ここまで取り上げた話を整理すると、メールサービスが「キャリアメール」と認識されるための条件として、以下を挙げられます。
では、これらの条件をクリアしたサービスをMVNOが提供することは可能なのでしょうか?
PC向けのメールで一般的に使われているPOP3やIMAP4と呼ばれるメールの通信方式では、プッシュ通知を実現することはできません。キャリアメールでは、POP3やIMAP4をベースに独自拡張した方式や、MMSと呼ばれる携帯電話専用のメールシステムを利用しています。
MMSは携帯電話システムの一部として動作しており、この部分は現在MVNOが利用することはできません。従って、MVNOがMMSでキャリアメールを提供することはできません。
従って、MVNOがプッシュ通知を実現するためには、プッシュ通知に対応した独自の通信方式と対応アプリを開発するか、Microsoft Exchange ActiveSyncプロトコルのようなプッシュ通知に対応したサーバを用意する必要があります。
あまり一般的ではないものを用意しなければならないため、多少の努力は必要ですが、技術的にはMVNOがキャリアメール相当のものを用意するのは不可能ではありません。
MVNOが提供するメールサービスを「携帯電話からのメール」として取り扱ってもらうためには、MVNOではなく各キャリアの迷惑メールフィルターに設定を行ってもらう必要があります。
しかし、現時点では「携帯電話からのメール」として扱われるための基準や、手続きがオープンにはなっておらず、どのような対応をすれば良いかが判然としていません。
コンテンツ提供事業者が期待する、「携帯電話契約との関連付け」「1契約1アドレス」については、契約管理システムをそのように設計すればMVNOでも対応可能です。ですが、仮にMVNOがそのような準備を整えたとしても、その先には大きなハードルがあります。
どのメールアドレスを登録可能にするかは各コンテンツサービスが独自に判断していることで、どこかの団体や窓口が統括しているようなものではありません。そのため、各コンテンツサービスの提供元を1つ1つ回ってMVNOのメールを登録可能にしてもらえるように交渉して回る必要があるのです。交渉しなければならないサービスがどれだけあるかも分からず、その難易度も測りかねるといった状況です。
以上のように、MVNOがキャリアメール的なものを提供するためには、技術的なハードルよりも、各キャリアやコンテンツサービスの提供者との交渉といった、非技術的なハードルの方が高いと考えられます。
一方で、スマートフォン同士の連絡手段としてはLINEを始めとした各種メッセンジャーが普及し、コンテンツサービスでも多重登録防止・本人確認のためにSMSを導入する提供者が増えてきています。
ある意味レガシーなメディアとなりつつあるキャリアメールをこの先どのように位置付けていくのかは、熟慮が必要かと思われます。
堂前清隆
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) 広報部 技術広報担当課長
「IIJmioの中の人」の1人として、IIJ公式技術ブログ「てくろぐ」の執筆や、イベント「IIJmio meeting」を開催しています。エンジニアとしてコンテナ型データセンターの開発やケータイサイトのシステム運用、スマホの挙動調査まで、インターネットのさまざまなことを手掛けてきました。
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