この改正がコロナ禍以前に行われたのは運が良かった。

 一方でこうした利用に際しては、補償金徴収分配団体に補償金を払うというのがセットになった。STARTAS(授業目的公衆送信補償金等管理協会)が発足して、そこに補償金を払うことになっている。金額も、1人当たりの年額で小学生120円、中学校180円。高校からは義務教育ではないので420円と高くなる。

 まあ年額だし、払えば使い放題なので、ある種のサブスクである。支払い義務者は学校の「設置者」となっており、国立なら国が、公立だったら地方自治体が、私立だったら学校法人が払う。オンライン支払いシステムもあり、現場の先生の負担が増えるわけではない。

 3については、これまで書籍の音訳は、視覚障害者の利用に限って許諾なしで許されていたものを、四肢が不自由でページがめくれないといった、視覚以外の障害がある人にも対象を広げた。

 これは日本がマラケシュ条約(盲人、視覚障害者その他の印刷物の判読に障害のある者が発行された著作物を利用する機会を促進するための条約)を締結したことから、拡張されたものである。

 4については、いくつかポイントがある。

 これまでアーカイブ、すなわち図書館や美術館が収集・保存している著作物の利用を活性化していく際に、著作権が足かせになっていた部分が大きかった。それを整備したのがこの部分である。

 例えば国会図書館では、すでに絶版となった著作物等は国内の公共図書館にデータ送信できたが、今回の改正で海外の図書館にも送信できるようになった。

 また、美術館で作品説明のために館内設置や貸し出しタブレット端末に作品を載せたり、ネットにサムネイル画像を載せたりできるようになった。逆にこれまで出来なかったのがおかしいぐらいである。

 一般の人には関係ないが、いわゆる孤児作品(著作権者が分からない作品)を利用するための裁定制度も見直された。

 著作権者が見つからない作品を利用する際には、これまでは使用料相当額を事前に供託して利用していた。この改正では、利用者が国や地方公共団体など確実に支払いが見込めるものについては、供託金は前払いではなく、権利者が見つかったときに後払いするということでよくなった。民間の利用については、これまで通り前払いである。

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